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さくらのはな  作者: 日縒 千夜
春は出会いと花見酒
29/59

29. 神さん

「やっぱそうか……こりゃあお手上げだな」


 入室早々、紡がれた泰三の言葉に真琴は顔を青くした。

 連れて来た飛鳥も、父の急な言葉に閉口している。


「お、お手上げって……」

「どういう事だよ、親父!」


 説明を求め飛鳥を見つめるが、彼もまた泰三にそれを求めており、視線が交わる事はなかった。


「落ち着け。今から説明する。飛鳥、茶の用意だ」


 自分の分のお茶が用意されるまで待つと、泰三は勿体ぶるかのように二人の顔を見回し、ゆっくりと口を開いた。


「まず、お嬢ちゃんは悪霊じゃない。これは確かだ」

「よ、よかったぁ……!」


 安堵の色を見せる真琴。飛鳥は続く言葉にしっかりと耳を傾ける。

 彼が分からなかった、成仏出来ない理由を聞き漏らさぬよう。


「そんでちょいと確認だが、お嬢ちゃん、最近神社に行かなかったか?」

「あ、昨日。えっと、大きな桜の……」


 神社の名前までは分からなかったが、特徴を伝えると、泰三は合点がいったようで頷く。


「茶屋辻通りの七宝神社だな。飛鳥、お前行った事あるか?」

「……確か前に一度」

「その時何か感じなかったか?」

「……」

「あまり知られてねぇが、実はあの神社には二人神がいるんだ。一人は神社が(まつ)っている石に。もう一人があの桜だ。ほら、昔から古い木には神が宿るなんて言うだろ? 今んとこ、注連縄(しめなわ)も何もしてねぇから分かりにくいがな」


 そこで、だ。

 そう一度言葉を切ると、真っ直ぐに真琴を見つめた。

 急な話の展開に首を傾げていたが、その真剣な面持ちに、ごくりと唾を飲んだ。


「嬢ちゃんはその桜の神さんに好かれたのよ」

「え……?」

「たまにあるんだよ。普通は生きた状態で気に入られるんだがなぁ……ほら、神隠しなんてのがそうだ。神さんがそいつを好きだから連れて行く。今回は霊体を気に入ってっからちぃと珍しいが……まぁ、簡単に言えばアンタは神の首輪がかかった状態だ。俺達も神にはおちおち手を出せねぇ」


 首輪と聞き、無意識に自分の首を触るが、そこには何も感じないし、何も存在しない。

 ただ、泰三によると纏う気に絡み付いているようなイメージなのだそうだ。


「どうやったら成仏出来るかっつー事だが……確か前に似たようなのがあった気がする。飛鳥、調べてやってくれ」

「お、おい! 調べるってあの過去リスの中からかよ!?」

「ついでに全部電子化してくれ。お前得意だろ」


 泰三は簡単に言うが、泰三の言う過去リスト、南雲家が除霊師として働き出してからずっと書き続けてきた物で、その数は膨大。

 日時、依頼者名、状況など、事細かに書かれているのだが、古い物だと変色したり虫に喰われたりと、読むのも難しい物もある程だ。

 前から、電子化せねばと言っていたのだが、この機会に飛鳥に全て任せる気なのが見てとれた。

 すぐ撤回しようと口を開くが、不安気に揺れる真琴の瞳が目に入ってしまった。

 自身を落ち着かせる為、長く息を吐き、「わかった」と。


「だが俺の仕事の合間でだ。いつまでかかるか分かったもんじゃねぇぞ」

「あ……ありがとう! 悪霊じゃないって分かったし、気長に待つよ。私が言うのも何だけど、無理はしないでね」


 来た時と違い、表情に余裕の出た真琴が、今度は気遣う色を見せる。

 無理はしないでほしいが、だからといって調べてもらえないとなると困る。そんな微妙な感情を含んでいるのに気付いたのか、飛鳥は苦笑で返すと泰三と向かい合った。


「こっちは俺がするが、親父も周りに聞いてみてくれ」

「ああ。それくらいならお安い御用よ」


 泰三が頷き、このまま閉幕かと思われたが、何かを思い出したように「あ、」と零した。


「そういえば、真中の野郎からいい酒貰ったんだった。嬢ちゃんも飲んでけ」


 酒を探しに行った泰三と、せっかくだからと旭を呼びに行った飛鳥。

 真琴は窓の外で咲き誇る桜に目をやり、柔らかく微笑む。春の風が花弁を一枚、はらりと室内へと運んだ。


いよいよ2016年も最後ですね。

皆さんよいお年をお過ごし下さい。

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