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moment  作者: しん
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第六幕

今日は大事な会合の日。

部屋には、龍馬さん、武市さん、慎太さん、以蔵そして高杉さん、桂さん、大久保さんがいる。

みんな心無しかいつもよりピリピリしている気がする。

「わたし、居てもいいんだろうか…」

そして、わたしも何故か高杉さんの要望で参加している。

「ナナちゃんが居てくれたほうが勇気出ます!」

慎太さんが嬉しそうに言う。

「お待たせしもした」

ガラッと障子の開く音がする。

「西郷さん、お待ちしちょりました!」

西郷さんが大久保さんの隣に座る。

西郷さんってあの西郷隆盛!?

銅像の犬連れてる人?

会合は慎太さんの先導で進められていく。

「この内容で御二方異論はありませんね?」

「ああ」

「はい」

西郷さんと桂さんが答える。

「では、この書状に血判を」

お願いします。と言いかけたところで

「待て!!!」

とつぜん、今まで大人しくしていた高杉さんが大声を出す。

「俺は納得してない」

「晋作…!」

「だってそうだろう?俺たちの同胞は薩摩のやつらにたくさん殺されたんだ!例え未来の為とはいえ!!!」

「そのことについては、何度も話しただろう!!」

「納得いかん!!!!!!」

高杉さんはすごく怒っている。

場が一気に静まり返る。

確か、薩摩と長州は敵対していて、お互いに沢山の犠牲があったんだよね。

わたしは堪らなくなって


「あ、あの~」


みんなの視線が一気に集まる。

「犠牲になった人たちが望むことって何でしょうか?」

「もし、今ここで争いが起きたとして、わたしが犠牲になったとしたら」

「わたしが望むのは、ここにいる人たちの幸せです」

「犠牲になった人たちのことを思うなら、残された人がすべきことは争いを止めることです」

「それは、残された人にしかできないことじゃないでしょうか」

「だから、その」

静まり返った場に、言いよどんでいると

「おはんの言いたいことはわかりもした」

西郷さんがニコッと笑う。

「高杉さん、わいはもう争いはしたくありもはん」

「……」

高杉さんは黙ったままだ。

そんな高杉さんに、慎太さんが訴えかける。

「高杉さん、これまでたくさんの犠牲がありました。それは薩摩も同じです。命を落としていった同士の為にも俺たちが協力しなければなりません!新しい日本を作るには、薩摩、そして長州の力が必要なんです!!どちらも欠けてはいけないんです!!」

高杉さんがゆっくりと目を閉じて、息を吐く。

そして、西郷さんを見据える。

「西郷さん、争いはここで終わらせよう」

「高杉さん…!!」

「はい、そうしましょう」

桂さんも後ろで嬉しそうに笑っている。

「しぇいくはんどじゃ!」

そう言って龍馬さんが二人の手を握らせる。

そして、書状に血判を押して同盟は無事結ばれた。

「よし!同盟も上手くいったことだし、宴会だ!!!酒を持って来い!!」

高杉さんが音頭をとる。

ワイワイと宴会が始まる。

「中岡、おまんのおかげぜよ!」

「本当だ、良くやった」

慎太さんがみんなに褒められている。

「そんなことないです。これもナナちゃんのおかげです!」

そう言って慎太さんがわたしを見る。

「そんなこと!慎太さんが頑張ったからだよ!」

「いやいや、ナナちゃんが」

二人でお互いに譲り合っていると

「ええーい!!俺の前でイチャつくな!!!」

バリッと高杉さんに引き離される。

「ふん、女で男は変わるものだな」

大久保さんは遠くからみんなを見ている。

慎太さんに

「今回はご苦労だったな。これからもよろしく頼む」

そう言ってお酒を飲む。

「はい!!」

慎太さん、すごく嬉しそうだ。

上手くいって良かったー。

みんなの楽しそうな様子を眺めていると

「ナナ!何か歌を歌って聞かせろ」

大久保さんからの指名が入る。

「え?歌ですか?」

「以前、えげれす語の歌を歌っていただろう?もう一度聞かせてくれ」

少し考えて

「わかりました」

息を吸って歌詞をメロディーに乗せて歌う。

「~♪」

「~♪~~♪ララララ~♪」

歌い終わってお辞儀をする。

「わぁあーーー!!!」

「何て綺麗な歌声だ」

「惚れ惚れするぜよ」

みんなが歌の感想を言ってくれる。

「どういう歌なんですか?」

慎太さんが聞いてくる。

「これは、祈りの歌なの」

「祈りの歌?」

「うん、みんなで協力し合って争いのない世界にしましょうっていう歌」

「どうしてそれが祈りの歌なんですか?」

「人は壁にぶつかったり、問題が起きると道を見失うでしょう?だからその時は、正しい道に導いてください。って神様に祈るの」

「へぇー。素敵な歌ですね!」

「わたしの一番好きな歌なの」

「よし!今度は俺様が歌うぞ!!」

そう言って三味線を片手に高杉さんが歌い出す。

「三千世界の~」

なんか歌舞伎みたい。独特な調子の歌だ。

「どんな歌なの?」

「恋の歌です」

「恋の歌?」

「はい、『三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい』訳すと、世の中すべての朝早くから喧しいカラスを殺して、貴方とゆっくり朝寝がしてみたい。という意味です」

「過激な歌だね」

「そうですね。でも、気持ちはわかるような気がします」

「そう?」

「はい。俺もナナちゃんと誰にも邪魔されず、ゆっくり二人で話したいです」

「カラスを殺さなくても話せるよ」

「そうですね」

二人で話していると、大久保さんがこちらを見ていることに気づく。

お酒注ぎに行ったほうがいいかな。

お酒を持って大久保さんの隣に座る。

「お前のおかげか」

急に話を振られる。

「え?」

「中岡だ。そなたが何か助言したのだろう?」

「いえ、わたしは何も。慎太さんが頑張った結果です」

「謙虚なもんだな」

差し出された空の杯にお酒を注ぐ。

「もじょかおごじょですな」

隣に座っていた西郷さんが話しかける。

「?」

訛りが強くて意味が分からない。

「まあな」

大久保さんが答える。

「一蔵どんのいい人でもすか?」

「別にそういう訳ではない」

「そうですか」

何話してるのかさっぱり分からない。

「あの~」

「ああ、さっきのもじょかと言うのは、」

と西郷さんが説明しようとすると

「んん!吉之助どん、あまり酒が進んでないな。どれ注いでやる」

「おお、あいがて」

西郷さんがお酒を美味しそうに飲む。

「おい!ナナ!こっちへ来い!!」

高杉さんに呼ばれる。

「何ですか?」

「俺にも酒を注いでくれ」

「はいはい」

お酒を注ぐ。

「ん~!!ぷはぁあ~~!!!上手い!今夜の酒は実に上手いな!」

どんどんお酒が進む。

「飲み過ぎですよ?」

高杉さんを嗜めると

「今夜はめでたいんだ!固いこと言うな!ほれ、お前も飲め!」

とお酒を勧められる。

「わたし、まだ未成年ですから」

「ん?もう立派な大人だ!いいから飲め!」

強引に口に杯を付けられる。

「ん!」

喉に熱いものが通る。

「う~!不味い…」

わたしが顔を顰めると

「わははは!ナナは酒が弱いんだな!」

「こら!晋作!無理矢理飲ませるんじゃないよ」

桂さんが気づいて怒ってくれる。

「大丈夫かい?」

「はい」

桂さんが心配そうに顔を覗き込む。

何だか身体が熱くなってきた。お酒のせいかな。

少し風に当たろうと縁側に出ると、先客がいた。

「龍馬さん」

龍馬さんが後ろを振り返る。

「ナナさん、どうしたがじゃ?」

「少し風に当たろうと思って」

「ほうか、ならこっちに座り」

龍馬さんの隣に腰を下ろす。

「煩かったかの?」

「いえ、みなさん嬉しそうなのでわたしも楽しいです」

「ほうか、そう言ってくれるとありがたいぜよ」

「戻らなくていいんですか?」

「ちくと月を見ながら飲みたくての」

そう言って月を見上げる。

「ふぁあ~~」

龍馬さんが大きなあくびをする。

「よかったらどうぞ?」

自分の膝をトントンと叩く。

「ええんかの?」

「はい、特別ですよ」

「こりゃ役得じゃ」

ニコニコとわたしの膝の上に頭を乗せる。

「重くないかの?」

「大丈夫ですよ。少し休んでください」

「お言葉に甘えさせてもらうぜよ」

少し癖のある髪を指で梳くと、寝息が聞こえてくる。

「もう眠っちゃった」

疲れてたんだろうな。

いい夢が見られるように子守唄を歌う。

「~♪」

「ん、うーん」

龍馬さんが身じろぎする。

「起こしちゃいましたか?」

「いんや、続けてくれ」

「はい」

「~♪~~♪」


少しして、龍馬さんと宴会をしている部屋に戻る。

武市さんと慎太さんは酔いつぶれて、以蔵は何故か泣いている。

桂さんはいつもと変らない様子でお酒を飲み続けている。

高杉さんはお腹に筆で顔を描いて腹踊りをして、それを西郷さんが笑って見ている。

大久保さんは一人で杯を傾けている。

「何かすごいですね」

「そうじゃな」

眠っている武市さんと慎太さんに毛布を掛け、泣いている以蔵を龍馬さんが慰めて寝かしつける。

食器の片付けをしていると、

「置いておいて構わないよ」

桂さんが止める。

「片付けはいいからこっちへ」

と言って腕を引かれる。

ポスッと桂さんの足の間に収まる。

「え?あの」

ぎゅっと後ろから抱きしめられて

「君はいつもいい匂いがするね」

クンクンとうなじのところを嗅がれる。

「ひゃっ!?か、桂さん!!?」

驚いて身じろぎするが、後ろから羽交い締めにされている為全く動かない。

「このまま腕の中から離したくない」

桂さん酔ってる?ど、どうしよう?

「高杉さん!」

お腹を出して踊っている高杉さんに助けを求める。

「ん?お!?小五郎!!ズルイぞ!俺も混ぜろ!」

そう言って抱きついてくる。

「ちょ!高杉さん!苦しいです!!」

バンバンと高杉さんの背中を叩くがどく気配はない。

西郷さんに至っては仲が良くて羨ましいですなぁ。と笑って見ている。

困ったなぁ~。と途方に暮れていると

「何をしている」

機嫌の悪い声がかかる。

「全く長州の頭がこうだと先が思いやられるな」

と言いながら、高杉さんをわたしから剥がしてくれる。

「あ、ありがとうございます。大久保さん」

「ふん。桂君もなかなかの助平と見える」

「そんなこと言って、自分も抱きしめたくて仕方ないのでは?」

バチバチと二人の間に火花が散る。

「生憎、女には困っていない」

そう言って部屋を出ていく。

せっかく同盟を結んだのに、このままじゃ無かったことにされるんじゃ…

「あの、ちょっと厠に」

「ああ、どうぞ」

桂さんが腕を緩めてくれる。

急いで大久保さんの後を追う。

「あれ?大久保さんどこ行ったんだろ」

廊下を曲がると、ドンッと誰かにぶつかった。

「す、すみません」

顔を上げると大久保さんだった。

「全く落ち着きがないな」

「すみません」

「あ、あの」

「何だ」

「同盟辞めちゃったりとかしないですよね?」

と、大久保さんを見つめる。

「さあな」

「え?」

「お前次第だと言ったら?」

そう言って大久保さんが近づいてくる。

「わたし次第?」

「そうだ」

クイッと顎を掴まれる。

「あの…」

もう少しで唇が重なる瞬間。

「大久保さん!!!」

龍馬さんが走って来る。

「何してるがじゃ!」

大久保さんに掴みかかる。

「龍馬さん!」

「離せ、坂本君。少しからかっただけだ」

龍馬さんが大久保さんの着物を離す。

「こん子はまだうぶじゃき。からかうのは止めとうせ」

「ふん、分かっている」

大久保さんが去ろうとする。

「あ!大久保さん!」

わたしが呼び止めると、立ち止まって

「心配するな。一度決めたこと、そうやすやすと変えたりはせん」

そう言って部屋へ戻って行く。

「良かったぁ~」

ほっとため息をつくと

「大丈夫かいの?」

龍馬さんが心配してくれる。

「大丈夫ですよ!少しびっくりしましたけど」

「ほうか、あんまりあん人とは二人っきりになったらいかんぜよ」

「はい」

部屋に戻るとみんな眠っていた。

「わしらもそろそろ寝るかの」

「そうですね」

「ナナさんは隣の部屋を使うといいぜよ」

「…一緒に寝ちゃダメですか?」

「へ?」

「一人じゃ何だか寂しくて、あ!でもダメですよね。すみません」

そう言って部屋を出ようとすると

「わしは構わんきに」

「ありがとうございます!」

空いているスペースに布団を敷く。

少し離して、隣に龍馬さんが布団を敷いていく。

「眠るまで何か話でもするかの」

「はい」

「ほうじゃな、ナナさんの夢は何じゃ?」

「夢ですか?んー、小さい頃はお花屋さんだったけど、今はそうだなぁ、学校の先生かな」

「学校?」

「えーと、寺子屋の先生です」

「ほおー、先生かぁ。ナナさんに合うてるの」

「ありがとうございます。龍馬さんの夢は何ですか?」

「わしの夢は、世界を自分の船で見て回ることじゃ!」

「わあ!素敵ですね!」

「世界には知らんことがまだまだぎょうさんある!わしはそれを見てみたいんじゃ」

「きっと叶いますよ!」

「おう!叶えちゃる!」

にしし。と子どもの様に笑う龍馬さん。

「そん時は、おんしも一緒に連れてっちゃる」

「本当ですか?」

「ああ、男に二言は無いぜよ!」

「約束ですよ?」

「ああ、指切りげんまんじゃ」

お互いの小指を絡ませて指を切る。

「もう眠るかの」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみ」

そして眠りにつく。


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