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さくらのはな  作者: 日縒 千夜
夏は花火に海水浴
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49. 人気者の彼女


 咲枝は人気者だった。

 いつも会話の中心にいて、だからといって他の――葵の様な引っ込み思案な人間にも平等に接し、それを鼻に掛けることもない。

 小・中学校と何度かクラスメイトになったこと葵は、そんな咲枝に憧れていた。


 最後に来た海水浴でも、彼女が気遣ってくれたお陰で、かなり楽しい時間を過ごすことが出来たと葵は記憶している。


 高校では数度遊んだ程度のため最後に会ったのは随分と前になるが、変わらぬ柔らかい笑顔の咲枝に、葵は時間も忘れて話し込んでいた。

 高校に入ってから今までのこと。今の大学での内容へと話は進み、気が付けば辺りは真っ暗。

 沢山いたサーファーはいなくなり、代わりに恋人達が寄り添う砂浜に変わったことで、何だか居心地の悪さを感じたその日はお開きとなった。

 誰もいない家に帰り、葵はハッとした。

 自分のことばかり話して、咲枝の話を聞いていないことを。

 それに自己嫌悪して、次に会ったときはちゃんと相手の話を聞こうと決めた。


 その決意が試されるのは意外と早かった。

 二日後のアルバイトの帰り道、同じ場所に咲枝がいたからだ。


「咲枝ちゃん!」

「……葵ちゃん。また会ったね」


 少し驚いた風に、何故か苦笑する咲枝にどこか違和感を感じたが、話す内にその感覚も忘れていた。


「咲枝ちゃんはどこの大学行ってるの? ここら辺?」

「……ううん、ここからは遠い、かな。久しぶりに戻って来たから」


 何の気なしに問いかけた言葉に、咲枝の表情が曇る。

 だけど会話を盛り上げようと必死な葵は気付かない。


「そうなんだ! いいなぁ、私も地元離れてみたかったよ」

「……そうなの?」

「このままここで就職して、一生冴えない生活送るのが想像出来ちゃうしね。でも私なんて他の所行っても上手くいく訳ないし、これでよかったのかも」

「そう、なんだ」


 咲枝の乾いた声が波の音に消される。

 急に白けた空気に焦り、場を盛り上げようとした結果、慣れない葵は更なる自虐へと走り始めた。

 早口に捲し立て、隣の咲枝の様子を見るが、俯いたその顔色は窺い知れない。


「――だ、だけどホント、咲枝ちゃんは凄いと思う! 可愛いし、人気者だし……私なんかにも優しくしてくれるし…………私も咲枝ちゃんみたいになりたかったなあ!」

「…………ムリだよ、葵ちゃんには」

「え……――?」


 突然紡がれた否定の言葉に頭が真っ白になる。

 自分で言ったことだが、どこかで彼女なら慰めてくれる、褒めてくれるって思っていたから。

 俯いていた顔は、今は真っ直ぐに葵に向けられていて、そこには怒りとそれを上回る悲しみが浮かんでいた。


「葵ちゃんは昔から”私なんか”って、最初から諦めてるよね。それに向けて努力したことあった? 口で言ってたら願いが叶うと思ってるの?」

「そっ、そんなことっ! 全部……全部上手くいってる咲枝ちゃんには、私の気持ちなんて分からないよ!!」


 自分が大声を出したことに驚く。

 今までは気に障ることを言われても、愛想笑いで流すことが多かった。

 叫んだ後にやってきた、やってしまったという後悔と居た堪れなさに、葵は咲枝の顔も見らずに走り去った。


 勢い良く鍵を開け目に入ってきた暗い見慣れた部屋に、靴も脱がずにそのまま玄関でへたり込んだ。


 ――怒りは、もう、感じていなかった。

 今感じるのは、悲しみと虚無感だけ。

 溢れ出す涙をそのままに、葵は暫くその場から動けなかった。


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