やっぱり異世界らしい
あれから2年が過ぎた。
同じ食堂の女性と付き合い始め、来月にも結婚する事になっている。
もちろん共働きなのは相変わらずだけど、オレが一人前になったら独立する事になっている。
その為にも日々の研鑽は欠かさず、その腕前も最近では親方もかなり認めてくれている。
包丁はあれから特注をして、特級品の包丁を装備している。
プレイヤー達は食堂に来ては、相変わらず狩りの事なんかで盛り上がっている。
従妹の事はそれっきり、どうなったのか知る術もない。
それどころか浮世の事は何も分からず、こうして日々ゲームの中の世界で暮らしている。
こんな生活をするようになり、いくつか良くなった事があるが、風呂に入れるようになったのも大きい。
かつて、プレイヤーだった頃は、倫理のせいかインナーが脱げず、風呂と言ってもただその気分を味わうだけだった。
だけど今はしっかり身体も洗えるし、そのせいか湯船に浸かるとじんわりとして、とても良い気分になる。
後は夜の生活。
婚前交渉に忌避感が無いのが不思議だけど、だからこそ色々な制限があったのだと気付く。
なのでプレイヤーには無理だけど、オレは夜の生活を楽しんでいる。
未体験で終わった現世だけど、この世界ではすっかり経験者だ。
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あの世に続いている道を、僕は歩いているのじゃない。
生きてた頃に道は無く、死んだ後に道は出来る。
だから僕は今ここに立っている。
何という不思議な事に、なっているのだろう。
下僕にされていた当時の僕。
財産狙いで飼われていた日々。
狂気に潰された人生。
振り返ってみると、自分の道は世間という荒波に押し流されていたと気付く。
流れに逆らわず、誰が人生を生きていけるのだろうか。
そんな人生を誰が評価してくれるだろうか。
そして僕はこの世界に来てしまった。
かつてのつまらない人生を見て、今の境遇に涙を流すのだ。
刺されて終わったはずの僕の人生が、こんな事になるとは思わなかった。
だけど今、僕はとても幸せな気分なのだ。
これが誰の愛なのかは知らないが、それに感謝して生きていこうと思う。
かつて得られなかった傍らの存在を、遂に僕は捕まえたのだ。
刺されて消えたはずの僕の意識は、今こうして新たな世界で息づいている。
ありがとう。
ありがとう。
僕に新しい生をくれて、本当にありがとう。
何とか終わりました。
どうにも荒唐無稽な話になりましたが、こんな駄作を読んでいただきありがとうございました。