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さくらのはな  作者: 日縒 千夜
春は出会いと花見酒
23/59

23. 遅めの反抗期


 反抗期も何も、真琴の存在を感じられるのならいいじゃないか。

 そんな事を考えながら渋々脱いだ服で体を拭き、着衣した大輔。

 扉を開けた彼は、声を失った。


 頭には防災時のヘルメットを被り、片手にモコ、もう片方にはティーカップを握った彼女。

 立ち尽くす大輔を見ると、不安気に視線を彷徨わせた。


「やっぱり、武器も持たなきゃダメかしら。娘だから、そんな物は持ちたくないのだけど……」

「いや……そもそも、その格好は何だ?」

「え? 物が飛んできたら危ないでしょう? こっちは、気分を落ち着かせるカモミールティーよ」

「あ、ああ。カモミール……」

「とにかく! あなたもこれを被って! まずは落ち着くよう説得して、要求を聞き出すのよっ」


 真琴も優希も真っ直ぐに育ち、目立つ反抗期を迎えなかったのだ。元々の天然気質に拍車をかけ、弥生は完全に迷走していた。

 そんな弥生に呆れた視線を向けるものの、大人しくヘルメットを被る。

 真琴が死に、最近の弥生はすっかり落ち込んでしまっていた。

 そんな妻が元気を取り戻したのだから、理由は何にせよ、夫として彼女を白けさせる事は言いたくなかったのだ。


 足音を立てないように慎重に階段を上っていく。なみなみに注がれたカモミールティーが溢れ、床に落ちていく。部屋に入る前に後ろの大輔に目配せする弥生は、さながらドラマの警察官のよう。


 壁に体を寄せたまま、部屋の入口へとティーカップを置いた。随分と量が減ってはいるが、彼女は満足そうに頷く。


「真琴、そこにいるのはわかっているのよ。抵抗は止めて、大人しく出て来なさい!」

「………」


 出て来られると言うのなら、二人にとってそれが一番嬉しい事だろう。

 暫く、そのまま娘の反応を待った二人だったが、彼女がひょっこりと顔を出す事は無い。二度と、無いのだ。

 分かっていた事とはいえ、現実を突き付けられ、気落ちした二人。

 先程までの姿が嘘のように意気消沈した妻の肩を抱くと、大輔は部屋の様子を確認する為、一歩踏み出そうとした。


「お、おい。お前……」


 思わず、肩を握る手に力が入った。

 何も。何もしていないのに、独りでにカップが倒れ、中身が溢れたのだ。


「あなた! 真琴よ! 真琴が返事をしてくれたのよっ」

「っ……!」


 急いで駆け寄り、部屋の中を確かめるが、そこに娘の姿は見えない。

 感極まった弥生の瞳から頬に落ちた涙をモコが舐め取るが、止めどなく溢れ出てくる。


 ふと、大輔は部屋の隅に積まれた荷物へと視線を向けた。床に落ちている物は、どれもそこから崩れ落ちたように見えたからだ。


 弥生を心配するようなモコの鳴き声が耳に入った時、大輔は悟った。


 ――これはモコの、いや、自分達の為なのだと。


「……弥生。真琴の部屋を片付けるぞ」

「片付けるって……っ、イヤよ! あの子が使っていたままで残しておくんだから!」

「もしも、ここにモコがいる時に、これが落ちてきたらどうなる?」

「………」

真琴(あいつ)は、俺達に後悔しないでいいように教えてくれたんだ」

「でも……あの子の思い出が……」

「それでモコが死んだら本末転倒だろう! ……俺達も、少しずつ前に進んでいこう」

「あなた……そうね。わかったわ。真琴もそう望んでいるのよね」


 部屋の隅から手を付けた二人に満足気に微笑むと、真琴はひっそりと部屋を出たのだった。



 ◇◇◇◇



「――って事で、自分の荷物見られるの恥ずかしいし、逃げて来た」

「へぇ、そんなもん?」


 山頂付近の岩に腰掛け、街を見下ろす真琴と洋平。茜色の夕日が瞳に入り、眩し気に細めた。


「あぁあ。部屋を片付ける気になってくれたのは嬉しいけど、今回は失敗したなぁ」

「物動かしてるとこ見られたってヤツ?」

「それもだけど、お茶溢しちゃったのがね……。中身が気になって見に行ったら、引っかかっちゃって。存在感じちゃったら悲しむと思って、ひっそりと暮らそうと思ってるのにー!」


 心底残念がる真琴に、苦笑を浮かべる洋平。そう心掛けるのはいいが、彼女の事だ。何だかんだ気付かれてしまうのだろう。

 すぐに想像が出来てしまい、吹き出した洋平に恨めし気な視線を向けた。


友達の結婚式に出席して来ました。

凄く幸せそうで、こっちまで嬉しくなりました。

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