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さくらのはな  作者: 日縒 千夜
間章
36/59

首無しの武士 IV


「ここのはずだが……」


 河原から離れる事数分。

 望月の屋敷があったという場所を訪れた真琴と忠右衛門。

 途中、河原の霊が追いかけて来たり、昔と道筋が違って忠右衛門が戸惑ったりというアクシデントがあったが、何とか到着する事ができた。


 今やマンションが立ち並び、当時の面影もないその地で、忠右衛門は何を思うか。

 呆然と立ち尽くす彼の耳に、真琴の声が入る。

 どうやら、通りすがりの霊に望月の事を知らないかと尋ねたようだ。

 腰の折れた老婆が申し訳なさそうに歩き去って行く。

 隣の真琴が頭を下げたのを見て、弾かれたように、彼も頭を下げた。


「ここらへんの人に聞いてみよう? もしかしたら、知ってる人がいるかも」

「……すまぬな」


 気を使わせたのだと、忠右衛門は感じた。

 忠右衛門の謝意に、真琴は照れたような曖昧な笑みを浮かべ、次の霊へと話しかけるのだった。


「望月……聞いたことある、かも」


 そんな言葉が返ってきたのは、小学生の集団の一人からだった。

 空振り続きで萎んでいた忠右衛門の顔がパッと明るくなる。

 作兵衛や新右衛門たち本人に会った事があるとは思えないが、望月に関する情報が少しでも欲しかった。


「どんな小さな事でも良い。教えてはくれまいか?」

「え、はっ、はい。昔、じいちゃんの話に確か望月って人が出てきた気が……」


 小学生に顔を近付け、食い気味で尋ねる忠右衛門に、少年は腰が引けている。

 もしも首が繋がる前であったら、泣き出していただろう。

 真琴は心の中で数分前の自分を褒めた。


「おじいさんにお話聞けるかな?」

「うん。でも…………」


 そう言って、言葉を濁す。

 食い入るように凝視する忠右衛門から視線を外し、少し首を傾げたままの真琴と目を合わせると、ゆっくりと口を開いた。


「ボケてるから。……期待しないでね」



 ◇◇◇◇



 公園内の、池を見渡せるベンチ。そこが老人の特等席だった。

 毎日変わらず、一日の大半をこの場所で過ごしてたいた。

 変わったのはご飯を食べる事も、家に帰る事もせずに済むようになり、文字通り一日をこの場で過ごす事になった事か。

 本来なら格好のデートスポットになりそうな場所だが、常に老人の霊()がいるからか、人通りは少ない。


 大和に教えられた場所で彼を見付けた真琴達。

 ゆらゆらと前後に揺れる肩を叩き、彼の視界に自分を入れる。


「大和くんのおじいさんですか?」

「おお? 大和を知っておるんか?」

「はい。望月家の事でお話を――」

(それがし)莇野(あざみの)忠右衛門(ちゅうえもん)と申す。望月について教えてくだされ!」

「おお、お侍か。最近はめっきり見らんくなったのう」

「某の事はよい。……その会うた中に望月の者がいたのか?」

「望月? ……望月…………ああ、望月! よいぞ、よいぞ。あれは一昨日の事じゃ。儂が友と虫取りに行っておってのぅ。そこで会ったのじゃ。夏だというのに真っ白か肌をしておっての。まるでそこだけ冬がきたみたいじゃったわ」


 一昨日と聞いて目を輝かせた忠右衛門だったが、続いた言葉に首を傾げる。

 これが大和の言う所の呆けなのだろうと、自身を納得させる。


「次の日儂一人で行ってみたのじゃが、まだそこに突っ立っておったわい。ちぃとばかし気味が悪う思ったが、何せ儂は好奇心旺盛での。近付いてみたのじゃ」


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