絶望と希望は隣り合わせ。
「嘘、だろ……?」
俺はそう呻き声をあげることしかできない。
「俺がその女に『魅惑の魔法』をかけたのは森からの移動の時さ。お前がその女を好いていることは一目瞭然だったからな。それを利用させてもらった。
まさか、本当に両想いだとでも思ったか?」
男が何かを言っている。
しかし、その声は俺の耳に届いていない。
「はっ、もう心が折れたか。もう少し骨のあるヤツだと思ったんだがな。まあ仕方ないか。俺に読みで負けた上に、最後の希望すら失ったんだもんなぁ!」
もうそんなことはどうでもいい。
殺したければ早く殺せばいいのに。
「……終わりだな。
そんじゃ、本と指輪を回収させてもら----」
「ちょっと待って!」
川口が叫ぶ。
「あん?ああ、そういえばまだ魔法を解除してなかったか。ほらよ」
そう言って男は指をパチンと鳴らす。
「これで魔法は解除されたぜ。
さっきは殺すと言ったがこいつの様子を見てたら気が変わった。
今のお前にとったらどうでもいいかもしれないが、もし大人しく指輪を渡すんだったらお前とこいつの命だけでも助けてやろう。
もちろん、俺に関する記憶は消させて-----」
「待ってって言ってるでしょ!」
川口が今までに見たことのないような冷たい表情で男を睨む。
「さっきから好き放題言ってるけど、私は別に魔法になんてかかってないよ!」
「ああ?」
その言葉を聞いて男は困惑したように顔を歪める。
それ以上に俺もまた、困惑を隠せなかった。
「何言ってやがる。俺は確かにお前の状態に『魅惑』がついているのを確認したぞ」
「ちょっと言い方を間違えただけ。
一度かかったけど解除したの」
「何!?お前らはまだそんな魔法を覚えていないはず…………いや、まさか!?」
「そのまさかだと思うよ。支給品を全部把握してるんだったら分かるよね?」
俺は今行われている話についていけない。
だから、今は川口に任せることにした。
「神聖魔法で状態異常を回復させたのか!」
「そのとおりだよ。芝崎君の神聖魔法の説明にそんなことが書かれてあったのを思い出したから」
「だが………!
…いや、それはいいが、どうして『魅惑』にかかったと分かった?
それに、お前は森でずっとこの男と話していた。解除する暇なんてなかったんじゃないのか?」
既に男からは明確な動揺があらわになっている。
「そんなの、好きな人への感情に異物が混ざったらわかるに決まってるでしょ?
それに、『魅惑』を解除したのは森でじゃなくて城でだよ」
「何?」
「王様が話をしている間に、音を消す魔法を使ってもらってばれないように解除してもらってたの」
これには男も絶句するしかないようだ。
そこまで言ってから川口が俺の方を向く。
「だから芝崎君。私が芝崎君について行ったのは私の意志だし、あの時の言葉も私の本音だよ。
だから、団長さんの言葉なんかに騙されないでほしいな」
それに、言ってにっこり笑う。
ああ、そうか、よく考えたら分かる話だったんだ。
団長は、川口が必然的に城を出ていくように『魅惑の魔法』をかけたと言っていた。
そこに、川口の告白は含まれていないんだ。
「ありがとう、川口。もう大丈夫だ」
これは強がりでもなんでもなく、本心で言った言葉だ。
余裕を取り戻した俺とは反対に、団長はさっきまでの余裕を完全に失ってしまったようだった。
「そんな……この俺が、読み間違えた?
………いや、まだだ。作戦を失敗したのなら立て直せばいい。
『召喚』“熊鰻”」
団長が冒険者ギルドでも出した魔物を召喚する。
「お前……逃げる気か?」
「当たり前だ。誰が好き好んでSランクの化け物なんかと戦うか。
本当ならここで奪えばよかったんだが、作戦が失敗した以上、指輪は遺品から回収するしかない」
あの竜、Sランクだったんだな。
だが、今はそれはいい。
「俺達が大人しく死ぬとでも思ってるのか?」
「まあ、このまま引けばお前らも逃げれられるだろうな。
だが……やれ、熊鰻」
そう言った瞬間に、熊鰻が周りの木をなぎ払った。
何本もの木が真っ二つに割れて倒れていく。
「こうすれば竜もこっちに気付くだろう?」
いつの間にか余裕を取り戻している様子の団長がこちらを見て笑う。
「それと、最後に言っておこう。
本物のイノマと団長は城の倉庫の中だ。
俺の本当の名前はアルナ、覚えておけ」
そう言ってアルナは立ち去ろうとする。
「待て!その魔物はどうするつもりだ!?」
「ん?ああ、熊鰻のことか。こいつはお前らの足止めにでもなってもらおう」
「死ぬことになるんだぞ!?」
「そんなの知ったことか。魔物の命なんてどうでもいい」
そのままアルナは森の奥へと消えていった。
またやられた!
まさか本当にあの団長の顔すらも偽物の仮面だったとは!
それに、眷属を無下に扱ったあいつの態度、いつか絶対に今回の借りを返してやる。
だが、今のこの状況、正直---
「絶望的、だよね?」
川口が俺の気持ちを代弁したかのように俺に言う。
前には熊鰻、そして後ろからはもうすぐやってくるであろう竜。
確かに絶望的な状況だ。
だがしかし
「大丈夫だ、俺が必ず川口を守る」
さっきはダサいところ見せたしな、と心に付け足す。
それを聞いた川口は
「うん!お願い!」
そう言って俺に笑顔を向ける。
そして俺達は絶望的な状況を覆す為に戦い始めるのだった。
そろそろ主人公無双が始まる予感。
ということでいつも読んでいただきありがとうございますm(__)m
感想よろしくおねがいします|ω・)




