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四凶   作者: Ppoi
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⑨朱雀陥落

 朱雀国は、山も森も田も畑もある豊かかな地だ。南にあるため、温暖な気候でもある。四国一住みやすい地域だ。キュウキは思う。それを滅ぼそうとしている自分はなんて罪深いんだと。広大な土地を見つめながら、彼は、この国の滅びだけを願っていた。


「守備はどうですか?」

 キュウキが山の上から朱雀国全土を眺めていた時、闇の中から声がした。彼はキュウキの存在が薄すぎて探すのに苦労した、と苦笑していた。

「トウテツ。守備は上々です。しかし、私も同時に消えてしまうかもしれません」

「そうですか。残念です。だけど、キュウキは朱雀のことだけを考えてください。他の国のことは、俺を含めた他の仲間に任せてください」

 トウテツは優しく笑っていた。

「それが、規律ですからね。他の国に手を出すことができない。だからこそ、私も迷いなく思いっきりやれるのですが」

 キュウキも優しく笑う。

「どうして、俺達が選ばれたのか、不思議に思いませんか?」

 トウテツは、寂し気に言った。自分も、キュウキも決して世界を滅ぼすなどという危険的思考を持っているようには見えない。現実世界でも、この世界でも。

「僕は神を信じたことはないけれど、神様が決めたんだろう、きっと。でなきゃ選んだ人間を僕は許せない!」

「キュウキ……」

「すみません、少々憤りを感じてしまいました、選ばれたことへの。朱雀は必ず滅ぼします。心配しないでください。あまり時間はかからないでしょう。トウテツも自分の成すべきことをやってください。この世界を早期終結させましょう。それが、四凶の願いです」

「そうですね。ガイシは、正気に戻ったようですが?」

 少し心配そうにトウテツが言う。

「あの時点で正気に戻るとは、いささか予定外でしたね」

 ここまで緻密に立ててきた計画が一瞬で崩れ去るところだった、と彼はつぶやく。

 ガイシとシュンゲン。彼らのことを見ていたら、何故か胸が痛くなった。もし、自分が介入しなければ、二人は、きっと幸せな人生を送っていたことだろう。

「それにしても、ここまで存在が虚ろになるとは思いませんでした」

 彼の能力は、過去へ行けること、だ。ただ、過去に行けるだけの能力。四凶の中では、あまり使い勝手のいい能力ではない。しかも、過去に行けるせいで、いつも存在が虚ろになる。この前、進捗を聞きにきた仲間であるトウタクでさえ、自分に気づかなかった。存在がぼやけすぎているのだ。あることをしてからは特にぼやけ始めた。


 過去に戻り、ガイシを親元から離し、山に捨て、奴隷商人に見つけさせた。


 その行動をしてから、キュウキの存在は消えてしまうんじゃないかと思うほど希薄になった。たぶん、あと少しで消える。ガイシの運命を、過去に遡り変えた。その代償は大きかった。彼は、裕福な家庭と優しい両親の元で、立派に育つはずだったのだから。ガイシを攫った後、両親は泣き暮れていた。罪深さは理解している。代償も受けた。それが、四凶であるキュウキだ。四凶だからといって、何にも縛られないわけではないし、やれることにも、能力にも限界がある。

「自分が消えたとしても、私は朱雀を守らなくてはならない」

 キュウキの言葉にトウテツは寂しそうに微笑んだ。

「あなたの道がそれなら、その道をまっすぐ進んでください。それが四凶の長、トウテツの願いです」





「怖くない?」

 ガイシはシュンゲンに尋ねた。

「今のガイシは恐くない。心が真っ白で綺麗だから」

 頬がこけ、目の下にくまができているシュンゲンは痛ましかった。だが、ガイシはそんな、シュンゲンを綺麗だと思った。ガイシは息を吸い、覚悟を決めた。長く苦しめたくない。シュンゲンの胸を持っていた剣で貫いた。シュンゲイの顔は解放された喜びに染まっていた。剣を抜くと血が噴き出した。その剣で、ガイシは自分の胸を貫いた。二人分の真っ赤な血が広がった。

「きゃーーーーーーーーーーーーーーー」

 朱雀がそこには立っていた。悲痛な叫びだった。

「見てはいけない」

 キュウキが朱雀の目を塞いでいた。

「腹心二人によって、国の安定が保たれる。二人の存在が消える時、朱雀国の領土は消える。そして、その四国主でもある朱雀も同時に消える。それがルールだった。君を害さずに、この国を陥没させる方法がこれしか、思いつかなかったんだ。悲しませてごめんね、僕の大事な奥さん」

 キュウキの口調が変わった。このしゃべり方が彼の本来のしゃべり方だ。

「わかってる。ゲームは終わりにしなくちゃいけないわ……二人には死んでほしくなんてなかた。けど、あなたに私をどうこうできるわけないものね……」

「僕が巻き込んだ。だから、自分の存在全てをかけて、君を現実世界に戻す」


 それは、不思議なメールだった。


『存在をかけたゲームをしてみませんか?』


 題名に興味を惹かれた。

「ちょっと、怖い顔してどうしたの? コーヒー入ったわよ」

 夫婦でちょうど休みの日曜日だった。

「このメールみてよ」


『あなたは、四凶選ばれました!

 四凶のキュウキ。過去を自由に閲覧する能力を持つ四凶の一人です。

 朱雀の四国主と戦い、見事勝利を治めてください。

 あなたが、この戦いに勝たなければ、この世界に縛られている全ての人間が、現実世界に戻ることができません。さあ、早く世界に縛られている方々を解放してください。あなたにはその能力があります!』


『YES』


『NO』


「なにこれ。どうせいたずらでしょう?」

「でも、面白いね。ただの迷惑メールだとは思わないし」

 彼は、『YES』をクリックした。

 その瞬間、彼は、一ミクロンごとに分解される。

「なんだこれは!」

「あなた!」

 そして、妻までもが一ミクロンごとに分解されていた。そして、画面に吸い込まれていく。気が付いたら、夫はキュウキ、妻は朱雀となっていた。


「君は僕に巻き込まれただけだったんだ」

「でも、もう戻れるでしょ?」

「ああ」

 二人の身体は透明になり、空気に溶けていった。朱雀国の大地と共にキュウキと朱雀は消えていった。二人の姿は幸せそうだった。



 選ばれぬ者が朱雀になり、その役目果たせず国が成り立たなかったため、朱雀国陥落。四ノ国中、一番早く朱雀国が堕ちた。








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