第10話
「ダメーー!!それだけは返して!!」
ヘイデンは後ろを見ずに一心に走った。右手にはルミが持っていた短剣が握りしめられていた。
オレだってこんな事したくないんだよ……。でも、仕方ないじゃないか。
走るヘイデンの目の前に馬車が止まった。中からガラの悪そうな男が現れた。
「よう、ヘイデン。いいもん持ってるじゃねえか!それがおかしらに納める上納金代わりか?俺が渡してきてやるよ」
男はヘイデンから短剣を奪い取ると、あっという間に馬車を走らせて行ってしまった。
「ああっ!ダメ!!返してーー!!」
ルミは悲痛な叫び声を上げた。しかし馬車はもう見えなくなっていた。
ヘイデンはずっと下を向いていた。許してくれ。仕方ないんだ……。気まずくてルミの顔を見れなかったが、勇気を出してチラッと彼女の顔を見た。
「!!」
ルミの両目から、大粒の涙がぽろぽろととめどなく流れていた。涙の雫が宝石のように輝きながら頬をつたい、ぽとぽとと地面に落下していく。泣いている彼女の顔を見てヘイデンはいたたまれない気持ちになり、何も言わずその場を走り去った。ルミはいつまでもその場所で泣き続けた。
家のドアを開け、中に入ったヘイデンはベッドの傍に腰かけた。ベッドには少女が眠っていた。いや、寝ているのか、死んでいるのか傍目には区別がつかない。ヘイデンは眠っている少女に語りかけた。
「ただいま、メイア」
返事はない。メイアと呼ばれた少女は寝息をたてず、表情もまったく変えない。死んだように眠っている。
妹がこんな状態になったのはオレのせいだ……。
家のドアをノックする音が響いた。ドアを開けると神妙な表情をした神父が立っていた。
「こんにちは。妹さんの具合はどうですか?」
「神父さん。ダメです、まだ目を覚ましません」
「そうですか……。ところで、例のモノは用意出来ましたか?」
ヘイデンはうつむいて答えた。
「それが、まだ……」
神父は哀れみの表情を浮かべて、諭すように話した。
「仕方ありませんね。すぐに用意出来るものじゃないでしょう。しかし急いで下さい。妹さんの命は日一日と縮まっているのです。今こうして話している間にも」
「必ず用意します!だから……」
「わかりました。ご武運を祈ってますよ」
神父はドアを開けて去っていった。
ヘイデンはメイアの顔をもう一度見た。
「まってろよ、メイア。オレが必ず助けてやる!その為ならどんな事だってやってやる!たとえ悪い事でも……」
ヘイデンは決意するように誓った。しかしルミの顔が脳裏に浮かんだ。ルミの顔とメイアの顔が一つに重なった。赤の他人にしてはそっくりだった。
村はずれの洞窟の中。ここは地元で悪名高い盗賊団のアジトだ。数十人のガラの悪そうな盗賊達が騒いでいる。中央の一番目立つ所でひときわ悪そうな人相の男が酒を飲んでいた。盗賊団のおかしらだ。
ヘイデンはおかしらに呼ばれてアジトにやって来た。
「おい、今日の上納金は持ってきたか?」
ヘイデンはお金が入った袋をおかしらに渡した。
「よしよし、お前は我が盗賊団の為によく働くじゃねえか。関心関心」
「お、おかしら。10万G納めたら例のモノをくれるんですよね?」
「ああ!おれは嘘はつかねえ!10万Gきっちり納めたあかつきには、秘法のポーションをお前にやろう!」
「わかりました。どんな事をしても、必ず10万G用意します」
ヘイデンはアジトを後にした。
ゴウレ村にたどり着いたルミは、ヘイデンの行方を探していた。
「取り戻さなきゃ!父さんの短剣を!」
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