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さくらのはな  作者: 日縒 千夜
春は出会いと花見酒
6/59

6. 除霊


「桜庭さんと少し話しましたが、特に怒っていないようです」

「はぁ? じゃあなんであんな嫌がらせしたのよ!」


 部長との会話に、横から入り込んできた田中を飛鳥は睨み付けた。

 正直なところ、彼女に対していい気はしなかったのだ。

 同じ職場の人間が亡くなったというのに、そのような言い草をする田中。

 それも、前に自分が殺したも同然な人間がいるのにも関わらず、だ。


 初対面だというのに、飛鳥は彼女に対して嫌悪感を隠せずにいた。


「嫌がらせ、ですか。田中さん、それは貴方でしょう?」

「……はぁ?」

「死人でも働け、でしたっけ? 桜庭さんはそれを聞いて、少しでも手伝おうとしたらしいですよ。ここには他にも、貴方から嫌がらせを受け、自殺した方もおられます」

「――ふんっ、だから何だって言うのよ。大体、ここ、死人ばっかり出て、呪われているんじゃないの」

「さぁ? 呪われているのは職場ですかね? ……上田部長、桜庭さんはこのままでも自然と成仏されるでしょう。それでも除霊されますか?」

「いや、そのままで頼む。それより、その……自殺したという人がいたというのは初耳だ。そちらは……?」


 真琴が怒っていないと知り、あっさりと除霊をやめた上田部長。

 元々彼は気が進まなかったのだろう。そして、戸惑いながら続けられた部長の言葉に、飛鳥は首を傾げる。


「実は、私は四年前に他部署からやってきた身でね。それまでのことは、前の担当から引き継いだつもりだったが……どうやら都合のいいことだけを話していたようだ」


 不思議がる飛鳥の様子を察してか、上田は自身について話し出す。

 彼自身、初めて聞いた事実に驚きを隠せないようだった。

 そんな上田を見据えて、飛鳥は頷くと口を開いた。


「山田さん、というそうです。年は――二十代前半というところでしょうか」

「そうか。未来のある若者が……申し訳ないことをした。さぞ恨んでいるのだろうな」

「恨んでいない、と言えば嘘になるでしょうね。これからを捨てる選択をさせられたのだから。ただ彼からは、この職場に何かしようという意思は感じられません。……今は、ということですが。このままここに縛られ、長い時間を過ごせばそれもわかりません。他にも数名霊が集まっているようですし」

「そんなことになっているのか……。改めてお願いだ。きちんと山田さんをとむらってほしい。田中くんの方は上に報告した上で、然るべき対応をとる。随分と遅くなってしまったが、ご家族にも……」


 感極まり、涙を流す上田。

 彼にも今年大学生になったばかりの息子がおり、息子を亡くした家族の悲しみを考えると遣る瀬無かったのだ。


「……わかりました。では、山田さん、とついでに他の二人も除霊していきます」

「南雲さん、一つお願いしたいことがあります」


 今まで黙って成り行きを見ていた山田だったが、除霊の体勢に入った南雲の前へ立つと、まっすぐに彼の目を見やった。


「上田さんに伝えて欲しいんです。ありがとうって」


 あの時の部長が彼だったならば……。なんて考えて、山田は自嘲した。

 今更、たらればを考えたところで意味のないことだ。

 そんな山田の考えに気付いた飛鳥。しかしかける言葉が見つからずに、静かに目を閉じた。


「……わかりました。伝えます。他には何かありませんか? そっちの子達も」

「私達は何もないよね。ね、テルくん」

「うん。ちょっと怖いけど、アキちゃんと一緒なら僕頑張る」

「そうか。では、始めます」


 読経を始めた飛鳥。

 それが進むにつれて、三人の姿が薄れていく。

 真琴はその様子を見ながら、三人の冥福を祈った。


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