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さくらのはな  作者: 日縒 千夜
間章
30/59

閉じ込められた男


「な、なあ! そこの――!」


 飛鳥達との話を終えて帰宅途中、切羽詰まった男の声を聞いた。

 いつもならば、他の人に話しかけているのかもと足を止めなかっただろう。しかし今回ばかりは何故か、それが自分に話しかけているのだと確信があった。

 真琴は足を止めると、声のした方へと振り向く。

 道には三人の姿があった。

 一人はサラリーマンの風貌の男で、携帯電話片手に誰かと話している最中のようだ。

 もう一人は主婦。買い物帰りのようで、パンパンに膨れたビニール袋を両手に掲げ、重そうに歩いている。

 最後の一人だが、半透明な体の老人のようだった。曲がった背中を揺らしながら、反対方向へと歩いていく。

 三人の中に声の主はいないようだ。


(……悪戯?)


 首を傾げ、このまま帰ってしまおうかと踵を返す。その様子に焦った声が待ったをかけた。


「お、おいおい! ちょっと待ってくれよ! こっちだよ、こっち!」


 声につられて顔を向けると、道路沿いの一軒家。その中から窓を叩く男が目に入った。

 勢いをつけて窓を叩いているというのに、その音は聞こえない。中にいる男の声は聞こえるのに、だ。

 他の通行人は気付かず歩き去ってしまった。


 真琴は近寄ると、ガラスを挟み男と向かい合う。


「ああ~、よかった! やっと話が通じるヤツに会えた」

「えっと……どうしたんですか?」

「俺をここから出してくれ!」

「え?」

「盛り塩だよ盛り塩。この家に閉じ込められちまった」


 困った顔で頭をかく男。真琴が横にある玄関に目を向けると、男の言葉通り扉の両側に盛り塩があった。

 男が言うには部屋の中にもあるようだ。


「俺達には触れねぇ。どうにかして外のを崩してくれ」


 試しに手をのばしてみるが、弾かれてしまう。

 どうにかしてと言われても、と周りを見回すが使えそうな物もない。


「どうにかって……」

「頼む。何とかしてくれよ~」


 途方に暮れる真琴を男が急かす。


「とにかく! 助けてくれ!!」

「うぅ……ちょっと、考えてみます」


 男の期待を背負い、真琴は夕暮れの中を歩き出したのだった。


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