第17話
シャールメール城下町に続く街道は往来する旅人の姿もなく閑散としていた。
「モンスターでも出てきそうだな」
ヘイデンは辺りを伺いながらつぶやいた。
ルミは、今後の戦いの事を考えていた。見習い魔道士であるルミは、基本的な初級魔法しか覚えていなかった。今までの敵ならそれでも通用していたのだが、愚王ジェラオンの様な自分のレベルをかなり上回る強敵が相手だと心もとない。
そろそろ中級魔法を習得したいとルミは思った。
だが、アカデミーでは中級以上の魔法を習得するには、正式な魔道士でなければいけない。やはり試験が中止になったのは痛かった。
一日でも早く魔道士になりたかったので、無理言って氷のジュエル奪還部隊に志願したけど、おとなしくアカデミーで時期がくるのを待っていた方が良かったのかもしれない。このままでは確実に戦力外になってしまいそうだ。
「……ミ、おいルミ、どうした?」
ヘイデンの声でハッと我に帰った。
「考え事か?さっきから話しかけても返事しないからさ」
「ご、ごめん」
「何か心配事でもあるのか?」
「ちょっとね……。ヘイデンはすごいね。父さんの短剣であんなすごい技を使えるなんて」
愚王ジェラオンを葬った十字の衝撃波。あれはアカデミーで研究されている魔法ではない。別系統の力だ。
ヘイデンは少し恥ずかしそうに答えた。
「あれはオレもよく分からなかった。とにかくお前を守りたい一心で短剣を振り回したら出来たんだ」
誰かを守りたい、という強い意思が限界を超えた力を引き出すことがある。
ルミには特別守りたいと思う人間はいなかった。漠然とモンスターに苦しめられている人々を見ると助けたいとは思うが、ヘイデンの様にこの人だけは何が何でも守る!と言える様な対象は思いつかない。
彼女を突き動かしているのは、どこかに生きているはずの父親に会いたいという気持ちだけだった。
「別にそれでいいんじゃないか?」
とヘイデンはルミに言った。別に聖人君子になる必要などないのだ。自分の利益の為に頑張っている事が、結果的に世の為人の為になる事も多いのだ。
だから今はこれでいいんだ。
ルミはそれで納得して、とりあえずこの話題は横に置いた。
ところで、ルミは一つ気になっている事があったので、ヘイデンに聞いてみた。
「ねえ、ヘイデンはどうしてわたしを守ってくれるの?」
ヘイデンはすぐに答えた。
「メイアに似てるからさ!だからほっとけないんだ」
「ええっ!?それだけ?」
「それだけさ。でもそれでいいんだ!自分でもよく判らないけど、とにかくお前を守りたいんだ」
ルミにとってはありがたい話だった。
しばらく歩いていると、前方に影が見えた。
「モンスターか!?」
ヘイデンが注意深く影が見えた方を凝視した。ルミも戦闘態勢に入った。
しばらくすると、木の陰からモンスターが出現した。幽霊型のモンスター、レイスだ。
レイスはルミが魔法を使うよりも速く上火炎魔法を放ってきた。
「ルミ!あぶねえ!」
ヘイデンはルミをかばって火球を背中に受けた。
「ぐわあっ!」
苦悶の表情で倒れるヘイデン。
「ヘイデン!」
ルミは火炎魔法をを放ち応戦した。しかしレイスに命中しなかった。
レイスはなおも上火炎魔法を使ってくる。ルミは間一髪の所でかわしたが、敵の位置を見失ってしまった。
「上だ!ルミ!」
ヘイデンの叫び声で上空からのレイスの攻撃を回避し、そのまま火炎魔法をレイスめがけて放った。火炎魔法はレイスに命中し、喜界な断末魔の叫びをあげながらレイスは蒸発する様に消滅した。
「大丈夫?ヘイデン」
「ああ、ちょっと火傷したけど平気だ。助かったぜ。ありがとうルミ」
ルミは戦いの中で魔法の命中精度が上がってきている事を実感した。成長しているということか。
「見えてきたぞ、ルミ。あれがシャールメール城下町だ」
ヘイデンが指さす方を見ると、大きな城とその周囲の街並みが目に止まった。二人はようやく目的地のシャールメール王国に辿り着いた。




