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さくらのはな  作者: 日縒 千夜
春は出会いと花見酒
24/59

24. 悩み事


 反抗期云々の一件から、毎日少しずつ真琴の部屋は片付いていった。

 ある時は思い出の写真で手が止まり、またある時は幼い日の作品で――と、時間がかかってはいるが、彼らは毎日少しずつ、前に進んでいた。


 今日も遺品整理にやって来た両親と入れ替るように、真琴は家を出た。


 海へと続く道を漂う、彼女は浮かない表情だ。


 数日前の夜、部屋で寛ぐ真琴の元に眞弓がやって来た。

 四十九日を明日に迎え、成仏前に挨拶回りをしているというのだ。

 近所の霊の噂話によると、翌日に無事成仏する事が出来たとの事だが、別れる前に眞弓が告げた言葉が引っかかっていた。

 ――最近、片桐の様子が変だ、と。


 折角明日には成仏出来るのだから、とその場では気にしないよう伝え、その後も真琴自身すっかり忘れ去っていたのだ。


 昨日、片桐に会うまでは――


 虚ろな目で徘徊する彼女。快活であった面影も無く、独り言を呟きながら彷徨う様はまさしく亡霊。

 話しかけるのを躊躇うが、既にお互いの顔が見える距離。真琴は勇気を出して歩み寄った。


「あの……、片桐さん?」

「……え? あぁ、えっと……真琴ちゃん、ね……」

「はい! お久しぶりです」


 目の焦点が合った片桐に、真琴は安堵する。未だ話し方に覇気は無いが、つい先程までの彼女を見た後だからか、なんて事は無いように感じた。


「この前、眞弓ちゃんが成仏したみたいです。藤井さんはお元気ですか?」

「藤井? 誰の事?」

「え……、柏木雄太君のお隣さんの……片桐さんとよく一緒にいたじゃないですか!」


 嫌な予感がして、思わず説明に力が入る。


 見た目の特徴やら性格やら、真琴が知りうる限りの情報を伝えていく。

 話している内に、片桐は藤井の事だけでなく、他の人や出来事までも忘れてしまっている事に気付いた。


 真琴の頑張りも虚しく、片桐の記憶は戻らぬまま。

 思い出せない事に罪悪感があるのか、申し訳無いといった様子で首を振った。

 

「大丈夫ですよ。何が原因か分からないですけど、きっとその内思い出しますって!」

「そうかしら……」

「そういえば!」


 落ち込む片桐を励ますため、話題を変える事にする。


「私は来週成仏する予定なんですけど、片桐さんはいつ頃ですか?」


 真琴の葬式に来ていたのだから、片桐の方が先だろう。

 そんな軽い気持ちで聞いたのだが、片桐は浮かない表情だ。


「それがね、よく覚えてないの。もうそろそろだとは思うのだけど……」

「そう、なんですか? ……でも、遅くても来週までには成仏出来るから大丈夫ですよ」

「……そうね。気を使わせてしまって申し訳無いけど、貴方と話せて良かったわ」


 やっと見せた穏やかな表情に、真琴も笑顔になる。

 行く所があるからと、そこで片桐とは別れたのだが、一人になり考えるのはやはり片桐の事。

 一日が経った今も忘れられず、真琴の頭を悩ませていた。


「うぅ……何で記憶が無くなったのか……藤井さんにも話を聞けたらいいんだけど……」


 変に首を突っ込むと、話がややこしくなりそうで、その案をすぐに一蹴する。


 浜辺に最近出来た友達の朱音(あかね)の姿を見付け、走り寄った。


 これ以上考えても、分からない事は分からないのだ。

 自身が成仏するまでに、もう一度片桐に会うとして、今はガールズトークを楽しむ事にした。


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