第参話 歩いていると後ろから怪しげな気配が……
世界は等しく不平等だ。
そして世界は不平等に等しいのだ。
魔法が何種類も使える程に精霊に愛されている魔法使いもいれば、僕みたいに救いようのない程に精霊に嫌われているヤツもいる。
と、言うわけで今日も神無と森の中を歩いている。
何がと、言うわけなのかは知らないが、何時もと変わらず僕は神無と二人で森の中を歩いている。
僕の年だと普通は魔法学院に入っているはずなのだけれども、捨てられたから僕には全く関係の無いものとなった。
別にどうと言うことは無いんだが、うん。
切実なことを言おう。
「出逢いが欲しい。切実に」
「私じゃ駄目かな?」
「……あんさん何だかんだで神様ではないですかぃ。僕が手を伸ばしても届かないじゃないかよ」
「届くよ。手を伸ばすならね。ま、もう少し待って手を伸ばさない場合、私の方から攻めていくからよろしくぅ」
「よろしかねぇよ」
神様が手を伸ばすってなんだよ。
ま、別に気にはしないけどさ、神様が手を伸ばすってなんだよ……。
大切なことなので二回ほど言いました。
ええ、このネタは一杯使われてそろそろ飽き気味になっていると解りつつも二回言わせていただくことにしよう。
それが僕の正義!!
ま、それは置いておいてだ。
実際は学園に行きたい気持ちはなきにしもあらず、と言うより寧ろありありである。
何故か?と問われれば、特にないと答えるしかない程度の気持ちでしかないのだが、やはり行きたいのだ。
「ま、なんと言うか、てゐっ!」
「な、何で急にバク転をしたの?」
「いや、普通に立っても面白くないかなぁと思ってさ。それにこれは僕が気合いを入れる為によく程々に使う動きだから慣れてよ?」
「よく程々ってどういうコト?それに慣れてよって……」
「さぁ、僕も適当に発言しただけでコレと言ってそれほどの意味は無いと思うよ。ついでに慣れてくれなきゃ時々起こす突飛な行動についてこれないよ?」
「そうなのかー」
「そうなのだー」
なんだかんだでコイツと一緒に歩くのは楽しい。
真っ暗な森の中を一人で歩くのは辛いが、こうしてしゃべり相手がいるだけで気分が楽になる。
しかも、ナイフとは言え美しい女性であるのだ。
楽しくないか?いや、楽しいに決まっている!反語ッ!!
「……やってて恥ずかしくない?」
「恥ずかしいなんて感情は僕を捨てた母のお腹の中に捨ててきたよ」
「なんて言うか、反応しづらい言葉だよね。それ」
「大丈夫、指さして笑われたら死なないと解っていても自殺する程度だから」
「それは大丈夫なんて言わない」
ですよねー。
実際気持ちの部分では未だ整理がついてないもんだからしょうがない。
「そう言えば、さっきから僕たちの後ろをストーカーしてきている女の子は誰なんだ?」
「精霊王だよ」
「……ゑ?」
「精霊王だよ」
「いや、二回も言わなくても解るんだが、マジか?」
「精霊王だよ」
「お前は何処の村人だよ!?」
「残念、私は呪われていて外すことが出来ないようだ」
「村人関係ねぇ!?ネタが豊富だなっ!」
「いや~、それほどでも~」
「褒めてねぇ!!」
……うん、何となく楽しいと感じてしまう僕は末期なんだろう。
ま、所詮は僕は僕でしかないんだし、これ以上僕が変わるわけがないからどうでも良いか。
HAHAHA☆
「なんで自分で自分のこと馬鹿にして落ち込んでるのさ」
「心に刺さったナイフってのは、中々抜けない物なんだよ」
「……気づいたのに無視とか、サイテー」
「急に話しかけてきた!?」
精霊王様が僕に話しかけてきた。
僕を嫌っているはずの精霊達の王の精霊王が、だ。
軽くテンパっているのだが、それはしょうがないだろう?しょうがないんだ。
「ッフ、本当に皆に嫌われてるわね、アンタ」
「ぐふっ……」
「マスター!?……精霊王、調子に乗ってると賽の目状に斬り殺すよ?」
「残念ね、私は斬り殺せないわ。因みに!私はコイツが気になって来たんじゃ無いわよ?偶然見つけただけなんだから!」
……ツンデレ?
精霊王ってツンデレなんですかい?
ツァン○ディレなんですかい?
「隠れてないよ、マスター」
「隠す気がないんだよ」
「意外と冷静なのね。ま、そう言うところは見直さないこともないけど」
「へぇへぇ、どうも」
それにしても僕のことを嫌っている精霊の一番頂上にいると思われる精霊王がなんで目の前に現れたのかということについて問い詰める必要性を感じなくもなくはない。
だが、今更どうのこうの言われたところで変わらないし、変われないから気にしない。
つまりはそういうことだ。気にしたら負け。
「と、言うわけで勝ったから何か商品をば」
「商品なんてないわよ。自己完結したからってドヤ顔してんじゃないわよ」
「えー」
「えーじゃない!……折角誰にも手助けして貰えない子がいるって聞いて心配してきて上げたのに」
「……なあ、これって完璧なツンデレじゃあないか?」
「……そうだね。なんだかんだ言って危ない時には助けてくれるうっかりツンデレさんじゃないかな?」
「そこ!何コソコソしてんのよっ!」
僕等二人は目の前の天然うっかりツンデレさんな精霊王に向かって暖かい視線を向けた。
うむ、何というかそう考えたら一気にかわいらしく感じてしまう。……ッハ!?コレが出逢いか。
「マスター、いい加減にするべきだよ?」
「さーせん」
足をぐりぐりされたら痛いに決まっている。
それも、わざわざ普通の靴からヒールのついた靴に変えてから踏むなんて……。
なんてドMほいほいっ!
「……私が調教してあげようか?」
「いいえ、結構です」
「私を無視するなっ!!」
「「どうどう」」
「馬じゃあないわよっ!!」
「で、本題に入って良いかな?」
「なんで私がこの空気を作ったみたいな雰囲気を二人してだしてんのよっ!」
「まぁまぁ。落ち着くべきだよ精霊王。深呼吸深呼吸」
「そ、それもそうね。スー、ハー……スー……。だからアンタ等の所為でしょうがっ!!」
「「どうどう」」
「だから馬じゃあないっ!」
あー、ヤバイ。楽しすぎる。なんというか楽しすぎる。
ある意味形容しがたい恐ろしい感情だな、コレは。お肌が艶々になってしまいそうだ。
つまりは、こういうことか。僕は……軽いSだったんだ。
「アンタ等ねぇ……っ!」
「一瞬流されかけた精霊王には言われたくないよ」
「アンタ等の無駄にあるチームワークの所為でしょうが!」
「「いえーい!」」
「ハイタッチすんな!」
うむ、コレは旅のお供に欲しい存在であるな。
隣で神無も精霊王と僕の方を交互に見て『良い物件ですぜ、旦那』ってアイコンタクトを送ってきている。
それにしてもこれほど弄り甲斐のある人外は他にいただろうか?いや、いない。
まあ、神無と精霊王以外の人外は知らないんだが。
「で、精霊王。アンタの名前はなんなんだ?」
「……不機嫌になってる私によくそういうことを聞けるわね。まぁ、良いわ。私は燈火よ」
「すみびさんですね、わかります」
「とうかよっ!!」
「で、燈火さん。ついでに僕と契約して一緒に旅にでませんかぃ?」
「え?まぁ、別にいいけど」
「……ふぁっ!?」
「あー、アンタそう言えば嫌われてたもんね。精霊に嫌われてるんだから精霊の王と契約出来るはずが無いとダメ元で言ったけど、私に承諾されて驚いてる訳ね」
「いや、まあ、そうなんだが」
「マスターって何気に顔格好いいですもんね」
「……まぁ、それは同意しないでもないわ」
「僕って人外に好まれるタイプの顔してるのかな?それはそれで嬉しいような悲しいような、そんな複雑な気持ちになっちゃうぜ」
その後、なんだかんだで契約することになった燈火と王都へ向かって歩いていた。
まあ、道中弄りすぎて燈火がガチギレして殺されかけたのは良い思い出だ。まぁ、死なないし。
だが、弄りは適度にこまめに相手をキレさせないようにするんだゾ?お兄さんとの約束だからな。
因みにフェアリー→フェア→等価→燈火です