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さくらのはな  作者: 日縒 千夜
間章
33/59

首無しの武士


 月日が経ち、梅雨が終わる頃には、真琴もすっかり幽霊生活に慣れてしまっていた。

 家にいるとボロが出そうだと考えた真琴は、朝家族が起きる前に外出し、夜更けに帰るという生活を繰り返していた。


 今日も例に漏れず小雨の降る中外出していたのだが、もう少し、もう少しと足を伸ばす内に河原へと出た。

 晴れていれば格好の散歩コースのそこは、今は数える程の傘しかおらず寂しげだ。


 ――荒川。

 今は穏やかなこの川も、ひと度大雨が降ればその名の通り、荒れた川へと変貌する。

 堤防が出来てからの報告はないが、昔はよく氾濫(はんらん)し、辺りの家を困らせていたそうな。


 そんな荒川の河川敷を何気なしに見下ろした真琴だったが、すぐに小さく悲鳴を上げた。


 身を寄せ合うようにして固まる者達。皆一様に身体が濡れており、水が滴っているように見える。

 ただでさえ湿気の多い場所ではあるが、彼等のいる場所は輪をかけて空気が澱んでいるように感じられた。


 そして、彼等から少し離れた場所に座り込む武士が一人。

 その男には首から上がなく、胡座(あぐら)をかいた足の上で”それ”を大事そうに抱えている。

 その瞳は真っ直ぐ一点を睨み付けており、今にでも抜刀しそうな雰囲気を醸し出していた。


 出来るだけ、それを視界に入れないように、そして視界に入れられないようにこの場を離れようと踵を返す真琴に無情にも静止の声がかけられた。


「そこの女子(おなご)、暫し待たれよ。どうやら、そこらの霊とは違う様子。(それがし)の話を聞いてはくれぬか?」

「…………」


 厄介事の匂いがプンプンする。

 すぐにでも立ち去りたい気持ちではあるが、話しかけられた以上無視をするのも忍びない。

 これも何かの縁。

 時間を持て余していた自分にはうってつけなのだと、自分を納得させるためにひとつ息を吐くと、眉を下げてこちらを見つめる男へと歩み寄ったのだった。



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