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2015年/短編まとめ

甘ったるく今年が終わります

作者: 文崎 美生

「年末も働いてるんだ」


「働いてますけど」


年末にわざわざコンビニで買い物をするお客なんて少なくて、お店も早く閉めるのに、彼はやって来た。

金麦とおつまみでカゴがいっぱいになっている。


「暇じゃなーい?」


「暇じゃないですけど、バイト中なんで」


ピッピッ、と軽快な音を立ててバーコードを読み取っていく。

この作業をしていて暇かどうか聞く方がおかしい気がするのだが。


相手はお客さんだと言い聞かせながら、溜息を飲み込んではバーコードの読み取りをしていく。

相手にする気はありません、というようなオーラを出しているにも関わらず、目の前のお客さんはニコニコと笑顔を絶やさない。


バイトを始めた頃から良く見かけていたお客さん――名前も知らないお兄さんなのだが、いつ頃からか、良く話しかけてくるようになった。

数ヶ月前には、無理やり連絡先の書いてあるメモを渡されたのだが、連絡をしなかったら何故か怒られた。

本当に意味が分からない。


一種のストーカーなんじゃないか、と少しばかり自意識過剰な考えまでし始めると、お兄さんはこれも、と空っぽのカゴにチョコレートを突っ込む。

赤いパッケージが印象的な、十二個入ったチョコレートだ。


「おつまみと一緒にですか?食べ合わせ悪そうですね」


後数分でお店も閉められるだろう。

最後にチョコレートのバーコードを読み取って、レジ袋の中に入れる。

表示された金額を読み上げて、お金を受取りながら袋を差し出せば、ありがとう、と律儀に返ってきた。


こういうのが出来るなら、やたらと構ってくるのを辞めることも出来るんじゃないだろうか。

ガシャンッ、と音を立てて開いたレジの中から、小銭を数枚抜き取って、レシートと一緒にお兄さんに渡す。


「多分もう閉めるんで」


帰って下さい、の言葉より先に、手の平に何か乗せられた。

レシートとお釣りは、既にお兄さんのお財布の中に収まっていて、代わりに私の手の中にあるのは、先程のチョコレート。


「今年もお疲れ様。来年も頑張ろうな」


にっこり、お兄さんが笑顔で言った。

私は手の中にあるチョコレートと、お兄さんを見比べてから、溜息。

もうお店を閉める時間だ。


「それ、来年もバイト続けてろってことですか」


私の言葉に、お兄さんの笑顔は深まって、私も笑うしかなかった。

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