42. 普通の子
キィと建付けの悪くなったドアが擦れる音が響く。
ほんの少し、開かれた隙間から覗いたのは――八雲旭だった。
「お前っ何でここにいる!?」
旭はドアのすぐ傍に飛鳥の姿を認め安堵の表情を浮かべたが、飛鳥の怒声に跳ね上がった。
「ご、ごめん! けど、兄さんの様子が気になって……」
「それで着いて来たのか!?」
「え、いや机の上の紙に……ここの住所が書いてあったから……」
「紙だと……? それより、早くそいつらを連れて逃げろ!」
飛鳥が家を出る前には、机の上には何もない状態だった。
身に覚えがないそれに、飛鳥は怪訝な顔を浮かべたが、すぐに気持ちを切り替える。
そんな話はここから逃げ出してからにしたらいいのだ。
「ふぅん? 随分と美味しそうな魂ね」
「コイツに手を出すな!」
「わざわざ食べられに来て下さったのに手を出さないのも、ねぇ?」
「に、兄さん、この子……うわぁ!?」
「やめろッ!!」
自ら口の中に飛び込んで来た御飯を逃す者はいない。
口の端を持ち上げ、旭に躙り寄るゆり乃。
飛鳥が止めるために、腰に付けたホルダーから御札を取り出したとき――
ドアの傍から、間の抜けた声が聞こえた。
「あのー……お邪魔してます」
何が起こっているのか理解出来ていないが、ただならぬ状況だということを理解した真琴が、そこにいた。
「八雲さんが入って行くのが見えて……えっと……大丈夫?」
「あああ桜庭さん!!」
「……貴方も美味しそうね。だけど――桜、かしら」
ゆり乃の意識が真琴に向いた隙に、真琴へと駆け寄った。その一瞬で、男を二人を引っ張って移動させたのは流石だが。
旭程あからさまではないが、飛鳥も安心から顔を緩ませた。
手にしっかりと御札を握ったまま、少女の動向を見守る。
明来には真琴が視えないらしく、二人の様子に混乱していた。
「あ、その子達が南雲さんが言ってた……外にはまだ連れて行かないの?」
「い、いやそうなんだけど」
「旭、明来ちゃん! 今の内だ!!」
今度は妨害されることなく、三人を運び出すことが出来た。
彼らが外に出たのを確認して、飛鳥は安堵の息を吐いた。
「ふふ、別にいいわ。貴方達が遊んでくれるんでしょう?」
「いいよ。隠れんぼでいいかな?」
部屋の中で鬼ごっこをする訳にはいかない。
これ程の家ならば隠れる場所は沢山ありそうだ。
と、提案した真琴に、飛鳥がギョッとした顔を向けた。
「何言って……コイツは敵なんだ。早く逃げろ!」
「敵って……もしかしてこの子悪霊なの?」
「いやまだ――」
「なら大丈夫! 普通の女の子ってことでしょ」
「違うかな?」と小首を傾げる真琴に、二人分の呆れた視線が集まった。




