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戦えないらしい

軽い気持ちで始めました。

今からアップしていけば、即日で終わると思います。

 

「なあ、諦めてくれよ」

「いーえ、やって」

「頼むよ、オレ、こういうの苦手なんだよ」

「じゃあもう味見はしないよ」

「そんなぁ」

「やっ・て・よ・ね」

「はぃぃ」


 こうしてオレが強引にやる羽目になったVRMMOなのだが、オレは戦闘をしてレベルアップという冒険には興味が無かった。

 それよりもリアルでやる事がたくさんあった訳で、今日もそれをやっていたんだ。

 オレは料理が好きだ。もちろん作るほうだ。だが、味見はあいつしかやってくれない訳がある。

 オレはどういう訳か、完成した料理の見た目が凄く悪いのだ。

 味はまともなのに見てくれが悪い。

 そのせいで家庭科で作った料理は誰ひとりとして試食してくれず、先生にすらダメ出しされた。

 なのでそのまま持ち帰り、当時から廃ゲーマーだったあいつが飢餓の余りオレの料理に手を出した結果、食えると言う事が分かったぐらいなのだ。


 つまり、食わないと死ぬまで追い詰められないと手を出せない料理という認定。

 これは料理人を目指すオレには破滅的だが、とにもかくにも味見を手に入れたオレだけど、今回もあいつに強制されている事項がある。


 それがVRゲームをやれとさっき言われた事。


 詳しい事情を聞いてみると、それが全然大した事じゃないんだ。

 たかがゲーム内で食べる料理の味が悪いって事ぐらいの。

 空腹システムが何かは知らないけど、どうせ仮想的に補給するだけの物なんだし、味とか関係無いと思うんだけどな。

 あいつはその味の改善をやってくれと、ただそれだけの為にゲームにオレを引きずり込もうとしているんだ。


 ああ、ちなみにあいつとは同居している。


 そしてはっきり言うならそいつは女だ。

 しかしな、あれを女と言うには弊害があると思うんだがな。

 家事は全滅、特に料理はダメ。

 しかしあいつの料理は見た目はまともなのに味が全滅という、オレとある意味逆なんだ。

 オレの両親が5年前に亡くなって、遠い親戚であるこの家に引き取られて以来、こうやって毎回何かしらやらされているんだよな。

 養われているという引け目が断れない理由だったが、今では唯一の味見を失いたくないって理由になっている。

 だけどいい加減、この関係を切りたいとも思ってしまっている。

 例え味見を失おうとも。


「昼ごはん出来たよ」

「うわ、まさに地獄の食卓ね」


 そこまで言われるとさすがに凹むが、綺麗にしようと思っても何故か無茶苦茶になってしまうのだ。


「見てくれを気にしなければ充分美味しいわよ」

「どうしてこうなるんだ。ちゃんと作っているのに」

「アタシもそれは不思議に思うわ。普通に拵えているのに、何故か変になるのよね」


 そうなのだ。


 卵を茹でていたら急に爆発しやがるし、卵焼きを拵えていたら何故かいきなり焦げてしまうんだ。

 パスタを茹でていると、何故か毎回みじん切りみたいになってしまい、千切りパスタになってしまうのだ。

 カレーを作ろうと野菜を炊いていたら、急にドロリと溶けてしまうし。

 だから具の無いカレーって言われるけど、単に溶けただけだ。

 市販のルウを使えば色が生々しくなるし、粉を使えば水の量がいつも合わなくてモサモサな見た目になってしまう。


 でも、味はまともなんだ。


 市販のルウでは食欲が失せて、粉を使えばカレー団子になるだけなんだ。


「目を瞑って食べると極上だけど、目を開けると最低なのが面白いのよね」


 何でこんな事になってしまうのか、オレにはさっぱり分からないのだ。


「でも安心しなさいよ。ゲーム内では見た目は一定だから」


 そうなのか? それならまだ……。


 そんな従妹の甘言に乗せられ、オレは興味の無いはずのゲームの世界に降り立ったんだ。

 だけど、そのゲームで『料理人』と言うのは完全生産職だと言うのを、オレは中で思い知る事になる。

 あいつは単に、本当に単に、料理の味の向上のみの目的で、オレという下僕を欲したに過ぎないと理解した。

 これがまだ『調理師』なら救いがあったんだけど、料理人じゃあどうしようもない。

 調理師は自分で獲物を狩る事もある職業であり、それなりに戦えるからだ。

 なのに料理人ってさ、武器は持てないし鎧は着けられないし、盾だって持てないんだぜ。


 これでどうやって戦えって言うんだよ。


 早い話がお店で料理を作るだけの職業らしく、プレイヤーでそれを選ぶ人は居ないという、NPC専用職に近いらしい。

 このゲームでは全ての職業に就く事が出来るらしく、こういうNPC専用職にも就けはするらしい。

 だからと言ってそんな職業になってしまったら、もうプレイヤーの枠から外れるようなもの。


 なのにあいつは自分の為にオレをこんな境遇に貶めたんだ。

 

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