甘ったるく今年が終わります
「年末も働いてるんだ」
「働いてますけど」
年末にわざわざコンビニで買い物をするお客なんて少なくて、お店も早く閉めるのに、彼はやって来た。
金麦とおつまみでカゴがいっぱいになっている。
「暇じゃなーい?」
「暇じゃないですけど、バイト中なんで」
ピッピッ、と軽快な音を立ててバーコードを読み取っていく。
この作業をしていて暇かどうか聞く方がおかしい気がするのだが。
相手はお客さんだと言い聞かせながら、溜息を飲み込んではバーコードの読み取りをしていく。
相手にする気はありません、というようなオーラを出しているにも関わらず、目の前のお客さんはニコニコと笑顔を絶やさない。
バイトを始めた頃から良く見かけていたお客さん――名前も知らないお兄さんなのだが、いつ頃からか、良く話しかけてくるようになった。
数ヶ月前には、無理やり連絡先の書いてあるメモを渡されたのだが、連絡をしなかったら何故か怒られた。
本当に意味が分からない。
一種のストーカーなんじゃないか、と少しばかり自意識過剰な考えまでし始めると、お兄さんはこれも、と空っぽのカゴにチョコレートを突っ込む。
赤いパッケージが印象的な、十二個入ったチョコレートだ。
「おつまみと一緒にですか?食べ合わせ悪そうですね」
後数分でお店も閉められるだろう。
最後にチョコレートのバーコードを読み取って、レジ袋の中に入れる。
表示された金額を読み上げて、お金を受取りながら袋を差し出せば、ありがとう、と律儀に返ってきた。
こういうのが出来るなら、やたらと構ってくるのを辞めることも出来るんじゃないだろうか。
ガシャンッ、と音を立てて開いたレジの中から、小銭を数枚抜き取って、レシートと一緒にお兄さんに渡す。
「多分もう閉めるんで」
帰って下さい、の言葉より先に、手の平に何か乗せられた。
レシートとお釣りは、既にお兄さんのお財布の中に収まっていて、代わりに私の手の中にあるのは、先程のチョコレート。
「今年もお疲れ様。来年も頑張ろうな」
にっこり、お兄さんが笑顔で言った。
私は手の中にあるチョコレートと、お兄さんを見比べてから、溜息。
もうお店を閉める時間だ。
「それ、来年もバイト続けてろってことですか」
私の言葉に、お兄さんの笑顔は深まって、私も笑うしかなかった。