戦いは全力
バトルシーンを書くのがなかなか難しいです。
読みにくいところも多いかもしれませんが、楽しんで書いているので頑張って読んでください。
「それにしても、お姫様って・・・・・・プッ」
「笑うなよ! 僕だって格好つけたかったんだよ!」
親友と突然の結婚を決めた翌朝、僕らは孤児院が所有する畑に来ていた。
先ほど、ここの院長であるアイラに「ガキ共、話があるから裏の畑に来な」と呼びつけられたのだ。
「お前だって旦那様とか言ってただろ⁉︎」
「貴方への愛に恥じるところなどないわ。そうでしょ? 旦那様」
「・・・・・・ずるいぞ、そういうの」
屈託のない笑顔でそんなことを言われたら、何も言えなくなってしまう。これが、先に惚れた弱みというやつだろうか。
「なんなら、これからはずっと旦那様って呼んであげてもいいわ」
「いや、これまで通りでいいから」
「あんたユダって呼ばれるの嫌がってたじゃない。呼び方を変えられるチャンスよ?」
「じゃあ、アストレアって呼んでくれ」
「分かった。じゃあユダだから、『ゆっくん』でどうかしら」
「ごめんなさい! 僕が恥ずかしいんでやめて下さい」
「そう。じゃあやっぱり旦那様ね」
「・・・・・・もうゆっくんじゃなければ何でもいいです」
リーシャは僕の困り顔をのぞきこみ、クスクスと笑っている。
結婚を承諾してからは、どうもリーシャのペースに乗せられているな。いつもなら、僕がリーシャをからかうことの方が多いのだが。
「昨日あんなことがあった後なのに、なんでそんな落ち着いていられるんだ?」
「不思議ね。実行する前は緊張で昂ぶっていたけど、初キスを成し遂げてからなんだか穏やかな気分なのよ。やるだけのことはやった、みたいな」
賢者タイム入っちゃってんじゃん。
しかし、それを抜きにしてもリーシャは小さい頃よりだいぶ大人しくなったよな。
以前は自己中で偉そうにしていたのだが、次第に他人のことも考えられるようになっている。これで、僕とガッシュのことも考えてくれるようになればなお良いのだが。
「なあ、僕たちは昨日結婚したってことでいいのか?」
「そうね。つまり、結婚記念日は11月22日ということになるわ」
「でもさ、まだ教会に結婚の報告をしてないぞ」
「しないわよ、そんなこと」
リーシャはさも当然といった感じだ。
「本気か? 結婚したら教会に報告する決まりなんだろ」
「いいのよ。結婚税取られるだけ損でしょ」
「そのくらいの金はあるから大丈夫だよ。魔道具とか杖とか結構売ってるし」
ちなみに、売り上げ金の内半分は孤児院のために使ってもらい、僕の分は院長に預かってもらっている。
「ガキが気を使うんじゃないよ」と院長に言われたのだが、世話になっているからと強引に説得した。
「分かってないわね。旅費は2人分必要なのよ? お金はいくらあっても困らないわ。それに、一番の理由は他にあるの」
やっぱり旦那様はやめてほしいんだけど。その強気な口調で旦那様って言われると逆に怖い。
「私の大切な旦那様を祝福しなかった神なんて、祈る価値もないってこと。まったく、罰当たりな神ね」
お前の方が罰当たりだろうとは思ったが、僕のために怒ってくれているのは素直に嬉しい。今回は黙っておこう。
「それに、手続きする手間も省けるし」
あれあれ?
「なあ。僕のことを建前にしてるけど、結局ただ面倒だっただけか?」
「あ、院長がいたわよ」
単に面倒臭かっただけだな。誤魔化すの下手すぎだろ。
「遅かったじゃないか」
「悪かったわ。で、こんな所に呼び出してどうしたのよ」
作物を収穫したばかりの畑。その真ん中で、僕らを呼び出した張本人である院長が、仁王立ちしていた。
院長の年齢は40近いはずだが、とてもそうは見えない。20代でも普通に通る容姿だ。
「あんたら、ちゃんとくっついたのかい?」
「・・・・・・気づいてたのね」
「当たり前さ。私に隠し事なんて、100年早いんだよ」
院長はドヤ顔で言い放った。
「気づいてたならさっさと言いなさいよ! ユダが私にぞっこんだって分かってたら、あんな恥ずかしいことしなかったのに!」
さっき「貴方への愛に恥じるところなどないわ」って言ってたのは誰だよ。やっぱり恥ずかしかったのか。
あと、勝手にぞっこんとか言うな。事実だけど。
「そんなことしたら面白くないだろう。それに、知ってて隠してたのはガッシュだって同じさ」
「・・・・・・あいつ、潰す」
ガッシュのやつ知っててリーシャを焚きつけたんだな。隣にいるリーシャの殺意が割と本気なのが怖い。
「そりゃ無理さ。あいつは昨日うちを出て行ったよ」
「え?」
じゃあ昨日森で会ったのは、孤児院から出て行く途中だったのか。やたら軽装だったけど。
まあ、あいつは小さい頃から僕よりずっと強かったしな。冒険者にでもなればすぐ稼げるだろう。ガッシュの心配なんてするだけ無駄だ。
「ガッシュのことはいいさ。それより、お前達もくっついたんなら早く出ていきな。うちにはデッカいガキを2人も遊ばせとく余裕はないんだよ」
「それじゃあ・・・・・・」
「ああ、お前達も今日から大人だ」
僕たち孤児は誕生日が曖昧だ。だから、成人したかどうかは院長が決めてしまうことが多い。
おお、とうとう僕も大人の仲間入りか。なんだか感慨深いな。
「で、お前達。私に隠れて鍛えてたみたいじゃないか」
「それもお見通しなのか!」
僕はびっくりして目を見開いた。
「リーシャはともかく、あんたが驚いてるんじゃないよ! 何回服をボロボロにして帰ってきたと思ってるんだい!」
院長がすごい形相で怒鳴っている。
それもそうか。独学で修行を始めてすぐは何度も死にかけたし、そりゃ見てれば気づくか。
「これでも、昔は八大剣豪なんて呼ばれてたのさ。だから、出て行く前に身の程をわきまえさせようと思ってね」
なるほど。駆け出しの冒険者が調子に乗って死ぬのはよく聞く話だ。そうならないように、釘を刺そうってことだな。
なんとも不器用な優しさだが。
「さて、早速始めようじゃないか。まずはどっちが相手だい? なんなら2人同時でも構わないよ」
院長はどこからか2本の剣を取り出すと、片方をリーシャに向かって投げた。リーシャは危なげなくキャッチし、剣をじっくりと眺めている。
「私から行く。でも、これは返すわ」
リーシャは受け取った剣を投げ返し、どこからか自分の剣を取り出した。
院長もリーシャも魔法が使えるから、多少の荷物は空間魔法で持ち運びできるらしい。魔力のない僕には出来ないので、手荷物が減らせるというのはうらやましい限りだ。
2人の剣も、その魔法で取り出したのだろう。
「院長は二刀流だって師匠から聞いた。私は自分の剣を使うわ」
ふむ、これはなかなかの業物だ。通常よりかなりの大きく、斬れ味は申し分なさそうである。
剣は作ったことはないが、杖とかは作ってるしそれ位は分かるのだ。
「師匠? いつの間にそんなものを。お前達は小さい頃からいつも勝手にほっつき歩いて・・・・・・。まあいいさ。それじゃ、本気でかかってきな」
院長は何気なく立っているだけだが、意外と隙がない。元八大剣豪は伊達ではないようだ。八大剣豪が何かは知らないんだけどね。
一方、リーシャは目を閉じたままじっと剣を構えている。今回は相手が剣士だし、魔法は使わないようだ。詠唱の途中で攻撃されたら終わりだもんな。
「行くわ!」
リーシャが突然声をあげ、院長との距離を詰める。そのまま相手を斬ろうとするが、院長はかろうじて剣で受けとめた。
「・・・・・・っ。へぇ、やるじゃないか」
「師匠のおかげ。まだまだこれからよ」
リーシャは次々と攻撃を繰り出していく。院長は2本の刀でいなしていくが、防戦一方だ。
「そっ、そこまで!」
リーシャが50回ほど斬撃をはなったところで、院長が戦いを止めた。
「ま、まあこれくらいの実力があれば、冒険者としては問題ないね。精進しな」
院長は完全に息が上がっている。一方、リーシャは呼吸一つ乱れがなかった。
「じゃあ次はユダの番だね。位置につきな」
院長は何事もなかったかのように剣を鞘にしまい、リーシャからそっと離れた。
こんなに強いとは思わなかったんだろうな。正直、僕もリーシャがなぜこんな強いのか詳しくは知らないし。
「お前は手ぶらみたいだね。剣は貸してやるからこれを使いな」
「いや、僕は剣士じゃないから」
院長は少し驚きの表情を浮かべた。
魔力が無いのを補うなら、確かに剣士が自然だよな。弓とかは魔法と組み合わせて使われることが多いし。
「素手で戦うなんて言うんじゃないだろうね」
「いや、これを使う」
僕は上着の内側から自分の拳銃を取り出す。
「飛び道具なんてあんたらしいじゃないか。じゃあいつでもかかってきな」
院長は興味なさげにこちらを一瞥すると、ゆったりと剣を構える。
「待ちなさい」
すると、それを黙って見ていたリーシャが突然止めに入った。
「油断してる院長じゃ、旦那様の相手にならない。代わりに私が戦うわ」
「「えっ」」
そんなことをしたら、僕らを増長させないという当初の目的が果たされない。だが、実際院長と戦うのは気が引けた。手が滑って怪我でもさせたら大変だ。
院長は「馬鹿なこと言うんじゃないよ」という顔をしていたが、リーシャの本気の表情を見て思いとどまったようだ。
少し考えた後、院長は2本の剣を鞘に納める。
「い、いいさ。飛び道具なんか当たるとは思えないが、そこまで言うなら見せてもらおうじゃないか」
「分かったわ」
リーシャは僕から距離を取り、臨戦態勢に入った。
院長は僕の力量どうこうより、自分の体力が心配になったんだろうな。よろけて銃弾が当たったりしたら大変だし。
今も平然としてはいるが、今も額から汗が滝のように流れている。リーシャとの戦いで相当消耗したようだ。
「本当にやるのか?」
「そうよ。終わったら、ちゃんと私の傷を治しなさいよ」
「それはいいけど・・・・・・」
僕らの会話を横で聞いている院長が、「何言ってるんだか」みたいな表情をしている。そりゃ、自分と互角以上の戦いをしたリーシャに、魔力のない僕が傷を負わせられるとは普通思わないだろう。
「最初に罰ゲームを決めておきましょう。勝ったら相手の言うことをなんでも聞く。いいわね?」
拒否権はなさそうだ。別に構わないが。
「ちなみに、あんたが勝ったら、旅の間の行き先は全部決めさせてあげる」
「え、罰ゲームは自由に決められるんじゃ無いのか?」
「行き先は全部決めさせてあげるわ」
「・・・・・・分かったよ」
なんて一方的な条件だ。怖いから逆らわないけど。
「じゃあ、お前が勝ったら僕は何をすればいいんだ?」
「そうね。手始めに、何でも言うことを聞かせる権利を100個に増やすわ」
「卑怯すぎる!」
リーシャは臨戦態勢を崩さないまま、こちらをじっと見ている。
「・・・・・・ああ、もう。負けたら何でも言うこと聞いてやるよ」
もう何を言っても無駄そうだ。
リーシャはニヤリと笑うと、突然僕に向かって突っ込んできた。
「先手必勝よ! 死ねぇぇぇぇっ!」
「うわっ! 危なっ!」
僕は慌ててバックステップで回避する。鋭い剣が勢いよく空を切り、体勢を立て直したリーシャが追撃をかけにくる。
おい、結婚早々夫に向かってその掛け声はおかしくないか? 回復薬は持ってるが、即死レベルの傷には効かないんだぞ。
「仕方ないな。くれぐれも直撃は避けてくれよ」
僕は弾丸を3発射出する。それらはリーシャの手間で地面に突き刺さる。
「なんだいありゃ、銃すらまともに使えないのかい」
院長が畑の外でそんなことを言った。だが、弾を外したのはもちろんわざとだ。
「・・・・・・っ!」
リーシャは慌てて後ろに跳び退く。
すると、弾丸から太い植物の蔦が伸びていき、彼女を襲った。
「相変わらず鬱陶しいわね!」
文句を言いながらも、リーシャは襲いくる2本の蔦を切り捨てていく。
蔦は切られても再び伸びて彼女を襲い続けたが、やがて弾丸の効果が切れ、そのまま朽ちた。
そう。これが僕の武器『魔弾』だ。
弾丸に野草から抽出した魔力を込め、それを銃で射出する。すると、着弾した衝撃で魔法が発動し、弾の種類によって様々な現象を引き起こす。
これなら、魔力がない僕でも使えるし、何より詠唱しなくていいから隙が少ない。まさに、自分の魔法に頼らず野草と寄り添ってきた僕だけが成せる業だ。
リボルバーに装填できるのは1度に8発で、再装填に多少の時間がかかる。弱点といえるのはこのくらいだが、何度も訓練した僕なら2秒あれば装填できる。
ちなみに、さっき撃ったのは『草弾』。リーシャには名前がダサいと言われたが、魔弾なんて僕以外使わないんだし別に構わないだろう。
「ほら、次いくよ」
さっき撃った弾は3発。しかし、蔦は2本しか出ていない。
僕は遅れて発動した3発目の弾丸『風弾』の辺りを狙い、続けざまに2発射出した。
『風弾』はその名の通り強力な風を引き起こす。そして、追加で発射された2発の『炎弾』から炎が撒き散らされ、風弾が巻き起こした風に乗ってリーシャを襲った。
「・・・・・・くっ!」
リーシャは大きく跳んで後ろに下がるが、炎をギリギリで避け切り、弾丸の射程圏外に逃れた。
さすがにこの程度ではダメージを与えられないか。
だが問題ない。リーシャを遠ざけることこそが僕の狙いだ。
「昨日言った通り、新しくできた広域破壊魔法を見せてあげるよ。後でちゃんと回復させるから、少し我慢してくれ」
僕はリーシャが着地する直前、彼女の上空めがけて2発射出し、少し遅れて追加の1発を撃った。
何かを察したのか、リーシャは恐怖の表情を浮かべる。しかし、着地と同時に発動した魔法を回避することは不可能だった。
次の瞬間、辺りは眩しすぎる光に包まれ、鋭い轟音が鳴り響く。
院長はその衝撃的な光景を目の当たりにし、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
リーシャの日記
「・・・・・・どうやら本当に、言われたことをひと月続けたようですね」
約束の日、私の師匠であるナタリアはちゃんと来ていたわ。
しかも、私のことを見て驚いているみたい。
「分かるの?」
「ええ。1度でもサボっていれば、一目ですぐ分かります」
さすがは八大剣豪だと言い張るだけのことはあるわね。意外と優秀な人を師匠にできたのかもしれないわ。
「7歳の子供にはきつい内容だったはずですが・・・・・・。いいでしょう。あなたの本気、見せて頂きました」
そう言って、師匠は背負っていた巨大な剣を私に渡した。
そうしたら、その剣がいきなり小さくなったの。重さも、思ったより軽いみたい。
「その剣は『ローデルシア』といいます。持ち主の力量に応じた大きさになり、大きくなればなるほど威力があがります」
「もらっていいの?」
「はい。私にはもう不要ですから」
「えっ?」
「私もそろそろ引退しようかと思ってましたので、ちょうど良かったです。知り合いの八大剣豪も数年前に引退しましたし、私もそろそろ潮時でしょうから。冒険者を辞めたら、彼女のように孤児院でも開きましょうか。お金はたくさんありますし」
この人、大人しそうに見えて意外とおしゃべりだわ。なんか不安になってきたわね。
「目標は、成人するまでにA級レベルの冒険者になることです。つらい修行が続きますが、頑張れますか?」
「もちろんよ」
私は力強くうなづく。例えどんなことが待っていようと、必ずユダに追いついて見せるわ。
そして、ユダにふさわしい女になれたその時、ガツンと結婚を申し込んでやるの。
待ってなさい! 絶対に結婚を拒めないようなすごい女になってやるんだから!
そうして、もうすぐ15歳になろうという頃。師匠の元で修行した私は、いつの間にかS級のドラゴンを、1人で倒せるようになっていた。
人物紹介
リーシャ=アストレア
ユダ=アストレアの妻。金髪で白い肌の西洋風美少女。小さい頃からユダが好き。好戦的な性格。
遠い地に伝わる特殊な魔法を使用可。両親はリーシャが5歳の時に亡くなり、孤児院に預けられる。
得物 ローデルシア