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moment  作者: しん
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第五幕

「こんにちは」

「本日もよろしく頼むよ」

今日は長州藩邸で桂さんにえげれす語を教える日だ。

「ここは、、そうです。はいそれでyouはここに」

「こういうことだね。うん、何となく文法は分かってきた気がする」

「桂さん、飲み込み早いです!」

「先生の教え方がいいんだね」

「いえ!そんなこと」

「ええーい!!俺も混ぜろ!二人だけで楽しく話をするな!」

後ろから駄々をこねる声が聞こえてくる。

「もう終わりますから、待っていてください」

「本当だな!早くしろよ!」

ブツブツ言いながら胡坐をかいて待っている。

「じゃあ、今日はここまでにしましょう」

「ああ、ありがとうございました」

「お疲れ様でした」

「終わったか!!?」

嬉しそうにわたしたちの間に割って入ってくる。

「お茶入れてくるよ」

「あ、ありがとうございます」

桂さんが席を立つ。

待ってましたと言わんばかりに高杉さんが近寄ってくる。

「やっと二人っきりだな」

「桂さん、すぐ戻ってきますよ」

「それまでは二人きりだ!」

ニコニコと顔を近づけて来る。

「何ですか?」

「何って、決まってるだろう?口付けだ!」

「は!?」

何を言っているんだこの人は。

「しません!」

「!何故だ!?」

「何故だって当たり前じゃないですか!好きでもないのに」

「俺のこと嫌いなのか」

「嫌いじゃないですけど、そういうことは恋人同士がするものです」

「じゃあ恋人になろう」

「結構です」

「少しは考えろ」

「考える余地もありません」

「うーむ。まあ時間はたくさんあるからな。ゆっくり攻めていくさ」

何か怖いことを言われているような…

「お待たせ」

桂さんがお茶と茶菓子を持って来てくれる。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

お茶と茶菓子をいただいていると

「ナナちゃーん」

玄関の方から声が聞こえてくる。

「迎えが来たみたいだね」

玄関へ向かう。

「ナナちゃん、お疲れさまです」

「お迎えありがとう。慎太さん」

「これくらい構わないですよ」

「それじゃあ、桂さん、高杉さんまた」

「ああ、道中気をつけて」

「またな!」

二人に見送られて藩邸を出る。

「高杉さんにちょっかい出されませんでしたか?」

「ちょっかいというか、キスされそうになったかな」

「きす?魚のことですか?」

「ううん、魚じゃなくて口付けのこと」

「ああ、口付けのことですか、、口付け!!?」

慎太さんは驚いて目を見開いている。

「高杉さんに口付けされたんですか!!?」

「あ、いや。されそうになっただけでしてないよ」

「本当ですか?」

「うん」

「はぁー。ナナちゃんは隙があり過ぎるんです」

「そうかなあ」

「そうですよ!気をつけてください」

「はーい」

慎太さんは本当に心配そうに言う。

寺田屋に着くと、みんなはまだ帰って来ていないようだ。

「龍馬さんたちは少し出ていて、夕餉には戻ると思います」

「そっか」

「俺、先に風呂に入ってきますね」

「はい、ごゆっくり」

何をしようかと縁側でぼーとしていると、慎太さんがお風呂から上がってこちらへ歩いてくる。

「何してるんですか?」

「何しようか考えてたところ」

そうですか。と慎太さんが隣に腰を下ろす。

「髪、まだ濡れてるよ」

「ほっとけば乾きます」

「ダメ。風邪引くよ」

手拭いを取って慎太さんの後ろに回って髪を拭く。

「え、ナナちゃん?」

「わたしが拭いてあげる」

ゴシゴシと髪を拭く。

「痛くない?」

「はい、大丈夫です」


髪を拭き終わって、櫛で梳かしていく。

「綺麗な髪だね」

「そうですか?」

「うん。羨ましい」

「ナナちゃんの髪も綺麗ですよ」

「ふふ。ありがとう」

いつものようにポニーテールに結ぶ。

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

「良かったら、少し話聞いてもらえますか?」

珍しく慎太さんが深刻な顔で聞いてくる。

「うん。どうしたの?」

「実は、明日大事な会合があるんです」

「うん」

「簡単に言うと、仲の悪い二人を仲直りさせることなんですけど」

「その仲介役が俺なんです」

「そうなんだ、それは大変だね」

「はい。俺、龍馬さんみたいに人を説得したりするの得意じゃないんです」

「この会合は一度失敗していて。だから、今度こそは絶対成功させなくちゃいけないんです」

慎太さんが苦しそうに話す。


「慎太さん、時計って知ってる?」

「時計ですか?南蛮のものを一度見たことがあります」

「その時計はね、中を開けるとたくさんの歯車が付いてるの」

「歯車にも大きさがあって、大きいものもあればとっても小さいものもあるの」

「その歯車が互いに噛み合って時間を刻むの」

「わたしね、人はみんな何かしらの歯車だと思うんだ」

「大きさは人それぞれだけど、どの歯車が欠けても動かない」

「慎太さんはもしかしたら小さな歯車かもしれない」

「でもね、慎太さんという歯車がないと龍馬さんや他の歯車は動かない」

「誰も慎太さんの代わりにはなれないの」

「だから、慎太さんは慎太さんの思うようにやればいいよ」

「俺は俺の思うように」

慎太さんは顔を上げて、何かを見つけたようにパッと明るくなる。

「ナナちゃん、ありがとう。俺なりにやれることやってみます!!」

「うん!その意気だよ」

急に、玄関の方が騒がしくなる。

「龍馬さんたち帰って来たみたいですね」


「中岡、塩だ!塩を持って来い!!」

武市さんが機嫌悪そうに大声で言う。

「はい!」

「どうしたんですか?」

「天敵にあったんだ」

以蔵が答える。

「天敵?」

「土佐のお偉いさんじゃよ」

龍馬さんが武市さんを見ながら答える。

「かなり癖のあるお人じゃき」

慎太さんが塩を大量に持ってくる。

武市さんはそれを受け取って庭で体中に振りかけている。

「ああ、気持ち悪い。今だに背中に悪寒が走る」

「先生、背中にも振りかけましょうか?」

「ああ、頼む」

武市さんと以蔵が塩を振りかけているのを見ながら

「当分はあん人には会わせんほうがえいのう」

「そうですね」

武市さんがあんなに嫌がるなんてどんな人なんだろう。

少し気になるな。

「夕餉の支度が出来ましたよ」

女将さんの声でみんな部屋の中に入る。

夕餉を食べながら今日のことを報告しあっている。

「中岡、明日の会合の準備は万全か?」

「はい!大丈夫です!」

「ほうか。頼りにしちょるぞ」

「はい!」

夕餉を終えて自室に戻る。


「歯車かあ…」

自分が言った言葉を自分に投げかける。

「わたしがこの時代に来たのも歯車の一部だから?」

そんなことを考えながら眠りについた。


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