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ヒロインはツンデレ

後半にある、リーシャの日記は本編と時系列が別なのでご注意下さい。リーシャ(7歳〜)が圧倒的な力を身につけるまでの経緯を順を追って書いています。

 


「で、何か弁解したいことはあるかしら?」


「遅れたのは悪かったよ。でもそれはガッシュが・・・・・・」


「言い訳は聞きたくないのよ!」


  理不尽だ。相手がゴブリンやオークであっても、リーシャよりは話が通じる気がする。


「世の中に私の呼び出しより優先されるものがあるの? あるなら言ってみなさい」


「は? そんなのいくらでもあ・・・・・・」


「返答によっては、死人が出るわよ?」


  なぜか正座させられている僕の目の前で、リーシャが凄みのある笑みを浮かべた。


 怖い。今すぐにでも逃げ出したい。


「ないです」


「そうよね。じゃあ、この私を10分も待たせた事に対して意見を述べなさい」


「反省しております。申し訳ありませんでした」


「私の経験上、ごめんなさいとか申し訳ないとか言う奴は、絶対心の中ではそんな風に思っちゃいないのよね」


  経験上って言うが、僕と同い年なんだからまだ14歳だろうが。お前の幼少期に一体何があったんだ。


「じゃあどうすればいいんだよ」


「知らないわよ。自分の命の値段くらい、自分で決めたら?」


  人を勝手に呼び出しておいて、たった10分待たせたくらいで命を取ろうとするとは、こいつ何様のつもりだ。

 

「掃除当番1回代わるってのはどうだ」


「あんた魔法使えないんだから大変でしょ。掃除くらい自分でやるわよ」


「じゃあ今晩のデザートやるよ。それでいいだろ?」


「うちの夕食にデザートなんて贅沢なものあるわけないでしょ。ふざけてると削ぎ落とすわよ?」


  何を? とはさすがに聞けなかった。怖さばかりが伝わってくる。


「森でシェリーの実を見つけたんだ。特別に半分分けてやってもいいぞ」


  甘くてみずみずしいシェリーの実は、子供から大人まで大人気の食材だ。素人には見つけにくく、なかなか出回らないレアな代物である。


  だが、野草研究のために森を調べ尽くした僕にとって、シェリーの実を見つけるのは造作もない。甘い物に目がないリーシャなら、絶対のってくるはずだ。


「・・・・・・っ! 今日はその程度の条件で引き下がるつもりはないわ!」


  ん? 今日はなかなか強情だな。こいつが食欲を我慢するとは。


「そうか、残念だな。じゃあこれは僕が食べることにするよ」


「・・・・・・あんたがそこまで言うなら、別に食べてあげてもいいわ。でも、それで遅刻を許すつもりはないから!」


  リーシャが涙目で僕をにらんでいる。そんなに食べたいなら、素直にもらっとけばいいのに。


  それとも、何か僕にのませたい条件でもあるのか?


  まさか・・・・・・。


「仕方ないな、特別だぞ。怒らせたら世界一怖いといわれるあの院長が、昔仲間の冒険者と恋仲だった時の話をしてやろう」


「聞きたいっ! いつもアイアンクローで私たちを折檻するあの怪力女が、一体どんな男といちゃついてたのか気になる!」


  お前がアイアンクローを食らうのは自業自得だから。何もしてないのに、連帯責任だとかいって巻き添えを食らう僕とガッシュの気持ちも考えろよ。


「じゃあ交渉成立だ。院長の昔なじみが来た時こっそり聞いたんだが、初めてのキスは平原で魔獣に囲まれてる最中・・・・・・」


「ああああああっ! すごい気になるけど聞こえないわ! この程度の条件に屈したりなんかしないんだからっ!」


  リーシャは両手で耳を塞ぎ、大声で僕の話を遮ってきた。


「あああああのお堅い院長が平原のど真ん中で⁉︎ しかも戦闘中にファーストキスなんてアリなの⁉︎」


  めちゃくちゃ興味津々じゃないか。リーシャだって年頃の娘だし、15歳になれば結婚だってできる。もっとも、農村などでは成人前に母親になることもよくあるらしいが。


「お前、孤児院を出る時のために新しい杖が欲しいって言ってたよな。それを作ってやるっていうのはどうだ?」


「あんたが作る杖って、めちゃくちゃ高値で取り引きされてるやつでしょ?」


「ああ。普通に買ったら、3万ミスラらしいな」


  僕は魔力が無いことを隠さなければならないので、あまり孤児院の外には出ない。なので、杖などの魔道具や野草から作った薬は院長に売りにいってもらうのだが、結構高値がつくらしい。


  最近では、『無名』シリーズと呼ばれてブランド化しているようだ。まあ、僕が孤児院を出た時点で供給がストップするから、すぐに幻のブランドとなるのだが。


「こんなしょうもないことで杖なんて貰えないわよ! 3万ミスラ⁉︎ それ普通に働いたら給料3カ月分くらいあるじゃない!」


  おい今自分でしょうもないことって言ったな? 自覚あるんじゃないか。


「ま、まあ、杖も悪くないわね。でも今回はそれじゃダメよ」


「そうか。なら最後の手段だ」


  リーシャもなかなかにしぶとい。普段なら簡単に食いつくような提案も辛うじて跳ねのけている。


  だが、それもここまでだ。戦闘狂のリーシャなら、次の条件に間違いなく飛びつくであろう。


「昨日完成した、超絶すごい広域破壊魔法を・・・・・・」


「あんたはどうしてそんなに私の好きそうなところを的確に突いてくるのよ! 最後の手段? それ戦闘における最後の手段でしょ⁉︎ いい加減にしなさい!」

 

  こっちは真面目に提案しているだけなのに、なぜ怒られなければならないのか。


「茶化さないで! ガッシュから話は聞いてるんでしょ⁉︎ 焦らさないで早くしなさいよ!」


  リーシャは顔を真っ赤にして怒鳴った。


  やっぱりそういうことか。どうせリーシャがガッシュに相談して、今回の策を考えて貰ったのだろう。


  リーシャが僕に何を約束させたいかは分かった。だが、正直なところ気は進まない。


  これはもう、子供の罰ゲームなどという軽い話ではないのだ。


「なあ、本当についてくるつもりか? お前なら仕事には困らないだろ」


「もちろんよ。あんた一人で生活できるか心配だから、仕方なく一緒にいてあげるの。ただし、私があんたについていくんじゃなくて、あんたが私についてくるのよ」


  つまり、「孤児院を出たら、リーシャについていきます」と僕に言わせたいようだ。


  僕たちはあと一月もしないうちに成人する。そうなれば、孤児院を出て自力した生活を送らなければならない。もちろん仕事も自分で探すのだ。


  実際、リーシャが側にいてくれるというのは助かる話ではある。なにせ、彼女は遠い異国の魔法を使えるのだ。両親が異国出身らしく、その血を引いたリーシャも特殊で強力な魔法の使い手なのである。


  僕は孤児院を出たら、野草の知識を活かして薬剤師にでもなろうと考えていた。もしリーシャが一緒にいれば、貴重な野草の群生する危険な場所にも行けるだろう。そうやって各地を旅しながら病人を治して生計を立てる。そんな生活も悪くないかもしれない。


  しかし・・・・・・。


「分かってるのか? 僕なんかと一緒にいたら、お前まで辛い目に遭うかもしれないんだぞ」


「大丈夫よ。何とかなるわ」


「違う。リーシャが思ってる以上に、祝福されぬユダへの風当たりは強いはずなんだ。大国の貴族が自分の息子を捨てるほどなんだぞ? 僕らは孤児院の外にほとんど出ないから知らないだけで、魔力がないとバレたらどうなるか・・・・・・」


「魔力が無いなんてそうそう気づかれないわ。心配しすぎなのよ」


「街に行ったら、個人登録や正式な手続きには魔力が要るんだ。他にも、魔法が日常生活に浸透してる中、魔力が無かったらやっぱり目立つよ」


「だから一緒にいてあげるんじゃない。魔力のある私がいれば問題ないでしょ」


「それに、僕自身の事情にリーシャを巻き込むのは・・・・・・」


「ああ、もう! ぐちぐちうるさいわよ! ちょっと黙ってなさい!」


「え? ちょっと待っ・・・・・・むっ!」


  リーシャは正座する僕の目の前まで近づいて膝まずき、強引に自分の唇を僕の唇に押し付けた。


「・・・・・・んっ」


  キスだった。


  僕はしばらく呆然としていたが、リーシャの艶めかしい吐息を感じて我にかえった。


「おっ、お前!」


  慌ててリーシャの肩を掴み、密着してくる彼女を引き剥がす。


「ま、初めてにしてはまあまあね。あんた男のくせに甘い味がしたわ」


「それはさっきシェリーの実を食べたからだ! いやそんなことはどうでもいいよ! 今自分が何したか分かってるのか?」


「何って、キスよ」


  なんとも男らしい返事である。急襲を受けてドキドキしているこっちが馬鹿みたいだ。


「安心しなさい。こうなった以上、責任は取るわ」


「それは男が言うセリフだろ! 」


「じゃあ、あんたが責任取ってくれるの?」


「それは・・・・・・」


  責任を取るのがリーシャだろうが僕だろうが結果は同じだよな。


  ただ、こんな簡単に決めていいことなのだろうか。驚きが先行しすぎて、正常な判断が出来そうな心理状態じゃない。


「別に拒絶したって良いのよ? あんたは神様を信じてるってわけでもないんでしょ」


「そしたらお前が困るだろうが。キ、キスまでしたのに、結婚出来なかったら」


  僕はともかく、リーシャはミトラ教徒だ。


  彼らにとって、キスは結婚の証。もし僕が断れば、リーシャは戒律を破ったことになる。


「あんたの人生を左右する大事な決断でしょうが。そんな時まで、他人のことばっかり考えてるんじゃないわよ」


「それはそうだけど・・・・・・」


  リーシャが僕のことを好きだったなんて、今初めて知ったのだ。今まで親友だと思ってたのに、急に結婚だなんて。


「ユダ、あんた私のことどう思ってるの?」


「そりゃ嫌いじゃないけど」


「・・・・・・嫌いじゃない?」


「いえ、好きです。大好きです」


「そう、ならいいじゃない」


  強圧的なところもあるが、リーシャのことは大切に思っている。だからこそ、僕なんかでいいのか? と考えてしまうのだ。


  もしリーシャと結婚すれば、好きな相手と世界を旅しながら魔道具製作と薬で生計を立てる。だが、魔力がないとバレないようにコソコソ暮らさなければならず、定住の出来ない不安定な生活となる。


  逆に結婚を断れば、僕は一人で旅をし、リーシャは戒律を破ることになる。ただ、リーシャはその方が幸せになれるかもしれない。


  リーシャの言うように、自分のことだけ考えるなら、間違いなく結婚すべきだ。


  しかし・・・・・・。


  数十秒くらい経っただろうか。僕は未だ答えが出せず、うだうだと考え続けている。


  すると、じっとこちらを見守っていたリーシャが、おもむろに口を開いた。


「じゃあ、最後に一つだけ言わせて。あんたがどんな決断をしようが、もう何も言わないわ。どうしても嫌なら、私のことは気にしないできっぱり断りなさい。でもね・・・・・・」


  リーシャの潤んだ青い瞳。上目遣いでじっと見つめられ、思わずどきりとした。


「私は、ユダとずっと一緒がいいわ」


「・・・・・・」


  ああ、もうなんでもいいや。リーシャが僕と結婚したいと言ってくれているのだ。これを断るだけの理由があろうか。


  魔力無しだとバレたら危険? バレなきゃいいんだそんなもの。


 僕は今まで、ただ逃げていただけだった。リーシャのためだとか言って、本当は自信がなかったのだろう。


  決めた。もう自分からは逃げない。


  僕はリーシャと結婚する。


「リーシャ、僕と結婚しよう」


  彼女の頬が一瞬緩んだ気がする。その刹那の微笑みが、改めて僕の決意を強固にさせた。


「ごめんなさい。急に結婚とか言われると、やっぱり重いのよね」


「お前っ! ひとの決意を何だと・・・・・・」


「冗談よ。愛してるわ、ユダ」


  リーシャはこちらにそっと顔を寄せ、唇を重ねた。口の中に、甘い味が広がる。


  そのまましばらくして、どちらからともなく唇を離した。


  かすかに残るリアルな感触。リーシャは自分の唇に手を当て、愛しそうに撫でている。


「これからよろしく、旦那様」


「ああ。こちらこそだよ、お姫様」


  雲がにじむような夕暮れの中、僕は一生リーシャを離さないと、そう心に誓った。






 リーシャの日記


  嘘でしょ⁉︎ いつの間にあんな強くなってたのよ!ユダに問いただしたら、独学で実戦を繰り返して1年で森の主を倒したらしいわ。


  ハーディーの森はBランク以上の冒険者しかいかないって聞いたけど、じゃあそこの主を倒したら何ランクなのよ!


  というか、そもそもランクって何!


  そこで、私は街の冒険者ギルドに行ってみたわ。怖そうなおじさんがたくさんいたけど、アストレア孤児院から来たって言ったら中を案内してくれた。


  しかも、孤児院じゃ食べられないような甘いお菓子をくれたの。案外気がきくじゃない。


  それで、おじさんたちにハーディーの森について色々聞いたわ。そこの主はドラゴンっていう怪物で、S級冒険者じゃなきゃ倒せないらしいわ。つまり、ユダはもうS級なのね。


  だからS級って何なのよ!


  友達がその主を倒したのよっておじさんに話したら、嘘ばっか言ってるとその内信じてもらえなくなるぞって言われた。私はユダがドラゴンを倒したって信じてる。けど、ユダは街の人とは関わらないようにしてるみたいだし、無理に信じてもらう必要もないわね。


  ランクについても聞いたわ。上からSSS、SS、S、A、B、C、D、E、F、Gの10階級あるらしいの。


  なんでランクだけアルファベット表記なの?って聞いたら、アルファベットってなんだ?って逆に聞き返されたわ。アルファベットも知らないなんて無教養ね。


  だけど、そう言えばユダもアルファベットを知らなかったみたいだわ。死んじゃったパパとママがよく使ってたから私は覚えてるけど、あんまり一般的じゃないのかも。


  次の日も、私はギルドに行ったわ。早く強くなって、ユダに追いつかなきゃいけないんだもの。


  受け付けのお姉さんに冒険者登録をお願いしたら、周りにいたおじさんたちに笑われた。お姉さんにも、15歳になってからまた来てって言われたの。


  冗談じゃないわ! 私にはそんな時間無いのよ! 早くユダに追いつかないと、ずっと彼の隣にいるなんて無理だわ。


  でも、登録できないんじゃ仕方ない。私もユダみたいに森で修行しようかしら。また魔物に襲われそうだけど・・・・・・。


  そもそも、なんでユダは最初から森で修行出来たのよ! 確かに小さい時から一生懸命努力してたのは知ってるけど、それでもドラゴンを倒す7歳なんて聞いたことないわ!


  そんな風に考えごとをしながら歩いていたら、孤児院に帰る途中の道で誰かにぶつかってしまった。よく見たら、背中に大きな剣を担いだお姉さんだったわ。


  そこで、ものすごいことをひらめいたの。まあ、神童と呼ばれる私には造作もないことだったけどね。


「私を弟子にして!」


  お願いをするんだし、可能な限り下手に出てあげたわ。お姉さんは私に圧倒されたのか、困り顔でいくつか質問してきた。


「ま、まあ。子供の言うことだし、すぐに飽きるわよね」


  質問に全て答えてあげたのが良かったのかしらね。お姉さんはお願いを快諾してくれたわ。当然のことだけどね。


「じゃあ、お姉さんのことは師匠と呼ぶわね。まず、自己紹介して頂戴」


「えっと、私はナタリア。八大剣豪の一人でランクはSSです」


  おどおどしてるけど、案外やるじゃない。そう言えば、あの三十路生き遅れ院長も昔は八大剣豪だったって言ってたわね。そんな大した称号じゃないのかしら。まあドラゴンを倒せるくらいの実力はあるのね。


「私は冒険者だから、会えるのは月に一度だけど大丈夫?」


「分かったわ。じゃあ一人で出来るトレーニングを教えて」


「それじゃあーー」


  師匠はいくつかのトレーニングを指示して、毎日続けられたら一月後もここに来るよう言ってきたわ。


  もしかして、私が子供だから途中で諦めると思ってるのかしら? 舐められたものね。


「じゃあ師匠。また来月会いましょう」


  私はユダに追いつけるのがうれしくて、その日はスキップしながら孤児院に帰ったわ。













リーシャの日記は後書きに書こうと思ってましたが、字数が増えすぎたので本編末尾に置いときます。多少読みにくいですがご容赦を。

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