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四凶   作者: Ppoi
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①プロローグ

「余命3ヶ月なんですって……」

 病院の暗い廊下だった。背には別の病室の明かりがある。たまたまトイレに行こうと、今入院している病室を後にした少年は、愕然とする。いつも気丈に振舞っている明るい母の目が真っ赤に腫れていた。父も目に涙を浮かべている。自分の状態がいいとは決して思っていなかった。だが、あくまでも治ると信じていた。

「若いから進行が早いんですって……」


 慌てて病室に戻った。足がもつれて転ぶ。腕に赤い痣が広がった。

「……進行が早い?……3ヶ月?」

 少年はつぶやく。頭が真っ白になって、それが自分のことだと意識することができない。

「だって、俺、まだ十六歳だよ?」

 嘘だ。少年は何度も頭の中をめぐる言葉で気を沈めようとした。これは、嘘だ。何かの間違いだ。何度も何度も頭の中で繰り返した。

「……死にたくない」

 少年の目から涙が溢れる。うつぶせになって見える床に涙がぽたぽた、と落ちた。この涙が床に落ちるくらい簡単に俺は死ぬんだろう、と少年は思った。今まで生きてきて、生死について考えたこともなかった。

「なんで……なんで俺ばっかり」

 涙は雨のように止まらなかった。床に水溜りが出来そうだ、と泣きながら笑う。自分がこんなに泣いたのは、赤ちゃんの時以来だろうと思った。

「……っう」

 嗚咽が止めようとすればするほど出てくる。少年の絶望は深かった。

 しばらくすると、なんとかベッドまで行くと、寝たふりをした。その日少年は決して眠ることができなかった。


 それから、少年は平静を装った。両親に決して不安を見せることもしなかった。少年は笑っていた。両親は少年に不安はないんだと勘違いをした。少年が自分は治ると信じていると、勘違いをしていた。しかし、少年は知っていたのだ。自分の命の時間を。そして、深く深く絶望していた。未来に希望など持っていなかった。彼がそう思えば思うほど、病状は悪化していった。少年の時間と希望はどんどん消費されていった。両親と病気の間で少年はすり減っていった。


 そんな生活の折、ふっとパソコンを開いて何かしようと思った時だった。不思議なメールがきていた。まず、送信元が表示されていない。迷惑メールだと思い、削除しようとしたが、題名に心惹かれてしまった。


『あなたはこのゲームによって生かされます』


 心の中の思いがどんどん湧いてくる。


 生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。


 彼はその思いに囚われてしまった。そう考える彼の行動は決まっていた。メールの本文を開くことだ。


『あなたはこのゲームによって恒久的に生かされます。

 

 そのゲームの名前は四凶。

 

 あなたはその中で、神となります。


 よってあなたは、死ぬことはありません。


 あなたは、生き続けられます』


 そのメール本文の下にはURLが貼り付けられていた。少年はマウスを持つ手が震えるのを知りながら、そのURLをクリックした。


『四凶』


 真っ黒な画面に白抜きでその文字が浮かび上がっていた。少年は画面をスクロールする。


『四凶は四つの国から成り立っています。


 青竜国、朱雀国、西虎国、玄武国の四つです。


 各国家元首は、青竜、朱雀、西虎、玄武という号を持ち、全ての権限を持ち、国を豊かにする責任があります。


 青竜国は、誠を持って治めよ。

 朱雀国は、情を持って治めよ。

 西虎国は、武を持って治めよ。

 玄武国は、智を持って治めよ。


 そして、いずれ、四つの国主前には悪しき四人が現れることでしょう。

 彼らは、国を滅ぼそうとするでしょう。

 その四人が四凶と呼ばれる存在です。

 このゲームは国主となり、国を富ませ、四凶に打ち勝つ者と、滅びの運命を持ち、四国主を倒す者に別れ、どちらが勝つか競うゲームです。

 正義と悪は立場によって、入れ替わります。どちらが、四凶になるか……それは、決定権を持った八人にゆだねられます。



 あなたは選ばれました!あなたは、この世界の神となるに相応しい存在です。

 残念ながら、四凶にも四国主にもなれませんが、あなたはこのゲームの根本の存在として生き続けていただきます。

 あなたがいなければ、四凶というゲームを開始することができません。

 そのため、あなたは四凶より、四国主より、素晴らしい存在といえます』


『あなたは、神になりますか?』


『はい』


『いいえ』


 

少年は震える手をなんとか動かす。答えは決まっていた。


生きたい。生きたい。生きたい。


頭の中がそれだけでいっぱいになる。それに、パソコン上にあるものをクリックした程度で自分の運命が変わるはずがない、という思いもあった。少年の顔には全く表情がなかった。だが、手には汗を大量にかいていた。その選択をすることが正しいとは思えなかった。だが、望みは叶う。




『はい』




マウスのポインタがそのURLをクリックする。クリックすると同時に少年の身体は、一ミクロンごとに細胞が分解されたかのように、粒子になった。収縮して流れ、パソコンに吸い込まれて、跡形もなくなった。少年のいた形跡はベッドに残ったぬくもりだけだった。

 少年は四凶の世界の神になった。彼に選択できることは何一つないけれど、彼は言葉通り、恒久的に死ななくなった。四凶というゲームが存続する限り、生き続けるという少年が強く強く望んだままに。









2011/5くらいにどこかの賞に応募したようです。ほぼ記憶なし(笑)

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