39. 霊側の意見
木々が揺れ、ざわざわと葉の擦れる音が場を占める。
見つめ合う男の一人、梅宮洋平の口から小さく空気がもれた。
それは、前に立つ男を嘲笑するような、または挑発するような響きを含み、男――南雲飛鳥へと届いた。
「南雲が女に頼るようになるなんてなァ。まだ泰三の方がマシだったか」
「梅宮…………確かに、桜庭さんをここに連れて来たことは悪いと思っている」
「それだけじゃねェだろ。小紋時町の霊……真琴が桜だか何だかの神から気に入られてんのを利用するつもりだろうが」
「…………」
真っ直ぐ睨み付けてくる洋平。
飛鳥は静かにそれを受けるが、否定の言葉はない。
「ハッ、身の丈に合った仕事をするんだな。それでテメェが死ぬのは勝手だが、アイツを巻き込むんじゃねぇ」
洋平から発せられる濃い霊気に、辺りの温度が下がる。
(――これが、梅宮洋平)
神田山の霊を総べる霊。その力の片鱗を垣間見た気がした。
「――分かった。桜庭さんは連れて行かない」
「ふん、最初っからそう言っときゃ良かったんだよ。それで? 小紋時の霊についてどこまで知ってんだ?」
張り詰めたいた空気が緩み、全身からどっと汗が噴き出す。
勝てない。
飛鳥がそう思うには充分だった。
「あの家――西園寺家の家族、三人が惨殺された。その恨みでこの世に残っている。関われば呪われる」
「家に行ったことは?」
「いや……」
誰でも知っているような内容しか知らない飛鳥に、洋平は「だろうな」と頷く。
「呪いねえ……テメェは家に誰かが勝手に入って来ても怒らねぇのか? 普通にキレて、追い出そうとすんだろ? その感覚じゃね?」
「は?」
ひっそりと住んでいる家に、いきなり他人が押しかけて来たら。それは怒らない者はいないだろう。
「喧嘩売っておいて反撃されたら酷評を流す。どっちが悪いんだろうなァ」
「……それでも、」
――それでも。
無意識について出た言葉が止まる。何を言おうとしたのか、何を、言うべきなのか……
それ以上、言葉は出なかった。
洋平はくっくっと笑っているが、その目は笑ってはいない。
いつも生者側に立ち、除霊師という仕事をしてきた飛鳥。
直接言われた霊側の意見に、衝撃を受けた。
きっと、こう思ってるのだろう。今までそう考えることはあったが、仕事柄か無意識の内に深く考えることを辞めていた。
「まぁ、そんだけでも気にしてたら、生きて帰れるんじゃねーの? バカ共の安否は保証できねぇが。そんじゃ、話は終わりだな」
取り残された者達の事を差した言葉に苦笑する。
明来が言うには、一人が置物を盗もうとしたとのこと。
彼には説明してない事だが、既に何らかを知っているのだろう。
(どうするかな……)
小紋時町の霊について大した情報が得られず、飛鳥は頭を抱える。
それ以上洋平との間には会話は無く、真琴が戻って来るまで一人考えを巡らせていた。




