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第15話

 もうすぐ闇なき峠を越えようとしていたルミとヘイデンだったが、ルミはさっきから誰かに監視されているような感覚を引きずっていた。


「気を付けて、ヘイデン。誰かがわたし達を見てる」


「えっ!?マジで?」


 ヘイデンは辺りをぐるぐると見渡したが、怪しい存在は確認出来なかった。


「誰もいないみたいだけど……」


「ううん、間違いない。この感じ……、前にも味わった事ある」


 ロレンス達とキャンプをしていた時に襲ってきた異形のモノから発せられていた邪悪なオーラに近い感覚がルミの全身を覆う。しかし今感じているものは、以前のものとは少し質が違うように思われる。


「お、おどかすなよ……」


 おびえた表情でヘイデンがつぶやく。二人とも臨戦態勢に入っていた。

 ルミの瞳が大きく見開かれた。そいつはすぐ近くまで来ている。


「きた!」


 ルミが向き直った方をヘイデンは見た。冷たい風がふきすさび、禍々しい妖気をまとって巨大な影が姿を現した。


「う、うわあああ!」


 ヘイデンの目にもハッキリと確認できた。それはライオンのような顔をして二本の足で立つ魔獣だった。大きく開いた口の中に、鋼鉄をも貫きそうな鋭い牙がずらっと並んでいる。あれに噛まれたらひとたまりもないだろう。両手の先には、見ただけで痛々しくなるような鋭利な爪が輝いている。

 魔獣は、嫉妬の炎に燃える両目をぎらつかせながら、人語を操った。


「グアアアア!!見つけたぞ小娘!!貴様を地獄に送ってくれる!!!」


「うっ!こいつ、しゃべった!?」


 ヘイデンは驚いた。しゃべる魔物など今まで見たこともなかったからだ。


「小娘って、どう考えてもわたしの事だよね……。前の怪物といい、わたし色んなモンスターにうらまれてる……」


 ルミ達の様子を、高い岩山の上から少年が見下ろしていた。


「おじさん、いや、愚王ジェラオン。その愚痴の念の強さ、見せてもらうよ……」


 少年は無垢な表情で戦況を見守っている。

 魔獣は何やら魔力をこめながら腕を振った。すると魔獣の立っている場所に茶色の魔法陣が描かれたが、ほどなくしてその魔法陣は見えなくなった。


「いくぜ!化け物!」


 短剣を握りしめて、ヘイデンは魔獣に斬りかかった。ルミは今の魔法陣に見覚えがあった。そしてはっと気付いた。


「ヘイデン、下がって!」


「えっ!?」


 ルミの声でヘイデンは足を止めた。すると、さっき魔獣が描いた魔法陣があった辺りが突然爆発して先端が鋭く尖った岩の柱が立った。あのまま突っ込んでたら、巻き込まれていたに違いない。


「うわあ!何だありゃ!?」


「あれは地面に設置して一定時間経つと爆発する土属性の地雷魔法だよ」


 しかし、あの爆発は特大地雷魔法よりも規模が大きいとルミは思った。文献でしか見たことがないが、古代に存在した極限魔法だろうか。


「よくわかんないけど、さっきの魔法陣みたいなのの上に乗らなきゃいいんだな」


「うん、気をつけて!くるよ」


 魔獣はあちこちに地雷魔法を設置しながら、素早くルミめがけて移動してきた。そして鋭い両手の爪で激しく切り裂いた。

 防御姿勢をとるルミを、鉄の盾を構えたヘイデンがかばった。鉄の盾は三つに引き裂かれた。


「ありがとう、ヘイデン!」


「怪我はないか?くそっ、あちこちに地雷魔法をばらまきやがって……、動きづらいじゃないか」


 ルミ達の周囲の地雷魔法が次々と爆発していく。魔獣はなおも容赦なく地雷魔法を設置して回る。ルミが放った閃光魔法を魔獣はものともしなかった。


「うっ、全然効いてない!」


 魔獣はルミのふところに飛び込むと激しいおたけびをあげた。おたけびの衝撃でルミは後方に吹っ飛んで倒れた。その際父の形見の短剣を落とした。


「ルミ!」


 ヘイデンはルミの所まで駆けつけ、地面に落ちた短剣を拾った。魔獣は二人まとめてかみ砕こうと襲いかかってくる。


「うおおおおお!!!」


 握りしめた短剣を勢いよく振りかざすと、十字の衝撃波が発生して魔獣の身体を十字に切り裂いた。


「ぐあああああ!!!」


 魔獣は血しぶきをあげながら倒れた。


「ヘイデン……、今の、どうやったの?」


「わからない、無我夢中だったから。それより大丈夫か?ルミ」


「う、うん」


 ルミは立ち上がって考えた。自分はまだ見習い魔道士であるという事を改めて知らされた。これからもこんな強敵と遭遇するだろう。もっと精進しなければ……。


「あの、ヘイデン」


「なんだ?」


「その短剣、ヘイデンが持ってて」


「いいのかい?」


「うん、なんかそうした方がいい気がするから」


「よし、わかった。サンキュー!」


 二人は先へと進んでいった。

 残された愚王ジェラオンの死体のそばに、さっきまで戦いを傍観していた少年がやって来た。


「呆れた……、おじさんの憎しみの力って、その程度だったんだ。負け犬は負け犬らしく、もっと卑屈にならなきゃ。それにしてもさっきの二人……、面白そうな人たちだね」


 そう言って少年は姿を消した。

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