閉じ込められた男
「な、なあ! そこの――!」
飛鳥達との話を終えて帰宅途中、切羽詰まった男の声を聞いた。
いつもならば、他の人に話しかけているのかもと足を止めなかっただろう。しかし今回ばかりは何故か、それが自分に話しかけているのだと確信があった。
真琴は足を止めると、声のした方へと振り向く。
道には三人の姿があった。
一人はサラリーマンの風貌の男で、携帯電話片手に誰かと話している最中のようだ。
もう一人は主婦。買い物帰りのようで、パンパンに膨れたビニール袋を両手に掲げ、重そうに歩いている。
最後の一人だが、半透明な体の老人のようだった。曲がった背中を揺らしながら、反対方向へと歩いていく。
三人の中に声の主はいないようだ。
(……悪戯?)
首を傾げ、このまま帰ってしまおうかと踵を返す。その様子に焦った声が待ったをかけた。
「お、おいおい! ちょっと待ってくれよ! こっちだよ、こっち!」
声につられて顔を向けると、道路沿いの一軒家。その中から窓を叩く男が目に入った。
勢いをつけて窓を叩いているというのに、その音は聞こえない。中にいる男の声は聞こえるのに、だ。
他の通行人は気付かず歩き去ってしまった。
真琴は近寄ると、ガラスを挟み男と向かい合う。
「ああ~、よかった! やっと話が通じるヤツに会えた」
「えっと……どうしたんですか?」
「俺をここから出してくれ!」
「え?」
「盛り塩だよ盛り塩。この家に閉じ込められちまった」
困った顔で頭をかく男。真琴が横にある玄関に目を向けると、男の言葉通り扉の両側に盛り塩があった。
男が言うには部屋の中にもあるようだ。
「俺達には触れねぇ。どうにかして外のを崩してくれ」
試しに手をのばしてみるが、弾かれてしまう。
どうにかしてと言われても、と周りを見回すが使えそうな物もない。
「どうにかって……」
「頼む。何とかしてくれよ~」
途方に暮れる真琴を男が急かす。
「とにかく! 助けてくれ!!」
「うぅ……ちょっと、考えてみます」
男の期待を背負い、真琴は夕暮れの中を歩き出したのだった。




