24. 悩み事
反抗期云々の一件から、毎日少しずつ真琴の部屋は片付いていった。
ある時は思い出の写真で手が止まり、またある時は幼い日の作品で――と、時間がかかってはいるが、彼らは毎日少しずつ、前に進んでいた。
今日も遺品整理にやって来た両親と入れ替るように、真琴は家を出た。
海へと続く道を漂う、彼女は浮かない表情だ。
数日前の夜、部屋で寛ぐ真琴の元に眞弓がやって来た。
四十九日を明日に迎え、成仏前に挨拶回りをしているというのだ。
近所の霊の噂話によると、翌日に無事成仏する事が出来たとの事だが、別れる前に眞弓が告げた言葉が引っかかっていた。
――最近、片桐の様子が変だ、と。
折角明日には成仏出来るのだから、とその場では気にしないよう伝え、その後も真琴自身すっかり忘れ去っていたのだ。
昨日、片桐に会うまでは――
虚ろな目で徘徊する彼女。快活であった面影も無く、独り言を呟きながら彷徨う様はまさしく亡霊。
話しかけるのを躊躇うが、既にお互いの顔が見える距離。真琴は勇気を出して歩み寄った。
「あの……、片桐さん?」
「……え? あぁ、えっと……真琴ちゃん、ね……」
「はい! お久しぶりです」
目の焦点が合った片桐に、真琴は安堵する。未だ話し方に覇気は無いが、つい先程までの彼女を見た後だからか、なんて事は無いように感じた。
「この前、眞弓ちゃんが成仏したみたいです。藤井さんはお元気ですか?」
「藤井? 誰の事?」
「え……、柏木雄太君のお隣さんの……片桐さんとよく一緒にいたじゃないですか!」
嫌な予感がして、思わず説明に力が入る。
見た目の特徴やら性格やら、真琴が知りうる限りの情報を伝えていく。
話している内に、片桐は藤井の事だけでなく、他の人や出来事までも忘れてしまっている事に気付いた。
真琴の頑張りも虚しく、片桐の記憶は戻らぬまま。
思い出せない事に罪悪感があるのか、申し訳無いといった様子で首を振った。
「大丈夫ですよ。何が原因か分からないですけど、きっとその内思い出しますって!」
「そうかしら……」
「そういえば!」
落ち込む片桐を励ますため、話題を変える事にする。
「私は来週成仏する予定なんですけど、片桐さんはいつ頃ですか?」
真琴の葬式に来ていたのだから、片桐の方が先だろう。
そんな軽い気持ちで聞いたのだが、片桐は浮かない表情だ。
「それがね、よく覚えてないの。もうそろそろだとは思うのだけど……」
「そう、なんですか? ……でも、遅くても来週までには成仏出来るから大丈夫ですよ」
「……そうね。気を使わせてしまって申し訳無いけど、貴方と話せて良かったわ」
やっと見せた穏やかな表情に、真琴も笑顔になる。
行く所があるからと、そこで片桐とは別れたのだが、一人になり考えるのはやはり片桐の事。
一日が経った今も忘れられず、真琴の頭を悩ませていた。
「うぅ……何で記憶が無くなったのか……藤井さんにも話を聞けたらいいんだけど……」
変に首を突っ込むと、話がややこしくなりそうで、その案をすぐに一蹴する。
浜辺に最近出来た友達の朱音の姿を見付け、走り寄った。
これ以上考えても、分からない事は分からないのだ。
自身が成仏するまでに、もう一度片桐に会うとして、今はガールズトークを楽しむ事にした。




