第21話
ロゼッタに案内されて歩いて来たルミとヘイデンは、袋小路にたどり着いた。地面に四角い鉄板の様なものがある。その鉄板をロゼッタが持ち上げてどかすと、地下へ続くはしごが現れた。
「ここが寺院へと続く地下道の入り口よ」
三人ははしごを降りて行った。そこは薄暗くじめじめした古い地下道だった。
「この先に進めば寺院地下の牢獄に行けるわ」
松明片手にロゼッタが先頭を歩き、二人はその後ろに続く。水滴が天井から床の水たまりにポチャッと落ちる音がした。
ヘイデンがルミに話しかけた。
「なあルミ、知ってるか?」
「ん?」
「こういう所に必ず出てくるお決まりのモンスターがいるんだ」
「ええっ、そうなの?」
「そうだよ。それはな……」
言いかけたヘイデンの頭上からゼリーの様なブヨブヨしたものが落下してきた。ヘイデンは間一髪でそれを避けた。
「うおっ!危なっ!」
それはスライムだった。ルミは杖を取り出して構えた。ロゼッタもハンマーを握った。
「これがお決まりのモンスター?」
ルミが聞く。ヘイデンはそれに答えた。
「いや、違うけど……。まあでも、こいつもある意味そうかな」
ハンマーを構えながらロゼッタが言った。
「ノ、ノリのいい会話はやめてよ……」
ヘイデンが慌てて謝った。
「す、すいません。でも、オレ達特別ノリ良くないと思うけど……」
「くるよ!二人とも!」
ルミが叫ぶ。スライムは粘液を飛ばしてきた。ヘイデンはその粘液をまともに食らってしまった。
「しまった!」
ヘイデンの身体にスライムの粘液が絡みついた。そのせいで動きが取れなくなった。
「くっ、ざまあねえぜ……」
スライムはその見た目に似合わぬ猛スピードで、ヘイデンめがけてタックルしてきた。
「危ない!」
ルミが火炎魔法でスライムを攻撃しようとした。だが、それよりも速くロゼッタがハンマーを構えてヘイデンの前に立ちはだかり、突っ込んでくるスライムを、ハンマーで叩きつけた。スライムは地面に潰れるように付着した。しかしスライムはまだ完全に活動を停止していない。
そこへルミの放った火炎魔法が飛んできてスライムを焼き払った。
「大丈夫?」
ヘイデンの身体に絡みつく粘液を取りながらロゼッタが聞いた。
「ありがとう、ロゼッタさん。助かりました」
ルミがロゼッタのハンマーを見ながら尋ねた。
「そのハンマーがロゼッタさんの武器ですか?」
「ええ、そうよ」
ヘイデンの身体に絡みついていた粘液は完全に取れた。ヘイデンは自由に動ける様になった。
「あれ、でもロゼッタさんって、確かコメディダンサーだったんじゃ?ダンサーってハンマーが使えるんですか?」
ルミが聞いた。
「ダンサーなら辞めたわ……、劇団を飛び出した時に。それから教団に入信した時に戦士に転職したのよ」
ロゼッタはトランス教に入信した後、戦士に転職して使用武器をハンマーに決めた。自分はつまらない人間なので、見栄えの良くないハンマーが自分には似合うと思ったらしい。
「すまない、油断してた」
ヘイデンは気を引き締めた。三人は再び歩き出した。やがて上へと伸びるはしごが見えてきた。あれが寺院の地下へと続いているのか。
「あれが出口よ」
ロゼッタははしごを指さして言った。
ロゼッタが最初にはしごを登っていく。下にいるルミがヘイデンに尋ねた。
「さっきのお決まりのモンスターって、結局何だったの」
ヘイデンは頭をかきながら答えた。
「ワニだよ」
三人ははしごを登り、小さな小部屋にたどり着いた。
「こっちよ。ついてきて」
ロゼッタを先頭に廊下を進んで行くと、古びた牢獄が見えてきた。あそこにロレンス達が捉えられている。ルミ達は見張りがいないか慎重に確認した。見張りの姿はなかった。
「行こう」
ルミ達は牢獄へと進んでいった。牢獄には三人の男性の姿があった。ロレンス達だった。
「ロレンスさん!」
ルミは牢屋まで走っていった。ロレンスはルミの姿に気付いて顔をあげた。ひどくやつれた顔だった。
「ルミ……、に、逃げろ……!」
「えっ?」
その瞬間、ルミは寒気を感じた。何かがいる!?




