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第34話

 重厚な造りの門をくぐり、ルミ達三人はクライン帝国城下町に入った。


「わあ、大きな町だねー!」


 ルミは年相応にはしゃぎながら、ぐるぐると町を見て回っている。彼女達が今まで訪れた中で、おそらく最も規模の大きい町だろう。年季の入ったレンガの建物が並び建ち、悠然とした歴史を感じさせる。


「ルミー、あんまりはしゃいで転ぶなよー」


 ヘイデンが口元に手を当てて呼びかけた。


「大丈夫だってー……きゃっ!」


 ルミは背後に人がいるのに気づかず、背中からぶつかり転んでしまった。


「いたたた……」


「大丈夫かい?」


 ルミが顔を上げると、みずぼらしい格好をした中年の男性がこちらを見下ろしていた。無精ひげを生やしておりおよそ清潔さという言葉とは無縁そうな雰囲気の男だったが、よく見ると整った顔をしておりどこか超然とした印象を与える。左手には竪琴を抱えている。


「いえ、こちらこそ……」


 ルミはそそくさと立ち上がった。男は僅かに微笑んだが、すぐに真顔になって、


「あ、すまない。急いでるんだ」


 そう言ってさっさと走り去ってしまった。

 ルミはその後ろ姿を見えなくなるまで見守っていたが、背後から近寄って来る何人かの足音に振り返った。すると三人の兵士がこちらに向かって走って来るのが見えた。

 三人の兵士はルミ達の前で立ち止まると、横柄な態度で質問してきた。


「おい、お前達。この者を見なかったか?」


 そう言って一枚の紙切れを広げて見せた。その紙切れには似顔絵が描かれている。その顔は、先程ルミがぶつかった中年男性にそっくりだった。


「あっちに行きましたけど……」


 ルミは先程の男性が走り去って行った方向を指さした。


「そうか。よし、行くぞ!」


 兵士は仏頂面のまま紙切れを懐にしまい込むと、ルミが指さした方へと走って行った。


「おたずね者かしらね」


 ロゼッタが言う。強盗とか空き巣とかそのたぐいの犯罪者だろうか。ルミはそう思った。


「それより今は風のジュエルだろ?」


 ヘイデンの言う通りである。ルミはライザ国城下町で聞いた情報を思い出した。

 風のジュエルはクライン帝国の皇帝が守っている、と。


「でも一国の皇帝ともあろう方が私達みたいな一介の冒険者に会ってくれるかしらね」


 ロゼッタの懸念は最もだった。ヘイデンも難しい顔をして考え込んでいる。


「とりあえずお城に行ってみようよ。ひょっとしたら会ってくれるかもしれないでしょ」


 ルミの提案に二人はうなずいた。

 三人は城下町の大通りを歩いて行った。前方には、豪奢なクライン城がそびえ建っていた。

 城門の前には槍を携えた兵士が微動だにせず突っ立っている。ルミは兵士の所に近づいて尋ねた。


「あの……、わたし達皇帝さまにお会いしたいんですけど……」


 無表情でルミの顔を舐める様に見ていた兵士は、うかない顔つきになって言う。


「陛下には誰も会えないよ」


「ええっ!? どうしてですか!?」


 ルミの質問に兵士は深刻な表情になり、彼女に衝撃的な事実を告げる。


「陛下は……先日崩御なされたのだ……」


 崩御……。つまり亡くなったのだ。


「そ、そんな……」


 ルミ達はショックの色を隠せなかった。

 兵士は語る。ついひと月ほど前、原因不明の奇病に冒された皇帝パルパレオスは僅か31歳の若さでこの世を去ったのだ。

 ルミはこの城まで来る途中、城下町の人々がどこかうかない顔をしていたのを思い出した。その時は分からなかったが、今その理由が判明した。皇帝が亡くなったからだったのだ。


「そ、それじゃあ風のジュエルは……?」


 兵士はそれ以上何も話したくないようだった。ルミ達は仕方なく一度引き下がることにした。このままでは風のジュエルを守ることが出来ない。


「どうしよう……」


 ルミ達は重い足取りで、城下町へと戻って行った。

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