第41話
猛スピードで突っ込んでくるジャイアントイーグルの巨体を軽やかに回避したヘイデンは、素早い動きでジャイアントイーグルの背後をとると、短剣で斬りつけた。
ジャイアントイーグルは悲鳴をあげて地面に墜落し、動かなくなった。
「さすがヘイデン君。スピードなら4人の中で一番だな」
後方で戦いを見守っていたイーサンが駆け寄ってヘイデンを讃えた。
「これでも元盗賊ですから」
ヘイデンは短剣をしまうと笑顔で答えた。
「スピードのヘイデン、パワーのロゼッタだな」
イーサンは二人をそう分析した。
「私、一応女の子なんだけど……」
ロゼッタは不服そうに言ったが、実際に物理的な攻撃力ならロゼッタがパーティーで一番だろう。
ヘイデンが素早さで戦場をかき回し、ロゼッタが腕力で硬い敵を砕く。といった役割が自然と出来ていた。
イーサンは後方支援に特化している。けが人を治療したりパーティーの戦力を底上げしたりできるが、消耗が激しいのが玉にきずだろう。
ルミは魔道士なので後方からの高火力魔法攻撃が売りだが、ロゼッタは彼女に別の分野での素質を感じていた。
ルミ自身はまだ自分の中の眠れる真の才能には気づいていなかった。自分には魔法しかないと思い込んでいたのだ。
やがて一行はトナルエ山の山頂へとたどり着いた。
「ここに風のジュエルがあるの?」
ルミは辺りを見渡した。強い風が吹きすさび、不穏な空気が流れる。
「気をつけろ、何か出てくるかもしれない……」
ヘイデンが短剣を構えながら言った。ロゼッタもハンマーを強く握った。杖を両手に持ったルミはイーサンの傍に立った。
「イーサン、風のジュエルはどこ?」
「うーん……。俺もここに来るのは初めてだからわからん」
イーサンは竪琴を抱えて言った。アシモフとの戦いで消耗した精神力はまだ回復していなかった。ここでもし自分達より格上のモンスターでも出てこられてはまずい。
周囲の風は更に強さを増した。ルミはその強い風にさらされて足元がふらついた。やがてその風は一か所に集まり、竜巻の様なものが出来た。
ルミ達が見守る中、竜巻はまるで生き物お様に有機的にその形を変え、やがて人の形となって固定された。
「な、何だ!?こいつは……」
ヘイデンは思わず声を漏らした。
「我は風の精霊ウィンディア。風のジュエルを奪わんとするものに死の制裁を!」
竜巻から誕生したその存在はルミ達を敵と認識したようだ。どうやら戦うしかないらしい。
「イーサン、こんなのいるなんて聞いてないわよ」
「俺だって知らなかったよ」
ロゼッタの詰問にうろたえるイーサン。
「くるぞっ!」
ヘイデンが叫ぶ。ウィンディアは両手を振りかざすと風で出来た刃を投げつけてきた。ルミとイーサンは慌てて伏せた。風の刃がルミの持つ杖を二つに切り裂いた。これではもう使い物にならない。ルミは折れてしまった杖を地面に投げ捨てた。
ロゼッタはハンマーを構えると、ウィンディアめがけて走っていきハンマーで殴ろうとした。しかし、ウィンディアはその攻撃を素早く回避すると、彼女に強烈な蹴りを食らわせた。ロゼッタは後方まで吹っ飛ばされて倒れた。
「ロゼッタさん!」
ルミが叫ぶ。ロゼッタの素早さではウィンディアを捉える事は難しそうだ。
「オレが行く! ルミは魔法の準備を!」
そう言ってヘイデンは短剣を持ってウィンディアに斬りかかった。ウィンディアの動きは素早かったが、ヘイデンもどうにかついていった。ヘイデンの短剣がウィンディアにかすめた。
「ほう。人間のくせに我の動きについてくるとは……」
ウィンディアは関心したように言った。ヘイデンは必死に食らいついたが、ウィンディアの素早さが上回っていた。
ルミは魔力を集中させながら考えた。自分の魔法が相手に命中するだろうか。だが心配しても仕方がない。ルミは余計な雑念を捨てて魔法の詠唱に集中した。




