仇討ちらしい
(何だと、ああ、ああ、分かった)
(どうしたんですか、所長)
(うちの恩人が殺られたらしい)
(なんですって、そんな、あいつが)
(うちが今、曲がりなりにもやっていけているのはあいつのお陰だ。だから良いな、顛末を噂にして流すぞ)
(ええ、殺った奴には地獄を見てもらいましょうか)
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(悪いが、君のところとの取引は今回限りにしたい)
(え、いきなりですか)
(うちの社長がね、人殺しの親とは切れと、はっきり言うもんでね)
(そんな、あれはあの子が勝手にやった事で、私も迷惑しているんです)
(そう言われても、私としては上司の命令なので逆らう訳にはいかないのだ。諦めてくれ)
(そんな、何とかしてくださいよ)
(残念だな)
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(くそぅ、あいつのせいで……あれから取引先が皆、取引を断って来やがる)
(貴方、聞いてくださいよ。あの子ったらコウ君を奴隷扱いしていたんですって)
(何だと、それは本当か)
(それでね、コウ君はもう耐えられないから家を出たいと言ってたの)
(だからと言って、殺しては何にもならんだろうに。一体、何を考えておる)
(どうしましょう。このままじゃあ財産目当てに殺したとか言われそうで)
(そんな事があるはずがないだろ。この法治国家でそんな事、許されるはずもない)
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(貴方、どうしましょう)
(ああ、さっき警察から連絡が入った)
(このままじゃ私達まで)
(あいつは疫病神だ。あいつのせいで何もかも巧く行かなくなった。だからもうあいつなど知らん)
(じゃあ弁護士はどうしましょう)
(知らんと言っておるだろう。あんな娘はもううちの子じゃない。とっとと縁を切るぞ)
(それじゃあんまりよ)
(なら、殺された高次は可哀想ではないのか? )
(そ、それは)
(お陰で噂も酷いものだ。良いか、オレ達はな、財産目当てで娘に殺させたとまで言われておるんだぞ。他人事じゃないんだ、オレ達も疑われておるのだ)
(そ、そんな、酷い)
(あいつが関与を匂わせているらしい。とことん疫病神な奴だ)
(酷いわ、そんな事)
(ああ、だからな、ここであいつと縁を切る。無関係だと世間に申し開かないと、オレ達まで巻き添えになってしまう)
(あんな子じゃ無かったのに)
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(どうだ、調子は)
(かなりですよ。今ですね、娘に依頼して殺させたって噂でもちきりですよ)
(うちの社の恩人にも等しいあいつの弔い合戦だ。良いか、どん底を味わわせてやれ)
(もちろんですよ、くっくっくっ)
(それにしても、あいつの発案は大したものだったな)
(ええ、まさかこんな方法があるとは。目からうろことはこの事でしたね)
(確かに裏っぽい依頼になりはしたが、どのみちあのままじゃうちは潰れていたんだ。だから問題無いさ)
(恩人で金主。本当に得難い人でしたね)
(だからこそ妥協は出来んのだ)
(分かっていますとも)
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(本当に親に頼まれたんだな)
(ええそうよ。殺したらお金をくれるって言うから)
(しかしな、いくら何でもそれで殺すなどあり得んぞ)
(どうしてよ。お金になるのよ)
(殺して金になるなどと、本気で思っているのか)
(あいつはアタシの奴隷なんだし、当然でしょ)
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(やはりクロですか)
(ええ、まともな精神ではありません)
(殺しで起訴猶予か。どうしてこの国はそうなんだ。おかしいのはとっとと死刑にすべきなのに)
(全くです)
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(パパ、ママ、どうして出してくれないの)
(どうやら君は切り捨てられたらしいね)
(そんな、嘘よ。なら、あいつの財産はどうなるの)
(それも調査が入るらしいが、君には関係の無い事だ)
(どうしてよ。殺したんだからお金はうちの物でしょ)
(ああそうだね。まあ、それなら待ってなさい)
(早くしてよね)
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(どうでしたか、完全にイカレているでしょ)
(あれは酷いですね。国選じゃなければ手を引きたいところですよ)
(ご安心ください。精神鑑定でクロと出ましたので)
(やれやれ助かったな。あんなのと話していたらこっちまでおかしくなる)
(真剣に取り合わない事ですよ。相手は空想の中に生きている存在、そう割り切らないと保ちません)
(成程、確かにそうですね)