表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
moment  作者: しん
7/38

第七幕

昨日は大事な同盟も無事結んで、今日は一日ゆっくり過ごそうとみんなでお茶を飲んでいる。


「お邪魔しもす」

聞いたことのある声が玄関からする。

行ってみると西郷さんだった。

「西郷さん、こんにちは」

「こ、こんにちは。はぁはぁ」

「どうかしたんですか?そんなに慌てて」

「実は、、」

話を聞いてみると、

「ええーーー!!?わたしが大久保さんの許婚のフリをするんですか!?」

「そうでごわす」

申し訳なさそうに頭を下げる。

「いえ、頭を上げてください。とりあえず、中に入って話しましょう」

みんなのいる部屋に入って西郷さんから聞いた話をする。

「ダメです!絶対反対です!!!」

「わしも中岡に賛成じゃ!!」

「私も」

みんな口々に反対する。

「そこをなんとか」

と西郷さんが困ったような顔をする。

「いいんじゃないか?」

以蔵の一言にみんながいっせいに声の主を見る。

「あ、いや。薩摩に借りをつくるのはという意味だ」

「借りって…」

「じゃが、」

「わたしは構いません」

「ナナちゃん!」

「だって、大久保さん困ってるみたいだし。それにみんなで助け合おうって昨日話したばかりじゃないですか」

「そうだが」

「西郷さん、わたしに出来ることはお手伝いします」

「本当でごわすか?助かりもす!!」

西郷さんは今にも泣き出しそうだ。

「ではさっそく薩摩藩邸まで来ていただけますか?」

「わかりました。では行ってきますね」

「ああ、気をつけて」

「何かあったらすぐ言ってくださいね!」

「ナナさん」

「大丈夫です。心配しないでください」

笑って寺田屋を出る。


道中、西郷さんから詳しく話を聞く。

ことの発端は、大久保さんにお見合い話がきたことから始まる。

「一蔵どん、手紙で話していた件だが」

「見合いはせん!」

「しかし、今回のは有栖川様のこ息女で」

「知っておる!だが、妻を娶る気はない」

「有栖川様にはこれまで何度もお世話になってる」

「それは、仕事で返している。嫁までもらう義理はない」

「何でそんなに嫌がる?他に好きなおごじょでも?」

「…そうだ」

「!どこのお方でごわすか?」

その時に出たのがわたしの名前だったらしい。

そのことを有栖川様にお伝えしたところ、ぜひお会いしたいとのことで、わたしが許婚のフリをするハメになった。


薩摩藩邸に着くと、部屋に通される。

そこには絶対高価であろう着物と履物、簪、櫛が置いてあった。

「これは?」

「一蔵どんがナナさんの為に用意したものでごわす」

「こんなに…」

「出発は昼過ぎです。それまでにご準備してくだせえ」

「はい、わかりました」

西郷さんが部屋から出ていく。

目の前にある豪華な着物を手に取り、触ってみる。

「綺麗…」

「気に入ったか?」

後から声をかけられる。

スッと障子が開いて大久保さんが入ってくる。

「迷惑を掛ける」


「いえ、でもどうしてお見合いしたくないんですか?」

「…わたしは今の日本を変えたいと思っている。だが、その分敵も多い。いつ闇討ちされるか、戦で死ぬか分からん身だ。そんなわたしが妻を持つ資格はない」

「大久保さん…」

「利通」

「え?」

「向こうへ行ったらわたしのことは利通と呼べ」

「わかりました」

「何か必要なものがあれば言え」

「いえ、大丈夫です」

そうか、と言って大久保さんは部屋を出ていく。


馬車に乗って有栖川様のお屋敷へ向かう。

「よく似合っている」

大久保さんが着物を褒めてくれる。

「ありがとうございます」

お屋敷に着くと、有栖川様が出迎えてくれる。

「いらっしゃい、大久保君」

「ご無沙汰しております」

「お邪魔します」

お屋敷の中は広くて迷路のようだ。

応接間に案内される。

「こちらがお手紙でお伝えしたナナです」

「ナナです。初めまして」

ペコリと頭を下げる。

「あらまあ、可愛らしい方」

「大久保君も隅に置けないな」

優しそうな方で良かった。

少し世間話をして

「厠をお借りしても?」

「突き当たりを右よ」

大久保さんが行くのを見送る。

「大久保君とは長いのかね?」

「え?あ、いえ、そんなには。」

「ずっとお見合いの話を断っていた大久保君に、まさか許婚がいたとは」

「お、利通さんがお見合いを断っていたのには理由があるんです。」

「そうなのかい?」

「はい。利通さんは今、日本を良くしようと走り回っています。でも、反対の意見を持つ人もたくさんいます。いつ殺されるか分からない自分に妻を娶る資格はない。と申しておりました」

「そうか、そこまで」

「はい」

「あなたはそれでもいいの?いつ居なくなるか分からない夫で不安はないの?」

「不安です。でも、日本を変えようとしているあの人を傍で支えてあげたいんです。それに、わたしこう見えても剣が使えるんです。いざとなれば、利通さんはわたしが守ります!」

「はははは!それは頼もしい!」

「本当に大切に思っているのね」

「有栖川様、そろそろ」

厠から戻って来た大久保さんが言う。

「そうね、忙しいのに時間を取らせてごめんなさいね」

「いえ」

「またいつでも遊びにいらっしゃい」

「ありがとうございます」

「お邪魔しました」

馬車に乗って来た道を帰る。

「ふぅ~」

何とかバレずに済んで良かった。でも、あんなにいい人たちを騙しているようで心が痛かったな。

「先の言葉は本心か?」

「え?ああ、そうです!以蔵直伝なので強いんですから!だからいつでも頼ってくださいね」

「そうじゃなくて」

「?」

何のことかと首を傾げると

「まあ、よい」

そう言って馬車の外を見る。

薩摩藩邸に戻り、着物を返そうとすると

「いらん。お前にやる。」

「え!でもこれお高いですよね?」

「礼だ」

そう言ってそっぽを向く。

「あ、ありがとうございます!大事にしますね」

寺田屋まで西郷さんが送ってくれる。

「本当に助かりもした」

「いえ」

「ナナさん、一蔵どんの本当の許婚にはならんか?」

「へ?そんな!大久保さんが嫌がりますよ」

「一蔵どんは喜ぶと思うが」

「それはありえません」

はははと笑う。

寺田屋に着いて

「ありがとうございました」

「こちらこそありがとうございもした」


広間に行くと、みんなが部屋で待っていた。

「ナナちゃんお帰りなさい!」

「何も変なことされなかったかい?」

「大丈夫がか?」

掴みかかる勢いで迫ってくる。

「大丈夫ですよ!上手くいきました!」

「そうか、お疲れさま」

「これは何ですか?」

着物や髪飾りの入った風呂敷を指差す。

「あ、これね。大久保さんがお礼だってくれたの」

風呂敷を広げて中を見せる。

「これは!京に一点しかないと言われる幻の着物!」

「この簪たちも高価なものばかりです」

「大久保さんわかり易すぎるぜよ」

「やっぱり返したほうがいいでしょうか?」

「いいんじゃないか?貰えるもんは貰っておけ」

以蔵が興味無さそうに言ってくる。

「そうだね」

部屋に戻ってシワにならないように着物を掛ける。

簪と櫛も机の上に並べる。

お礼のお手紙を書こう。そう思い、紙と筆を取る。


後日、ナナからの手紙を受け取った大久保さんは、終始機嫌が良かったそうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ