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moment  作者: しん
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第一幕

ーーわたしが出逢ったのは

動乱の時代を駆け抜けたあなたでしたーー

「はぁ〜。やっと着いた」

新幹線を降りて、伸び伸びと背伸びをする。

この日のために今まで頑張ってきたんだ。

観光雑誌を開いて、事前にチェックしてきた目的地を目指す。

「まずは、、寺田屋ね」

京都に来たなら一度は行かなきゃ。


「はわ〜。弾痕があるよ」

しげしげと当時の傷痕を眺める。

「この階段があの有名なお龍さんが駆け上った階段かー」

同じ階段を上る。

部屋に展示されている写真を見て想像する。

昔は、どんなだったんだろう。



幕末

動乱の時代



想像もつかないや。


寺田屋を出て次の目的地へ向かう。

「次は京都霊山護国神社ね」

神社に着いて、お祈りする。


「さてと」

ホテルに帰ろうと立ち上がり歩き出す。

そのとき。


「ナナ、ナナ……」


「!?」


驚いて後ろを振り返る。

わたし以外誰もいない。


「気のせいね」

また歩きだそうとする。

「ナ、ナナ……」

「!!?」

今度はさっきよりもはっきりと聞こえた。

「誰?」

返事は返ってこない。

もう一度、お墓の前にしゃがみこむ。

「あなたがわたしを呼んだの?」

お墓に問いかける。

「そんなわけないか」

墓石を撫でて、汚れを落とす。


ゴゴゴゴゴゴ……!!!


「え!?」


ゴゴゴゴゴゴ…ゴゴゴゴ…!!!!


地面が急に激しく揺れ出す。

「じ、地震!?」

急に目の前が真っ暗になる。




「ん、」

目を開けると、そこは林の中だった。

「あれ?わたし神社に居たはず」

周りを見渡すが、神社らしきものは見当たらない。

「ここはどこ?」

途方に暮れていると


「どげんしたか?」


訛りの強い人に声を掛けられる。

その人を見て唖然とする。

その人は着物を着ていて、腰には刀を2本差している。

映画撮影の衣装か何かかな。

不思議に思いながらも答える。

「道に迷ってしまって」


着物を着た男の人は少し驚いた顔をして

「ほうか、ほんならわしが案内しちゃる」

満面の笑みで言う。

「いいんですか?」

「当たり前じゃ、女子一人で歩くのはちくと危険じゃきの」

「ありがとうございます」

「かまん、かまん。で、どこに行きたいんじゃ?」

「えーと、京都霊山護国神社です」

「京都霊山護国神社?」

「はい」

「聞いたことないのぉ」

「え?この辺りじゃないんですか?」

「ここは林ばっかでなーんもないぜよ」

「!どういうこと?」

「どうかしたかいの?」

「あ、いえ。大きな通りまで案内してもらえますか?」

タクシーを見つけてホテルに帰ろう。

そう思い、男の人の後ろをついていく。


「着いたぜよ」

「………」

嘘でしょ。

タクシーどころか車さえ走っていない。

というか、道路がない!

「あのー、タクシーはどこで拾えますか?」

「た、たくしー?なんぜよそれは」

「え…」

ちょっと待って、頭が混乱してきた。

タクシーを知らない人って現代でいないよね?

ものすごーく田舎から出てきたとか?

「あ、えーと。車が走っている道はありますか?」

「?くるま?なんのことぜよ」

もう一度辺りを見回す。

あれ、電信柱がない。それに、みんな着物を着てる。

状況が上手く把握できない。

「とりあえず、わしが泊まっている宿に案内するぜよ」

そう言って歩き出す。

置いていかれないように必死に着いて行く。

こんなところに一人にされたらたまったもんじゃないわ。

宿に着くと、『寺田屋』と書かれていた。

「あ!寺田屋!」

「?知ってるんかいの?」

「はい、京都に着いて真っ先にここに来ました」

「ほうか、ほうか」

そう言いながら中へと入っていく。


「あ、遅いですよ〜龍馬さん」

「すまんちや」

ポニーテールをした男の人が近づいてくる。

「この方は?」

「ああ、林ん中で迷っていたきに連れてきた」

「そうですか、俺お茶入れますね」

「おう、頼む」

部屋に入ると、男の人二人が座っていた。

一人は姿勢正しく正座をして、長い髪を下に一つにまとめている。

もう一人は、片足を立てて刀を支えにして座っている。髪はバサバサで乱暴に一つにまとめられている。


「すまん、待たせたの」

「まったくお前は、時間も守れないのか」

長い髪の人は少し機嫌が悪そうに答える。

「すまんち言うとる」

「誰だこいつは」

もう一人の人が支えにしていた刀を抜こうと鞘に手をかける。

「待て待て、敵ではのう」

「ならなんだ」

「迷い子じゃ、道がわからんようで連れてきた」

「ふん、どこの馬の骨とも知らない奴をやすやすと連れて来るな」

「じゃけど、あのまま一人にしたら今頃どうなっていたか」

「攘夷志士にやられていたでしょうね」

先ほどのポニーテールの男の人がお茶を持って入ってくる。

「ほうじゃ、こんな格好してたらひとたまりもないぜよ」

こんな格好…?

自分の服を見ておかしなところがないか確かめるが何も見当たらない。

「どうぞ」

お茶を出してくれる。

「ありがとうございます」

お茶を一口飲む。

美味しい…!

お茶の香りが口の中いっぱいに広がって幸せな気持ちになる。

「とにかく、行く宛が見つかるまではここに置いておくつもりじゃ」

「俺も賛成です。もう暗くなってきましたし、このまま外に出すのは危険かと」

「勝手にしろ」

ぷいっとバサバサの髪の男の人がそっぽを向く。

わたしがここにいることに不満みたい。

「武市もいいかの?」

「いいも何も、仕方ないだろう」

「さすが武市。女子にはやさしいのう」

「なっ…!別にそういうわけでは」

チラッと横目で見られる。

「?」

「ゴホンッ。とにかくその格好は着替えたほうがいい」

「俺、女将さんに着物がないか聞いてきます」

「おう、すまん」

元気良く出ていく。

「あの、色々とご迷惑をお掛けしてすみません」

「なんちゃーない。困ったときはお互い様じゃ」

にしし。と楽しそうに笑う。

「失礼ですが、あなたのお名前をお聞きしても?」

「そうじゃった。自己紹介がまだじゃったの」

「わしは、坂本龍馬じゃ」

「…!!坂本龍馬!?」

「ん?そうじゃ。わしを知ってるのかの?」

「知ってるも何も」

「私は武市半平太」

「……!!」

何この勢ぞろい。寺田屋だし、そういう設定なのかしら。

「で、あそこにいるのが以蔵じゃ」

ムスッと横を向いている。

「んで、俺が中岡慎太郎です」

着物を持って入ってくる。

「これ、女将さんから借りてきました」

着物を受け取る。

「ありがとうございます」

「今、着替えますか?」

「あ、えーと」

「?」

「…着方がわかりません」

「え?」

「着物の着方がわからない?」

「はい、すみません」

「君はどこぞのお姫様かい?」

「ち、違います!」

「ほんなら女将さんにお願いするといいぜよ」

「はい、それじゃあ」

着物を持って部屋を出る。

女将さんらしき人を見つけ、着付けをお願いする。


「はい。これで終いや」

「ありがとうございます」

鏡を見て、少しテンションが上がる。

着物なんて七五三以来だ。


龍馬さんたちのいる部屋に戻る。

「おおー。こりゃ京美人にも引けをとらんぜよ」

「本当です」

「髪もまとめたほうがいいね。今度簪を買ってあげよう」

口々に感想を言い合う。

「ありがとうございます」

そんなに褒められると恥ずかしいな。


「とりあえず、帰るところが見つかるまではここにいるといいぜよ」

「いいんですか?」

「もちろんです。」

「そういえば、君の名前をまだ聞いていなかった」

「あ、すみません。ナナと言います。お世話になります。」

「よろしく」

「ナナさんかぁ。いい名前じゃ」

「ナナちゃんって呼んでいいですか?」

「はい」

「中岡…!!何抜け駆けしちょるんじゃ」

「へへ」

「もう遅い。ナナさんを部屋に」

「はい、ナナちゃんこっちです」

「それじゃあ、皆さんおやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

「また明日の」

部屋を出て、慎太郎さんについていく。

「ここがナナちゃんの部屋です。隣の隣が俺の部屋なので、何か困ったことがあれば気軽に声をかけてください」

「はい、いろいろとありがとうございます。えっと、慎太郎さん」

「俺のことは慎太でいいですよ」

「じゃあおやすみなさい。慎太さん」

「おやすみなさい」

部屋に入ると、畳の匂いがする。

おばあちゃんのお家に来たときみたい。

押し入れから布団を出して横になる。

「きっと、目が覚めたら元に戻ってる」

そう言い聞かせて目をつむる。


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