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さくらのはな  作者: 日縒 千夜
夏は花火に海水浴
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35. 旭の過去


「過保護だと思う?」

「え?」


 飛鳥を待つ為駅まで戻って来た二人。

 手持ち無沙汰に最終電車から下りて来た人々を眺めている真琴に気を使ってか、旭が問うた。


 確かに、考えてみれば成人の男に対しては少し過保護過ぎる気がする。

 自分の親も大学に通う弟の優希にはあまり厳しく言ってなかったな、なんて思い返しながらどう答えるか悩んだ。


「……まぁ、各家庭の教育方針があるから」


 真琴が返したのは無難な言葉だったが、旭はそれに一瞬目を見開くと悲しげに目を伏せた。


「俺と兄さんの名字が違う事も桜庭さんは聞かないよね」

「えーと……人には言いたくない事があるからね」


 生前、職場の先輩(田中さん)に家庭事情等を根掘り葉掘り聞かれた事を思い出し、少しうんざりする。

 わざわざ実家から遠い地で就職したのは何故かから始まり、弟の学部を聞けば「将来性が無い」等と余計な批判を入れる。

 弟が将来何の仕事に就こうが、田中さんには全く迷惑を掛けないのに。


 無意識に口を尖らせていた真琴に旭は柔らかく笑うと、「優しいんだね」と。


「……俺、幽霊って怖いものだと思ってた」

「え? ……人が死んだら幽霊になるんだから、性格とかあまり人と変わらないんじゃないかな? 確かに血塗れとか首が無かったりしたら怖いけど」


 今まで見てきた霊を思い浮かべる。

 見た目が怖いというのは分かる。

 首が完全に切れてしまっていた忠右衛門も最初こそその見た目で”怖い”と感じたが、中身は普通の”人”だった。

 電車の中で見た血濡れの女は……まあ、病んではいたが、生きた者にもそんな考え方の人は居るだろう。


 世間一般で言えば幽霊は”怖いもの”なのだが、これまで心霊番組やオカルトというものに関わりが無かった真琴はその感覚が無かった。

 幽霊は人が死んだらなるもの。ただそれだけだ。


「うん。桜庭さんに出会ってからはそう思える様になったよ」


 首を傾げる真琴に苦笑を浮かべると、少し迷うように視線を逸らした。

 言いたく無い話なのだろうと違う話題を探していると、彼が口を開くのを感じ耳を澄ました。


「俺、中学入学するまでは南雲だったんだ」

「……うん」

「南雲が除霊師してるのは知ってるよね。俺も兄さんも、小さい時から除霊師になるために修行してたんだけどさ、俺……才能無くて」

「…………」

「俺が小六の時――兄さんはもう父さんに付いて実際に除霊したりしてたんだけど…………」


 下げられたままの視線が悲しげに揺らぐ。

 無理しなくていい。

 そう言って止めようと覗き込む様に旭の顔を見る。が、ゆるゆると首を振ると続きを話し出した。


「――除霊は失敗してね。その霊は逃げ出したんだけど、別の日に俺を襲いに来たんだ」

「えっ」

「ここら辺で南雲っていったら除霊師だってすぐ分かるからね。その中で一番力が弱い俺を狙って来た訳」

「そんな事が……」

「すぐに父さん達が助けてくれたんだけど、霊達に俺が弱いってバレちゃったからさ。南雲に恨みを持った霊が全部俺のとこに来るようになったんだ」

「うわぁ……」


 悪意を持った霊達が旭に群がる姿を想像し、真琴は表情を歪めた。


「南雲に攻撃するくらいだから皆結構強い霊でね、苦労したよ。父さんの従兄弟に養子縁組してもらって八雲に変わってからは、襲われるのも減って良かったけどね」


 飛鳥と旭の名字が違う理由、そして飛鳥が旭を幽霊(自分)と関わらせない様にしていた理由を知り、真琴は言葉を失った。

 親族に対する恨みを一身に受け、耐え続けた。

 さぞかし大変だった事だろう。

 そんな簡単な言葉で片付けては失礼になる。


 口を噤んだ真琴の考えが分かったのか困った風に笑うと、元気付けるためか大きな声で続けた。


「だから今、桜庭さんが一緒に居てくれてすっごい心強い。この時間に一人って何気に怖いからね」

「そ、っかぁ……」

「ちゃんと修行は続けてるから大丈夫! ある程度の霊なら一人でも何とか出来るようになったしねっ」

「そう、なの?」

「うん。もしもの為に御札も持ってるし。だからそろそろ信用してくれてもいいと思うんだけどねぇ……」


 憂いを帯びた眼差しの先に、こちらに向かって走る一台のミニバンが映った。


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