9. 葬儀場にて
ーーその日、真琴は疲れていた。
自身の葬式の為に集められた人々。
学生時代の友人や、先日会ったばかりの職場の同僚達。別れの言葉を告げる彼らに、真琴は一人一人感謝の言葉を告げる。
それだけでも大変だというのに、彼女と関わりのない近所の霊までもが集まって来ていたのだ。
読経を続ける僧侶を物珍しそうに眺める者や、頭を触り悪戯する者。様々な霊がいる中、井戸端会議よろしく、会場の片隅に情報通の霊たちが固まり、話をしていた。
本日の主役ということで強制的に参加させられていた真琴は、それに相槌を打ちながら、凝る筈もない肩が重くなるのを感じた。
「――それでね、私言ってやったのよ。私の息子に手を出したら容赦しないってね!」
「さっすが片桐さんね! 私達も見習わないと。ねえ、桜庭さん」
「…そうですねぇ。でも、どうやって伝えたんです?」
「いやぁね、夢枕に立ったに決まってるじゃない! 家の姑は鈍感だから、直接姿を見せても気付かないと思うのよ。だからね、同じ日に家族全員の夢枕に立ってやったわ」
「おおう…」
真琴よりも数日先に事故で亡くなったという片桐の奥さんは、どうやら強烈な人物のようだ。
話の展開に呆気に取られながら、真琴は次に話し始めたお淑やかな雰囲気を持つ藤井の言葉へと耳を傾けた。
「隣のお家にね、高校生の息子さんがいるのだけど、最近様子が変なのよ」
「へぇ、変ってどんな?」
「毎日思いつめた顔で帰ってくると思ったら、夜中に急に叫び出したりね……学校で何かあっているんじゃないかしら」
「いじめ…かしら?」
「最近の子供は平気で人を傷つける子も多いからねぇ…早まらないといいけれど」
「そうねぇ。雄太くん…あ、その子のことだけど、昔から優しい子で少し気の弱いところがあったから…心配だわ」
それから話題は変わり、朝方まで続いたその会談は朝日が昇り始めたことにより終わりを告げた。
やはり死んでも人の噂好きは治らないのだろう、なんて考えていた真琴だったが、心の隅に藤井から聞いた話が引っかかっていることに気付く。
人気の無くなった部屋で、涙を流しながら何度も真琴の身体を優しく撫でる母。その様子に罪悪感が湧くが、一通り終わったら様子を見に行ってみることにした。
今はただ、家族の最期の時間を。




