25. さよなら
四十九日が明日に迫り、真琴は挨拶回りの為、慌ただしく走り回っていた。
先に成仏した眞弓の他に、藤井も成仏したと噂で知ったのだが、問題なのは片桐だ。近所の霊に聞いても出るのは悪い噂ばかり。肝心の居場所もはっきりしなかった。
朱音への挨拶を終え、最後に向かったのは神田山。
周が洋平を呼びに行く間、真琴は山に住む霊達と他愛ない話で盛り上がっていた。
「あっ、梅さん来たよ!」
「凛もっと真琴おねーちゃんとお話したい〜!」
「僕も! 成仏なんかしなきゃいいのにぃ」
「こら。ダメだよ、そんな事言っちゃ。ちゃんと送り出さないと」
「周兄ちゃん!」
駄々をこねる子供達をやんわりと叱るのは周だ。いつも相手をしてくれる彼の登場に、子供達の関心が逸れた。
このまま抜け出すよう目配せする彼に頷くと、真琴はこっそりとその場を離れ、苦笑を浮かべる洋平と共にいつもの街を見渡せる場所へと向かった。
「明日かァ……あっという間だったな」
「うん……梅さんにはほんっと感謝してる。いろいろ教えてもらったし……」
「まぁ……よかったじゃねェか」
「うん……」
「何湿気た面してんだ。成仏なんざ出来る時にちゃっちゃとしてしまった方がいいに決まってんだ。じゃねぇと俺達みてェになっちまうぞ」
洋平の軽口に、浮かない表情だった真琴もふと笑みをこぼす。
急に死んだからか、真琴は死んだ事に対する実感がなかなか湧かなかった。
しかし一月が過ぎ、この穏やかな時間が無くなるのだと考えると、急に不安が襲ってきたのだ。
働く訳でもなく、せねばならない事も無い。持て余した時間は、その不安感を増大させた。
「成仏かぁ……うん。大丈夫。入学式みたいなものだよね、きっと」
「は? 入学式?」
「新しく学校行く時って、緊張するでしょ? 多分、あんな感じ」
「よく分かんねぇが、ま、いいんじゃねぇか? そんな感じで」
彼女の例え話はよく分からないが、沈んでいるよりはいい。
そう思い直した洋平は、穏やかな顔の真琴と街の灯を見下ろした。
「もう帰れ。最後の夜なんだ。家族と過ごせ」
「ありがとう! 梅さんと話せてよかった。それじゃ……」
「おう」
”またね”とは言わず、出来る限りの笑顔で。
「……寂しくなりますね」
「ああ……お前も早く成仏しろよ?」
「ははっ、洋平くんが成仏したら考えます」
「……バーカ」
真琴が居なくなった場所で、洋平と周は街を見下ろし続けた。
◇◇◇◇
家への道を進む。
何度も通った道なのに、最後だと思うと感慨深く感じる。
「あ……ここ――」
道の隅にひっそりと佇む鳥居。
真琴が生前、何度か来た事のある神社だ。
日も暮れ、鳥居の奥には暗闇が広がっているが、何故だか恐怖は感じない。
引き寄せられるように鳥居を潜ると、真琴は拝殿へと向かった。
「こんばんは。桜庭真琴と申します。私が成仏した後も、家族がいつも元気でいられるように、どうぞよろしくお願いします」
願い事を終え、目を開くと何か動く物を捉えた。
ひらひらと舞い落ちていくそれは、桜の花びら。
「わぁ……!」
視線を上げ、思わず息を呑んだ。
樹齢何百年もあろうかという桜の木が、そこにあった。
その荘厳さ故か、明かりなどないのに輝いて見えるそれを瞳に収め、真琴は足どり軽く家路を辿った。




