37. 神田山 Ⅱ
洋平と飛鳥視点です。
何度目かも分からねぇ舌打ちに、隣にいる周が苦笑を浮かべた。
真琴の気配が近付いて来る。
気に食わねえ奴を連れて。
他の霊の報告を聞くまでもない。この霊力はアイツにそっくりだ。
――南雲泰三。
奴は過去に、この山の霊達を祓ったことがある。
力のねえ奴等ばかりだったが、あのときの屈辱は忘れねえ。
そんな奴の息子である南雲飛鳥。
真琴から話を聞くだけでも虫唾が走るっつーのに、何故この山に迎え入れなきゃなんねぇんだ。
無意識に奥歯を噛み締めていたことに気付き、ふと力を緩める。
隣で周のヤツが苦笑を浮かべているが、それは真琴に対してか俺に対してか。
「悪気がある訳じゃないんだよ、あの子も。……ちょっと頭が足りないだけで」
「…………」
「今回は俺達を祓いに来た訳じゃないみたいだし、許してあげてね」
――分かってる。
除霊師の目的が俺達じゃないことも。
そして勿論、真琴に悪気が無いことも、だ。
数時間前、少し離れた場所で大きな気配が揺らめいた。
その余波はこの山まで届き、子供達を怖がらせた。
誰か余計なことでもしたんだろ、って大して気にも留めていなかったが、まさかそれにあいつが巻き込まれているなんて誰が思うか。
むしろ巻き込まれねぇために、真っ直ぐ帰るようわざわざ念を押したのに。
巻き込んだ本人は間違いなく南雲だろう。
自分の中に黒いものが蠢くのを感じながら、俺は二人の到着を待った。
◇◇◇◇
「珍しいね、梅さんに会いたいなんて」
助手席に座った桜庭さんが心做しか嬉しそうに呟く。
彼女としては、友達に友達を紹介するような感覚なのだろう。
山に近付くにつれ、空気が冷たく――いや、鋭くなっていくが、この様子じゃ気付いてないと思う。
神田山は外交官の家にも並ぶ、有名な心霊スポットだ。
夜景や”怖いもの”を見るために訪れるバカもいるが、地元の者は決して近寄らない。
――特に夜は。
バックミラーに映る白い顔が睨み付けてくるのを見て、小さく溜息を吐いた。
山頂に近い駐車場に車を停める。
どうやら今日はバカが来ていないらしく、だだっ広い駐車場には俺の車だけがぽつんとある。
徒歩で頂上へと進む俺達を警戒するように、途中、木々に隠れるように様子を見る者達がいたが、彼等は怒っているような、はたまた困惑しているような、複雑な表情をしていた。
そんな彼等の様子に気が付かない桜庭さんは、「こっちこっち」と嬉しそうに道案内している。
「……真琴」
彼女を呼ぶ声が聞こえたと同時に、俺は鋭い殺気を感じた。
月の光も届かない真っ暗な洞窟の前に立っている男が二人。
一人は困った顔で彼女を見た後、俺を連れて来たことを窘め始めた。
そしてもう一人の男――梅宮洋平。
心の中で名前を呼ぶと、真っ直ぐに見つめていた瞳が細められた。
「何で、連れてきた?」
その地を這うかのような声に、背筋が冷える。
俺と桜庭さん、どちらに尋ねているのだろうかという疑問が一瞬浮かんだが、彼の視線が注がれているのは俺だ。
乾いた口を開き、ここに来た理由を話そうとするが、俺でない声がそれを遮った。
「女の子が危ないらしくて、心霊スポットにいる霊について教えて欲しいんだって」
もう一人の少年によって冷静に怒られ、少ししょんぼりとした桜庭さんだ。
この山の霊達の主、梅宮はちらりと彼女へと視線を向けると、これ以上になく大きな溜め息を吐いた。
「この馬鹿……」




