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moment  作者: しん
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第三幕

朝目が覚めて昨日と同じ天井にため息をつく。

「はぁ」

布団を畳んで、台所へ向かう。

「おはようございます」

「おはよう、ナナはん」


今日から朝餉の支度もお手伝いさせてもらえることになった。

「ほんなら、これ切っといてくれる?」

「はい、わかりました」


朝餉の準備が終わると、お盆にお茶とおしぼりを乗せて縁側に向かう。


ヒュンッヒュンッ!

切れのいい音が聞こえてくる。

「お疲れさまです。お茶とおしぼり置いておきますね」

チラッと横目で見て

「ああ」

と以蔵さんが素ぶりをしながら答える。

以蔵さんは毎朝稽古をしている。

お盆を置いて、みんなを起こしに部屋へ向かう。


コンコン。

「龍馬さん、おはようございます」

少しすると、声が返ってくる。

「おお、ナナさんか。おはよう」

障子を開けて龍馬さんが部屋から出てくる。

「夕べちくと書状を書いとったら少し寝坊してしまったぜよ」

にしし。と照れくさそうに笑う。


部屋に入ると、武市さんと慎太さん、以蔵さんもすでに来ていた。

「遅いぞ、龍馬」

「さ、いただきましょう」

みんなで朝餉を食べる。


朝餉を食べ終わって、片付けていると

「ナナさん、ちくとえいかの?」

「はい」

龍馬さんに話しかけられる。

「今から薩摩藩邸に行くんじゃが、一緒に行くかいの?」

「わたしもついて行っていいんですか?」

「もちろんぜよ。支度が終わったら呼びに来てくれるかの」

「はい!わかりました」

自室に戻って準備をする。

龍馬さんの部屋に着いて、声をかける。

「龍馬さん、支度出来ました」

「今行くきに」

すぐに龍馬さんが部屋から出てくる。

「ほんなら、行こうかの」

寺田屋を出て薩摩藩邸に向かう。


「で、でかい…!!」

長州藩邸も大きかったけど、薩摩藩邸はそれよりも一回りくらい大きい。

「坂本龍馬というもんじゃが、大久保さんに取り次いでもらえるかの」

門番にそういうと藩邸の中に案内される。


一際大きな部屋に案内されて、中に入ると

「坂本くんか」

「大久保さん、書状をお持ちしたぜよ」

声の主を見て驚いた。

昨日、庭で声をかけてきた偉そうな男の人だった。

「ん?そなたは確か」

わたしを見て声をかける。

「お?面識があったんかの?」

「昨日、寺田屋で見かけた」

「ほうでしたか。なら話は早いの。こん子はわしが面倒見ちょります、ナナさんぜよ」

「ナナです。よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げる。

「何だ、坂本くんの色か」

「な、大久保さん!何を言うがぜよ!そんなんじゃないぜよ!!」

「?」

龍馬さんが焦ってあたふたしている。

不思議そうに様子を眺めていると

「確か、そなたはえげれす語が出来ると申していたな」

急に話題を振られる。

「あ、はい。日常会話程度でしたら」

「おまん、えげれす語が話せるがか?」

「難しい言葉はわかりませんが、普段の会話くらいなら出来ます」

「ほうか!それはまっことたまげたぜよ!」

驚いた龍馬さんが目を見開く。

「もし、良ければこの書状を訳してはもらえないだろうか?」

大久保さんから書状を受け取る。

開いてみると

「Dear O-kubo」

全文英語で書かれている。

「全部訳すのにどれぐらいかかるだろうか?」

ざっと書状を見て答える。

「そうですね。この量ならすぐ出来るかと」

「そうか!」

感心したように大久保さんが返す。

「えっと、書くものをお借りしても?」

「ああ、これを使ってくれ」

紙と筆を渡される。

筆で上手く書けるかな…

サラサラと紙に日本語訳を書いていく。

「ほー。すごいの」

龍馬さんは興味津々という感じで覗いてくる。

20分くらいして訳し終わる。

「出来ました」

書状を受け取った大久保さんは内容を確認して

「こんなに早く出来るとは…」

信じられないという顔をした後に、助かった。とお礼を言われる。

「いえ、これくらいでしたら」

「いや~ナナさんがえげれす語が達者だったとは知らんかったぜよ」

そんなに褒められると困ってしまう。

「ナナと言ったか。何故、えげれす語が出来るのだ?」

大久保さんに問われて

「小さい頃、家族で外国に住んでいたんです」

「ほう。それでえげれす語が話せるがか」

「はい」

龍馬さんはキラキラした目で見つめてくる。

「わしもいつか行ってみたいのう」


用事も終わり、寺田屋に帰る。

「おかえりなさい」

慎太さんが出迎えてくれる。

「おう。今戻ったき」

部屋に入ると、武市さんと以蔵さんが座っていた。

「おかえり。ナナさん、これを君に」

武市さんから簪を渡される。

「これは?」

「君に似合うと思ってね。気に入らなかったかい?」

「いえ!頂いていいんですか?」

「もちろんだよ」

「わぁ、ありがとうございます!」

水色の玉の中に桜の花びらが一枚入っている。

髪をまとめて簪を差す。

「どうでしょうか?」

「うん。とても似合っているよ」

「ありがとうございます!」

龍馬さんと慎太さんが部屋に入ってくる。

「あ、ナナちゃん新しい簪ですか?」

「おまんによう似合うとる」

「ありがとうございます。さっき武市さんから頂いたんです」

「なんじゃと?」

「武市さんいつの間に」

二人が武市さんを見る。

「たまたま見つけてね」

「こんの助平太が!」

「何だと?」

「まあまあ、ナナちゃんに似合っていることですし、いいじゃないですか」

慎太さんが宥める。

「明日は大事な会合なんですから、しっかり食べて今日は休みましょう」

そう言って夕餉を食べ始める。

明日もついて行っていいのかな?

「ナナさんも行くかの?」

「え?」

「高杉さんらとの話し合いじゃき、待たせてしまうとは思うが」

「行きたいです!」

「ほんなら決まりじゃな」

夕餉を食べ終えて、お風呂に入る。

「ふぅ~。いいお湯だな…」

気持ちよくお風呂に浸かりながら、おじさんみたいなことをつい言ってしまう。

「って…わたしここに馴染み過ぎじゃない?」

パシャパシャとお湯で顔を洗う。

「早く、帰る方法を見つけなくちゃ」


お風呂から上がって歩いていると、龍馬さんが縁側に座って月を眺めていた。

「龍馬さん?」

龍馬さんが振り返る。

「ナナさんか、一緒にどうじゃ?」

誘われて隣に腰を下ろす。

「月を見とった」

「綺麗ですね」

月を見上げる。


「そのまま月に帰って行きそうじゃ」

「え?」

「ナナさんじゃ。もしかしたら月から来たのかと思うての」

「そんな、かぐや姫じゃあるまいし」

それもそうじゃ、と笑う龍馬さん。

「もし、そうじゃったとしても月には帰しとうないの」

「?」

「おまんが来てから、みんなよう笑うようになった」

「……」

「おまんはやっぱり帰りたいかのう?」

「…はい」

「ほうか…」

そう言ってくれるのは嬉しいけど、ここにわたしの居場所はない。

「大丈夫じゃ!わしが必ずおまんを帰しちゃる」

「本当ですか?」

「おう」

わたしは小指を差し出す。

「?」

キョトンとする龍馬さん。

「じゃあ、指切りげんまんして下さい」

「!おまんは遊女の真似ごとをするんじゃな」

「え?」

「よし、指切りじゃ!」

「「指切りげんまん~嘘ついたら針千本飲ーます!指切った!!」」



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