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第26話

 その港町は、随分さびれている様子だった。

 レフリ国を出立したルミ達は二日かけてここ港町リティルに辿り着いた。港町にしては賑やかさに欠けるが、船が停泊しているので港町である事は疑いようがなかった。

 ルミは桟橋の辺りを指差して元気よく言った。


「あそこから船に乗れるんだよね」


 桟橋には屈強な体つきの水夫が、船から袋詰めの重そうな荷物を降ろしている。ルミ達は早速船の近くまで行き、船に乗れるかどうか尋ねた。

 すると、船員は行先を聞いてきたので、


「シャールメール王国まで」


 とルミが答えると、船員の口から衝撃的な事実を告げられた。


「シャールメール王国には行けないよ」


「どうしてですか?」


 ルミが困惑気味な表情で言うと、船員は暗い表情になって答える。


「お前達は知らないのか。つい先日アナテマ大陸が紫色の怪しげな霧に包まれたんだ。お陰で船であの大陸に行くことが出来なくなったんだ」


「そ、そんな……!」


 ルミは顔が真っ青になった。ロレンス達だけでない。クラニア王国のアカデミーまでもが謎の霧に包まれて安否不明となっていたのだ。


「霧に包まれたって、どういうことだよ……」


 ヘイデンも困惑している。


「まさか、トランス教団がやっていたあの儀式のせいかしら……」


 ロゼッタが言う。あの時、ギュスターヴは氷のジュエルを使って何やら怪しげな儀式を行っていた。あれはまさか、大陸ごと封印してしまうものだったのか?


「わたし達、これからどうすればいいの……」


 ルミは真っ暗な森の中を彷徨い歩くかの様な感覚に陥った。

 ロゼッタはそんな疲れ切った表情をしているルミを見て休息が必要だと思った。


「とりあえず今日はここの宿屋で休まない?」


 ルミとヘイデンは暗い表情のまま黙ってうなずいた。

 夜になり、ルミは水晶玉を取り出してアカデミーにいるはずの先生に連絡を取ろうとしたが、つながらなかった。


「先生……」


 ルミはうつむいて悩んでいる。

 ヘイデンは後ろから声をかけた。


「ルミ、今は悩んでも仕方ない。休もう」


 ルミは黙ってうなずくしかなかった。

 しかし、ルミは突然気配を感じた。この気配は今までに何度か感じた事のある気配だった。弾かれる様に彼女は外へと飛び出して行った。


「おい! ルミ! どこへ行くんだ!」


 つられてヘイデンも外へと出た。外に出て辺りを見渡すと、ルミが桟橋の方へと走っていくのが見えた。ヘイデンは急いで後を追った。

 桟橋にやって来たルミは強い気配に全身を刺される様な感覚を覚えていた。必死に気配の出所を探すがその姿を捉えられない。幾らか遅れてヘイデンも走ってきた。


「ルミ、どうした?」


 ヘイデンは聞いた。ルミは少し落ち着いてヘイデンの方に向き直り答えた。


「いる……! 黒フードの男が!」


「なんだって!?」


 ヘイデンは険しい表情になった。ルミはもう一度黒フードの男を探した。気配は弱まることなく、むしろ強くなっていく。そして、ついに姿を現した。空中から音もなく湧く様に現れた黒フードの男は、圧倒的な存在感を発しながらルミ達を見下ろしている。

 ルミ達は厳しい表情になり、戦闘態勢をとった。

 黒フードの男は静かに桟橋に足を付けると、言葉を発した。


「こんな所にいたのか……、探したぞ」


「ロレンスさん達を返して!」


 ルミが叫ぶ。そして右手に魔力を込め、火炎魔法を黒フードの男めがけて放った。しかし黒フードの男はその火炎魔法を右手の一振りでかき消してしまった。


「そんな……、わたしの魔法が……」


 今まで様々な強敵をその魔法で倒してきたルミにとって、初めて味わう絶対的な力の差だった。


「まだ天竜の力に目覚めていないようだな……」


 黒フードの男はルミ達に聞こえない位の小声で独り言をつぶやいた後、再び空中に浮かび上がり、ルミ達を見下ろしながら、


「いいことを教えてやろう。我々はこれからこの大陸にある風のジュエルを奪うつもりだ。止めたくば、追って来い!」


 と言い残して飛行魔法で去っていった。ルミはその様子を黙って見ている他なかった。

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