26. 動転する
家族の慌しく走り回る足音を聞きながら、ぐるりと部屋を見渡す。
いよいよ、成仏する日がやってきた。
結局片桐の件は未解決のままだが、会えないという事は、既に成仏している可能性もある訳で、真琴はそう自分を納得させると、自宅の中を走り回る母親を眺めた。
家族だけで行うからと自宅で法要する事になり、母の弥生はその準備にてんてこ舞いなのだ。
何にせよ、後少しで終わり。
死んだのと同じ時間に成仏するのか、或いは読経が終わってからなのか。
いつ成仏するのか分からない真琴は、今日一日、家族の側に居ようと決めていた。
沈んだ顔で喪服に身を包む家族を見るのは心苦しいが、家族が一番見える位置に座ると、僧侶が来るのを待った。
◇◇◇◇
「まだ……いいんだよね?」
読経も終わり、納骨も済んだ。因みに言うと、死亡した時刻もとうに過ぎた。だが、自身の体に変化はない。
不安に思いながらも、待つしかないのだ。
真琴は生前そうしていたように自室のベッドに横になると、瞳を閉じた。
何時間経っただろうか。鳥の囀りを耳に、勢い良く身を起こす。
「いや、これは遅すぎだって!」
朝日が透けた身体を通り、部屋を照らす。
成仏するタイミングが分からず、一晩様子を見てみたが、これはあまりにも遅すぎるだろう。
「もしかして、お寺さんがヤブだったとか? ……それか……」
死んでからの事を振り返り、顔色を悪くする。
柏木雄太の件で、片桐は真中太一に霊を付けていた。あの嫌がらせが本当は重大な犯罪で、自分はその共犯だと天に思われているのではないか。
そう思い至り、より一層青ざめた顔から嫌な汗が吹き出した。
「や、やばい……」
もしもの可能性を考えて、僧侶の不手際がないか確認しようと仏間へと行くと、弥生が仏壇に向かい手を合わせていた。
弥生は当然そこにいるものだと思っているのだから、なんだか騙している気持ちになる。
その背中が小さく感じ、余計罪悪感を感じるが、その位牌は中身がないのだと、その事で今焦っているのだと、真琴は伝える手立てを持たなかった。
「そ、そうだ。ネットで――!」
近くの漫画喫茶へと行き、目立たない部屋へと入る。家のパソコンだと家族に驚かれる可能性があるからだ。
”幽霊 成仏 できない”
緊張した面持ちで、検索結果を見る。
”悪霊”。その文字が占める結果に、眩暈がする。ちらほら”浮遊霊”の単語も混ざっているが、それに気付く程の余裕はなくなっていた。
「え、嘘。私、悪霊……?」
呆然とした真琴がその場を立ち去った後、パソコンが付いている事に気付いた店員が、その画面を見て小さく悲鳴を上げるのだった。




