酒の失敗
「さて、どうしよう。」
男は、一人さびしくつぶやいた。
この男は、酷く酒癖が悪かった。仕事は営業職だが、実際には客先、上司、先輩にいつも謝るだけの仕事で、胃に穴が開くような思いをいつもしていた。それだけでなく、後から入ってきた後輩たちはその力を買われ、男よりもっと華やかで高収入な仕事についていた。そのことがさらに男にストレスを与え、男はその発散の為酒を多飲するようになった。
仕事で酷い扱いを受け、初めて一人大酒を飲んだ日、男は自身が酒癖がものすごく悪いことに気が付いた。最初の店で会計をしたところまでは覚えていたが、朝起きると全く知らない土地の公園で寝そべっていた。結局、その日は交番で道を聞き、5駅離れた場所から自宅へ戻った。それ以降、時折大酒を飲んでは色々な所で目覚めることを繰り返してきた。
「一件目は、いつものバーだったよな。」
男は昨日の記憶を呼び戻す。行きつけのバーで、マスターに愚痴を言いつつ、三杯ほど強い酒を飲んだ。
会計を済ませ、また別の行きつけの居酒屋に向かって歩いたところまでは覚えている。
次に記憶があるのは、いつもとは別の方面の電車に乗っている場面で、そのまま記憶が途切れている。
次の場面は、なぜか漁師と一緒に魚をあぶりながら日本酒を煽っていた。いまいち確証が持てないが、ゆらゆら揺れていた事を考えると、おそらく船の上だろう。なぜ船に乗っていたかはわからないが。
そして現在に至る。
「ここはいったいどこなんだか」
スーツ姿で、大きなため息を一つ吐いた。
「とりあえず、これからは、絶対深酒はやめよう。」
眼下に広がる一面の海を見ながら、おそらく無人島の砂浜で、男は酒絶ちの決意をした。