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第42話

 ウィンディアの真空魔法を受けて吹っ飛ぶヘイデンに疲労の色が濃くなっていた。

 早くしないと……。焦るルミだったが、相手の動きが速過ぎて魔法を撃っても回避されてしまう可能性が高かった。


「ルミ……、あなたなら出来るはずよ」


 よろめきながらロゼッタがルミの傍まで来て耳打ちした。

 出来るはず?ルミが首をかしげると、


「踊るのよ、ルミ。ステップを踏んで、軽やかに。そうすれば相手を捉えることが出来る」


「えっ、ええええーーー!」


 予想だにしないロゼッタの言葉に顔を赤らめたじろぐルミ。

 それもそのはず。ルミは今までにダンスなど踊ったことがなかったのだ。だからいきなり踊れと言われても、どうすればいいのか分からなかった。

 ロゼッタはそんなルミの考えを見透かした様に、


「大丈夫。私の言う通りに動くのよ」


 そしてロゼッタはルミに踊り方を教えた。ロゼッタもかつては踊り子を目指していたので、自分の持っている踊りの知識をルミに伝えた。

 敵の攻撃を受けて傷つきながらもどうにか立ち上がったヘイデンは、短剣を手に再びウィンディアに攻撃を仕掛ける。だが、さっきより明らかにスピードが落ちている。ヘイデンの攻撃が全く命中しなくなってきた。

このままではやられるのは目に見えていた。


「分かった。やってみる!」


 ルミは決意した。

 ウィンディアの攻撃でヘイデンが膝をついた。


「くそっ……。ここまでか……」


 ヘイデンが覚悟を決めた瞬間、彼にとどめを刺そうとしていたウィンディアが吹っ飛んだ。後ろからルミの火炎魔法を受けたのだ。


「次はわたしが相手よ!」


 身構えながらルミはウィンディアを睨みつけた。ウィンディアはルミに狙いを定めると、物凄いスピードで彼女に襲いかかった。

 だがルミは、ウィンディアの攻撃を間一髪のところで回避した。


「おお! すごい……!」


 イーサンは思わず感嘆の声を漏らした。ルミの動きはまるで踊っている様だった。華麗なステップでウィンディアを翻弄しながら魔法で攻撃する。


「やはり、私の思った通り。あの子には踊りの才能があるのよ」


 ロゼッタはルミの舞いを見ながら口元を緩ませる。

 ロゼッタはかつて見たことがあった。天才と呼ばれていた踊り子の舞いを。ルミが戦闘中に見せていた身のこなしはその天才踊り子の動きに似ていることに薄々気づいていたのだ。

 思わず見とれてしまいそうなダンスでウィンディアの攻撃を回避していくルミは、僅かなスキを見逃さなかった。


「今だっ!!!」


 ルミの両手から放たれた大火炎魔法がウィンディアの身体を飲み込んだ。


「うおおおおお!! み、見事だ……!!」


 そう叫んでウィンディアは消滅した。


「や、やったあ……」


 ルミはほっとして力なくその場にへたり込んだ。勝利したのである。


「ルミ……。よくやったな」


 フラフラになりながらもヘイデンは彼女の傍までやって来た。ロゼッタもイーサンもルミの傍に駆け寄った。


「ちょっと教えただけでここまで動けるなんてね。あなた、やはり踊り子の才能があるわよ」


 ロゼッタが言う。

 ルミは自分でも不思議だった。どうしてここまで踊れるのか。ロゼッタの言う通りなのだろうか。

 とにもかくにもウィンディアを退けた。


「そうだ、風のジュエルは!?」


 その時、激しい光と共に、緑色に輝く美しい結晶が現れた。


「これが風のジュエル……」


 立ち上がったルミが手を伸ばす。その時、


「ご苦労だったな、お前達」


 ルミ達にとって忘れられない声だった。

 上空から突然現れたのは、紛れもなく、あの黒フードの男だった。


「あ、あいつ……!」


 ヘイデンが短剣を構える。だがルミ達はひどく消耗しているので今戦っても勝ち目はない。

 黒フードの男は悠然と風のジュエルを右手に納めると、再びどこかへと消えてしまった。

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