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四凶   作者: Ppoi
3/17

③トウテツ(闇の運命を背負う者)

 彼のこの世界での名はトウテツといった。それは、この世界で最も不名誉な名前だった。


 暗闇の中に浮遊している。手足がかじかむくらいに肌寒い。しかし、手足はうまく動かない。思考が阻害され、動く気力を奪われ続けている。目は開けていても自分の手さえ見えない暗闇。瞼を開けていようが、閉じていようが、同じことだ。眠ることも許されず、ただ、ぼんやり起きている。ただ、ただ疲れ果てる空間。虚無の空間だ。彼の心には、負の思いだけが次々に襲ってくる。眉間に皺を寄せながら耐えた。虚無の時間は長く続かない。日が沈み、夜になれば、彼はこの虚無の空間から出ることができ、出来ないことなどない。闇の中、彼は無敵だ。空間にも制約にも世界の理にも縛られない。


 あの金色の存在にも会える。


 金色の存在だけが、彼の支えだった。金色の存在はこの世界では、彼と正反対の存在だ。対に存在するからなのか、彼と金色の存在は絶対的に感覚を共有する。たとえば、トウテツが手に傷を作れば、金色の存在も手に傷ができる。この世界にきたのも、トウテツとその存在が最初だった。それが関係しているのかもしれない。金色の存在に会えるのは、彼一人だ。だからなのか、金色の存在をどうしたらいいかわからなくなる。金色の光の中で微笑む彼女を守り愛したいと思う一方で、壊したいほど憎いのかもしれない。虚無の暗闇は、正常な判断力を奪っていく。感じるのは、あの金色の存在だけ。その存在があるというだけで、虚無の暗闇の中でも自分を保てるのだ。だが、これも仕組まれているのかもしれない。歯がギリッという音を立てて鳴った。


 さあ、日が暮れた。ここからは、彼の時間だ。彼は日が出ている間は闇に閉じ込められるが、日が沈めば何でもできる。時間限定で自由になる。不自由で自由なこの世界を壊すために自分はここにいる。幸せそうに、健康そうに、笑う運命を背負ってこの世界に存在する全てが厭わしい。敬われ、そこに存在することを受け止められている者達全てを滅ぼしたいほど厭わしい。閉じ込められ、闇に塗りつぶされた運命を背負って存在している自分は、何と悲しき存在か、浮き彫りにされる。彼は、誰より辛く暗い運命を背負っている。この世界を滅ぼす、それは、この世界で生活する者の権利を奪うということだ。トウテツがそれを望んでいなくとも。だが、彼はこの世界を滅ぼすために存在する者達の長。四凶のトウテツ。そう呼ばれ、この世界を滅ぼすことを決められた存在なのだから。


 彼は、ある場所に思いを馳せる。そうすると、その場所に行くことができる。空間を飛び越える能力を持っているのだ。彼にはその権限がある。

 そこは、鳥籠の中だった。金色の鳥籠の中。


「麒麟」


 金色の存在であり、四凶の長トウテツの味方でも敵でもない麒麟。彼女は誰にも侵すことがことができない存在だ。唯一の例外、トウテツを除いては。絶対的聖域。誰にも会うことが許されず、ただ祈ることしかできない孤高の存在。


 彼女が祈れる唯一のことは、

「この世界に存在する全ての者達が幸せになれますように」

 だけだ。

 二人は互いが唯一の理解者であり、そして、唯一相容れない存在だ。二人の役目は正反対だ。トウテツはこの世界を滅ぼす。麒麟は存続することで世界を守っている。根本の部分で二人は相容れない。だが、互いの存在が唯一無二だった。


 彼は、今日も彼女に会いに行く。それが、罪と知っていて。


 さあ、日が暮れる。彼の時間の始まりだ。


「世界を壊しに行ってくる」


 闇から目覚めたばかりのトウテツの周りはいつも誰もいない。どの場所で目覚めるかは、トウテツさえもわからない。ランダムなのだ。よって、その言葉を誰も聞いていない。だが、彼は、その言葉を口にする。呪詛のように。この世界を滅ぼす決意を再認識するように。彼は闇に溶けた。










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