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第2話

 星皇暦745年、アナテマ大陸東部、クラニア地方北部の草原にて。

 魔道士昇格試験の為氷の洞窟へ向かう途中、ルミとバロックは三匹のモンスターと遭遇した。敵は小鬼型のモンスター、ゴブリンだ。


「ルミ、これも試験の一部です。あのゴブリンどもを討伐しなさい」


「先生、試験の一部とか理由を付けてパシリに使ってません?」


「気のせいですよ。さあ」


 バロックは安全な所まで離れてルミの戦いを見守ることにした。

 パシリに使っている、と指摘されたが、流石に鋭いと思った。別にゴブリン如き低級なモンスターならバロックにとって何でもない相手だった。しかしバロックは『魔導師』であって『魔道士』ではない。なので出来るだけ魔力と集中力を温存しておきたかった。

 魔導師と魔道士は似てるようで違う。両者とも魔法を扱う商売であるという点は共通しているが、魔法を使って何をするか、魔法を習得する目的が異なる。魔道士はモンスターなどとの戦闘を主目的として魔法を習得した者達だ。それに対して魔導師は人々に魔法を教えて導くことを想定している。魔道士が兵隊なら魔導師は教官である。

 教官だから戦闘能力がない、という訳ではない。だが戦闘演習を100回やって得られる戦闘経験よりも1回の実戦で得られる戦闘経験の方が上回る場合も多い。バロックは主にアカデミーで生徒に魔法を教えることに時間を使っている。なので戦闘能力は平均レベルの魔道士より低い。ゴブリンで力を使ってしまうと、不測の事態に対応出来ないかもしれない。

 それに、ルミの戦いっぷりをじっくりと見て彼女に欠けているものは何か正確に分析したいという理由もあった。

 三匹のゴブリンはこちらに気付いて狙いを定めてきた。ルミは杖を構えて意識を集中させる。彼女の周囲に魔力が溢れてくる。


「フレイム!」


 ルミの持つ杖の先から5つの火球が飛び出しゴブリンに襲いかかる。しかし……。

 ドガーン!ドガーン!

 爆発音が響きわたり爆炎があがる。しかしゴブリンはピンピンしている。5発とも命中しなかった。


「あ、あれ……」


 ルミは困惑する。バロックは頭を抱えた。やはりルミは集中力が足りない。いくら膨大な魔力を秘めていても、それを一点に集中できなければ戦闘では苦労するだろう。

 ケタケタと笑い声を上げながらゴブリン達が襲ってきた。ルミはしなやかな動きでその攻撃をかわし間合いをとると、もう一度さっきと同じ火炎魔法を放った。


「ぐええええ!!」


 今度は命中した。三匹のゴブリンは消し炭になってしまった。跡形も残らない。


「少しひやっとしましたが、よくやりました」


 緊張が抜けて安堵するルミに、バロックはねぎらいの言葉をかけた。

 ルミは魔法の命中率は悪いが当たれば痛い。威力だけなら今すぐにでもクラニア魔法兵団のエースを張れるだろう。命中率が改善されればだが。


「もうすぐ氷の洞窟ですよ」


 氷山の麓に小さな洞窟がある。あれが氷の洞窟だ。ルミ達はその中に入っていった。




「うわーっ、あたり一面氷漬けですねー」


 氷の洞窟はその名の通り全てが氷の世界だった。地面も、周囲の壁も天井も美しい水晶のようだ。


「氷の洞窟ですからね。転ばないように気をつけて下さい」

「大丈夫ですって……キャッ!」


 ルミは見事に足を滑らせて転倒してしまった。


「いたたたた……」

「やれやれ、言ってるそばから……」

「ちょ、ちょっと油断しただけですから」

「戦闘中に転んだら命取りですよ。もっと集中して下さい。さて、これから洞窟の奥にいる精霊と一戦交えてもらいます。魔法で精霊を撃退する。これが最終試験の内容です」

「精霊……?」

「そうです。この洞窟に長い間住み着いている精霊です。魔道士を志す者の力量を試す目的で大昔の魔導師会が生み出した魔法生命体、精霊コルディア」

「精霊コルディア……」

「さあ、あまりぐずぐずしていられません。進みましょう」


 ルミとバロックは氷の洞窟の奥へと消えていった。



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