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第40話

「パルパレオス……、お前が力を貸してくれたのか」


 空を見上げながらイーサンは、亡き弟に想いをはせる。

 あの時、頭の中に流れ込んできた楽譜は味方の戦闘能力を一時的にアップさせる「戦いのマーチ」であった。そのお陰でルミ達は普段より大幅にパワーアップしたのだ。そしてその力を持ってアシモフとその手下を倒すことに成功した。

 だがイーサンは、戦いのマーチを奏でたことで大幅に精神力を消耗していた。精神力は音楽を奏でるのに必要なものだ。しかも一度消耗するとしばらく回復しないのだ。次に使えるようになるまで何日もかかりそうだ。

 だから戦いのマーチはここぞという時に使う奥の手といっていいだろう。

 ルミがイーサンに話しかけた。


「イーサン、ありがとう」


「いいってことよ!」


 それより風のジュエルの事が気掛かりである。イーサンの話によれば、風のジュエルはトナルエ山という所にあり、その入り口は皇帝のカギがなければ開かないらしい。


「ねえ、イーサン。その皇帝のカギってどこにあるの?」


 イーサンはしばらく考えた。皇帝のカギはその名の通りクライン帝国皇帝のみが持つカギである。なのでそのカギは前代の皇帝でイーサンの弟であるパルパレオスが持っているはずである。


「まさかクライン城のどこかにあるのか」


 イーサンは嫌な予感がした。クライン城にいけば当然大臣達に捕まってしまう。捕まったら最後、強制的に皇帝にさせられてしまい、今みたいに自由気ままに旅する事が出来なくなってしまう。

 しかし、ルミ達の目的を果たすには皇帝のカギが必要である。

 どうしようかと悩んでいたイーサンの頭にピンとひらめくものがあった。彼は再び弟の墓へと向かった。ルミ達もその後に続いた。


「やはり思った通りだ。あったぞ! これが皇帝のカギだ!」


 小躍りしながらイーサンが叫んだ。パルパレオスの墓をもう一度念入りに調べたら、墓石の裏に取っ手の様なものがあり、それをひねると中からカギが出てきたのだ。

 ルミ達もお互いの顔を見合わせて喜んだ。これで風のジュエルがあるトナルエ山に入る事が出来る。彼女達は早速その山へと向かった。


「イーサンもついてくるの?」


 ルミは後ろからついてくるイーサンの方を見て、言った。


「おいおい、みずくさいな。ルミちゃん。乗りかかった舟だし、俺も一緒に行くよ」


 そういえばイーサンの依頼を受けていた事を思い出した。その事をイーサンに話すとそういえばそうだったなと、ルミにかなりの額のお金を渡した。


「さすがは皇子様ね」


 ロゼッタが言った。イーサンはクライン帝国の皇子なのでお金持ちなのもうなずけた。


「いいや、そのお金は吟遊詩人としてまっとうに稼いだものさ」


 イーサンは国を旅立つ時、一銭も持参していなかった。竪琴一つで食っていくと決意して旅立ったのだ。ロゼッタはそんなイーサンを尊敬のまなざしで見つめた。ちょっと上手くいかなかったくらいで芸の道を諦めた自分とは大違いである。

 ロゼッタは戦士に転職した時にダンサーとしての未来を捨て去ったつもりだった。しかし、心の奥底ではまだ未練の様なものがこびりついているのだろうか。彼女は首を振った。私はもうダンサーじゃないのだ。

 やがて一行はトナルエ山の麓にたどり着いた。イーサンが言った通り、入り口は分厚い扉で厳重に仕切られていた。

 ルミはイーサンから預かった皇帝のカギを扉の鍵穴に差し込み、ひねった。カチャリとカギが開く音がした。彼女はそのまま扉を両手で押した。重々しく扉が開いていく。


「さあ、行こう!」


 ルミ達は扉をくぐりトナルエ山の山道を登って行った。

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