第壱話 魔が差して
……はい、スランプだったので始めました。
ま、生暖かい目で見てやってください。
得意属性なし。
神様の加護も精霊様の加護もなし。
使える魔法、身体能力強化と武器の強化のみ。
そんな魔法使い、それが僕。
親には見捨てられ、兄には的にされ、弟には嘲笑われる。
親しかった幼馴染みはいつしか話しかけてこなくなり、話しかけると嫌な顔をされる。
いつだろうか、軽蔑の目で見られるのに慣れたのは。
いつだろうか、そこに僕という存在がなかったかの様に扱われるのが普通になったのは。
だが、そんな生活も昨日で終わりを迎えた。
家名を剥奪され、荷物を纏めさせられ、家を追い出されたのだ。
全てを失い、絶望して一人樹海に入る筈だったのだが、偶然ナイフを見かけ、偶然それを拾い、偶然刃に書いてある銘を詠んでしまったのだ。
そしたら、偶然目を醒ましたらしいナイフが『マスターktkr!!』と叫びだしたのだ。
偶然が積み重なるとこういう奇妙かつ珍妙なことが起きるのだなあ、と一人で納得していた。
「マスター、どうかした?」
「なんでも無いよ。強いて言うなら経緯を思い出してただけ」
「そう言えばマスターってなんて名前なの?」
「唐突だね。ま、いいや。僕の名前はシラサギ ユウトだよ。……まぁ、もうシラサギじゃあ無いんだけどね」
「……アララギ?」
「僕の名前はシラサギだ。そんな何処でもフラグを建てる三大旗漢の一人みたいな名前じゃあない。しかもほんのちょっと前にシラサギじゃ無いことを言ったのにどうしてそうなった。それとそのネタは色々危ない」
……なんでこんなやり取りをナイフとしなくちゃあいけないんだろうか?
まるで僕が寂しいヤツみたいじゃないか。
まぁ、寂しいヤツなんだけれども。
「んじゃ、マスターって呼ぶね!」
「僕の名前を聞いた意味は!?」
「『なんとなく』だよ。世界の大体のことはこの魔法の言葉『なんとなく』で説明がつくって知ってた?」
「そんな世界なら、本当に有り難かったんだけどな。『なんとなく』で魔法が使えたら良かったのにさ」
「あ、そう言えばマスター。私が折れるまではマスターは寿命以外で死ねないから宜しく!」
「……なん……だと?」
結構シリアス目な僕のセリフはスルーされて、更にさらりとお喋りナイフによって告げられた内容に驚く僕。
……ま、別に野垂れ死ななくなっただけマシってコトかねぇ。
つか、何だよ。僕ってば既に人間じゃないんじゃね?
アレか?はぐれ人間ってところか?もしくは人間に物凄く近くて物凄く遠いナニカか?
「……因みにナイフ、君の名前は?銘は知ってるけど、名前は知らないからさ」
「私?私の名前は神無だよ。名前の由来は神様すら殺すナイフだかららしいね」
「……ナニソレ怖い」
……こんなナイフに取り憑かれるなんて、僕はなんと幸福なのだろうか。
ま、コレでひっそりとゆっくり残りの人生を過ごすコトが出来るね。死なないらしいし。
それにしてもこのナイフ……いや神無か。
この神無、物凄く人間くさいな……。
全くどういう教育をされてきたらこんなナイフになるんだろうか……?
「好きな人を奪い合う関係であるライバルの女の子のお腹を裂いて『中に誰もいませんよ』なんていう女の子に使われてたからかな」
「それはネタか?それともガチか?」
「ガチだよ」
このナイフはいつも(と言っても会って三時間位しか経ってない)唐突に僕が驚くことを言うね。
その内驚きすぎて心臓が止まるんじゃあなかろうか。
ま、止まるだけで死なないけどさ、今の話からして。
「それにしてもアレだな」
「アレって?」
「いや、僕にも人生初の精霊の加護ってヤツが出来たんだなってさ」
「ゑ?何を仰るう詐欺さん」
「誰が罠に引っかけようとする幸運関係の程度の能力を持つ兎な妖怪だ」
「私は精霊なんかじゃあないよ?強いて言うならこのナイフに残った怨念が時間が経つにつれ怨霊に変化し、それがさらに時間が経って恨み妬みが消え去って憑き神化しただけのしがない化けナイフだよ」
……なんの御冗談でせうか?
家を追い出されたと思ったらなんか物凄い経緯を持つ化けナイフを偶然拾ってしまったでありんすけど、僕の運命力は本当にどげんかせんといかんね、うん。
「急に何語を言ってるのさ……。ま、一つ言っておくとしたら私は悪い憑き神じゃないよ。ぴぎー」
「なんで棒読みなんだよ!つかさらっと何で心を読んでるんだよ!!」
……まぁ、こんなナイフとは言え話し相手になってくれるだけマシか。
つか、最初の樹海行こうとしていた超ネガティブな気持ちからこんなに変わってるって、僕って単純だな、おい。
「ん?契約者の気持ち、考えていること位解るよ」
「……え?契約者?何時の間に僕は契約していたんだ?」
「いつの間にかだよ」
「いつだよ!」
……ヤバイ、少し頭が痛くなってきた。
つか、最初にこの『神無が折れるまで死なない』っていう言葉の時点で気づけよ僕。
いやいやいやいや、先ずその前に『マスター』って単語の時点で気づけよ僕。
「マスターが私を手にとって、『このナイフで自殺してやろうかな……』とか思った時点だよ」
「うわぁお」
……なんということでせう。
このナイフはアレか?僕のネガティブな気持ちに反応して目覚めたってコトか?
………僕の所為じゃねぇかよ!?
「……僕は悪くない」
「ん?何が?偶然目が覚めたら、超ネガティブな思考を持った私好みの男の子が居たからちょちょいと契約しただけだよ」
……うわぁお。
なんつー変な神様と契約したんだろうか、僕はよぉ。
しかも契約した理由が僕が好みだったからと言う、なんとも言えない理由な訳で。
「……取り敢えず今の話は空の果ての更に果てのその奥に置いておくとして」
「随分遠くに置いちゃったね」
「僕の唯一の現実逃避方法にツッコまんでくれ」
「唯一なんだね」
「唯一なんだよ」
……なんかコイツと話すのが楽しくなってきやがった。
新しくナイフ教とやらを作ってコイツを神様にして、この世界中に広めてやろうか。
ま、馬鹿な妄言だけどさ。
「……目標のない旅ほど途中で折れる物はないからなぁ」
「ならさ、……とうっ!」
……すると煙が目の前に充満し、その煙が晴れると其処には。
一般的に15000人居たら14326人が美少女いうレベルの美少女らしき御方がいらっしゃった。
「私と一緒に勇者を倒さないかな?」
「……うえぃ?」
……どうやら僕は本気で変なナイフな少女に絡まれた模様。
僕こと最弱な魔法使いはナイフな女の子と共に勇者退治に出かけなければいけないようだ。
「つか、僕みたいな最弱魔法使いに英雄候補が倒せるわけなかろうて」
「いや、大丈夫だよ。私が憑いてる!」
……ツッコミそうになったが間違ってはなかった。
うん、コイツは勝手に僕と契約して勝手に憑いてきているだけだからな、うん。
「取り敢えずその心は?」
「マスターなら殺ってくれるって感じてさ!」
「……今度こそ字が違ぇ!!」
「ナイスツッコミ!」
「なんでサムズアップ!?」
……ガチで疲れる。
けど、なんというか面白いんだよな……。
「……んじゃ、出発ですね!」
「僕たちの旅は始まったばかりだ!」
「打ち切りなの?」
「いや、普通に現状的に一番しっくり来る言葉がコレだっただけだよ」
……まぁ、確かに過度の打ち切り臭はしなくもないけどな。
それにしても何故打ち切りってこういう『僕たちの旅はまだまだコレからだ!』的な言葉ってイメージがついているんだろうか?
そもそも、だ。
打ち切るなら打ち切るでそれなりの演出をした方が良いんじゃないのかね。
例えば主人公が死ぬとか、主人公が絶望するとか、ヒロインが死ぬとか。
「そこは何とも言えないよ。人によってはそういうの嫌いなのいるしさ。得にジャソプとかだったら熱血系を好んで、そういう終わり方をした方が受けが良いってのもあるんだろうね」
「……まぁ、わからんでもないがな。それにしても俗物だな、神無」
「いやいや、お代官様程では……」
……つまりコイツは僕のことを俗物と言ってんのか。
なるほど、なるほど……。
「超絶悶絶こちょこちょの刑な」
「なぬ!?……でもマスターがどうして精霊に嫌われてるのか解ったよ」
「……あ、僕嫌われてたんだ」
「普通の人間なら周りに少なくとも一匹は居るはずなのに、まさかの零だからね」
「して、理由は?」
「うーんとね、簡単に言うと『ネガティブ過ぎキメェ』だね」
……ぐふ。
まさか精霊に嫌われる程に僕は思考がネガティブループしてたのか……。
「あ、落ち込まないで。私はそういう冷静な目で見られるマスターが大好きなんだよ!」
「会って早々の女の子(?)に慰められるとか……」
……僕ェ。
畜生、しかも『大好き』とか言われて喜んでる僕が居るのも悔しいぜ……。
「……それ以上僕を慰めるな!!それ以上慰められたら惚れちゃうじゃねいか!」
「なら、もっと慰めよう!」
……その後もかけられ続ける優しい言葉に僕はついつい抱きついて泣いてしまいましたとさ。