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彼女のナックル

作者: 水壁

 授業終了のチャイムが鳴り出すと同時に、僕はデイパックを引っつかみ、いつものように教室を飛び出した。

 学生の波をすり抜け、跳ぶように一段抜かしで階段を駆け下りる。

 校舎を出て、真新しいアスファルトの道を東へ。

 思わずスキップしてしまいそうになるほど足取りは軽い。

 天気はピーカン。

 雲ひとつない青空には、中天からやや傾いた太陽がさんさんと輝いていた。

 目的地は二〇〇メートル離れた構内の中庭。

「おっと!」

 脇に駐車してあるセダンの横を数歩通り過ぎたところで、僕は慌てて足を止めて引き返す。

 腰を屈め、サイドミラーに顔を映した。茶髪のさわやかな青年がこっちを見ている。

 前髪を手で整え、ニッと笑ってみた。少し日に焼けた顔に、白い歯が映える。

 うん、OK。

 と、そのとき、僕の後ろを通りかかった女性から鈴の鳴るような笑い声が聞こえた。

 振り返ると高校生にしか見えない幼い顔立ちの学生が、僕を見て笑いながら通り過ぎていく。白いカチューシャがすごく似合っていた。

 僕は照れたように笑みを浮かべた。

 彼女も笑みを返す。いい感じ。

 声を掛けるチャンスだ。

 でも僕はやりすごした。

 三ヶ月前の僕なら声を掛けていたかもしれない。けど、今はそんな気がこれっぽっちも起こらない。

 僕は彼女に手を振って、駆け出した。

 やがてアスファルトから、放射状に敷かれたレンガの道に変わる。道の脇には手入れの行き届いた花壇が並び、色とりどりの花が咲いていた。

 放射状に並んだレンガの中心には噴水がある。円形の噴水で、周囲から中央の女神像に向かって断続的に水を噴き上げていた。

 その周りは生垣に仕切られていて、ヨーロピアンスタイルの白いベンチが囲むように置かれている。

 僕は歩をとめると、少し背伸びをして噴水の向こうを眺めた。

 いた。

 噴水から一段下がった広いスペースでキャッチボールをする女性が二人。

 ラッキー! 

 彼女たちは毎日キャッチボールをしている訳ではないので、小さく拳を握った。

 僕は噴水をくるりと回って彼女たちの方へ歩いていく。

 視線は自然と奥の方の女性に奪われる。思わず頬が緩んだ。

 彼女は栗本朝子さん。この大学の三年生。僕の二つ上だ。

 中肉中背でストレートの黒髪を背まで垂らしている。色白で眉はキリリと凛々しく、目はくっきり二重。鼻梁が高く、微かに色づくピンクの唇はきゅっと引き結ばれている。

 薄いブルーのシャツに細いデニムのパンツ。リーボックの白いスニーカーを履き、左手にピッチャー用の茶色いグローブをはめている。

「また来たか、青年」

 僕に気づいた手前の女性が笑いながら声を掛けてきた。

 小さな丸いメガネを掛けた、長身の女性だ。髪は極端に短く、耳に赤いピアスが光っている。

 彼女は朝子さんの友達で山野さん。朝子さんと同じ三年生だ。僕の方が年下なためか、僕のことを青年と呼ぶ。

「ええ。また来ました」

 僕は笑って答えた。

「あさこー。沢城青年がまた会いに来たわよ」

 山野さんが言うと、朝子さんはボールを持った右手を小さく振った。

「こんにちは」

 少し高めのソフトな声。笑うと目尻が極端に下がる。

「こんにちは」

 僕は挨拶を返す。

 このどこかよそよそしい対応が僕たちの距離を表している。

 実は僕はひと月ほど前に一度、朝子さんに付き合って欲しいと告った。

 彼女の返事はこうだった。

「ごめんね。今は誰とも付き合う気はないの」

 落ち込んだ。結構いい感じだと思っていたから。

 でもすぐに思い直す。「今は誰とも付き合う気はない」これを前向きに解釈すると、この先、僕と付き合ってくれる可能性は残されているわけだ。

「じゃあ、友達ならいい?」

 僕はすかさず訊いた。

「もちろん」

 彼女は答えた。

 これが今現在の僕たちの関係である。

「代わってくれる?」

 山野さんが僕にグローブを差し出した。黄色い外野手用のグローブだ。朝子さんと違って自分のではなく弟さんの物らしい。

「いいですよ」

 僕は肩からデイパックを降ろすと、グローブを受け取り、彼女と入れ代わった。

「あの娘に付き合ってると、腕が太くなっちゃうわ」

 山野さんは苦笑いを浮かべ、すぐ傍の花壇の縁に腰を下ろした。

 僕はキャッチャーのように深くしゃがんでグローブを構えた。

「さあ、思い切りいきましょうか」

 朝子さんはうれしそうに頬をほころばせると、右腕の袖を肘まで捲くり、シャツの一番上のボタンを外した。

 僕をみつめる――正確に言うと僕のグローブを見つめる目が輝く。ただのキャッチボールではなく、ちゃんとしたピッチングができるからだ。

 朝子さんはグローブを高く掲げた。左脚をベルトの高さまで上げ、右後方へ体重をシフトする。右足が地面を蹴り、左脚がすうっと踏み込んだ。

 白いしなやかな腕がしなり、かなり高い位置から振り下ろされた。

 球は僕が構えたグローブに乾いた音を立てて飛び込んだ。

 朝子さんのワインドアップはほんとうに綺麗だ。これほど綺麗なフォームで投げることができるピッチャーはそうはいない。プロどころかメジャーでも見当たらない――と僕は思う。

 実は僕が彼女を好きになったきっかけは、この美しいピッチングフォームを見たからだ。

 なんて素敵な人なんだろう。そのとき彼女の放った球に僕のハートは射ぬかれた。

 これだけ素晴らしいフォームで投げられるのに、彼女は野球経験がまったくないらしい。部活動も中学の時にテニス部に入っていただけで、ソフトボールすらほとんどやったことがないそうだ。

 それどころか、そもそも野球自体にあまり興味がないらしい。少し話を振ってみたのだが、選手の名前もほとんど知らなかった。チーム名も巨人や阪神くらいしか出てこない。

 彼女は野球ではなく、キャッチボールが好きなのだ。

 無論、球速はそれほど速いわけではない。特にスポーツをやっていないし、身体だってすごく華奢だ。だが、コントロールは抜群にいい。僕がグローブを構えたところへ寸分たがわずボールを投げ込んでくる。

 しかも彼女のもち球はまっすぐだけではない。いやむしろ変化球を投げるのが好きなのだ。

 朝子さんは直球を5球投げた後、右の指先を二本そろえて軽く捻るジェスチャーをした。スライダーを投げるサインだ。

 彼女のスライダーは右バッターの斜め外へスライドしながら落ちる。極々オーソドックスなスライダーだが、やはりコントロールは驚くほど正確だ。

 今日は特に調子がいいのか、表情が輝いている。

 構えたグラブにビシビシ決まる投球に、上野さんが感嘆するほどだ。

 彼女はその後、カーブ、あまり変化しないチェンジアップを投げてピッチングを切り上げた。

「ありがとう、沢城君」

 朝子さんはグローブを小脇に抱えてやってきた。

 球数が少なかったとはいえ、汗ひとつかいてない。むしろなんかいいにおいがする。

「今日は調子良かったですね」

 僕は言った。

「スライダーのキレはどうだった?」

 朝子さんはうれしそうに訊いた。

「手元でよく曲がってましたよ」

「なんだか今日は肩が軽かったのよね」

 朝子さんはグルグルと腕を回した。

「女子大生がなんて会話だ」

 呆れ顔で上野さんが突っ込む。

 確かに変わった人だと思う。変化球を投げるために爪を短く切っているし、マニキュアはお洒落じゃなく爪を補強するためだけに塗っているのだから。

「ところで来週の日曜日に試合があるんですけど、もしよかったら応援に来てくれませんか?」

 僕は二人に提案した。

 今日はこれが目的で来たのだ。

「試合って、前に言ってた草野球の?」

 上野さんが訊いた。

「ええ。おじさんばっかりのチームです」

 僕が住むアパートの近くに商店街があり、そこの人たちが草野球チームを作っている。チーム名は横町エイトハンドレッズ。八百屋の進さんがキャプテンなので八百から名前を取っている。

 行きつけの喫茶店のマスターに誘われ、何故か僕もそのチームに参加しているのだ。ちなみに僕のポジションはキャッチャーだ。

「何時ごろ始まるの?」

 上野さんが訊く。

「河川敷のグラウンドで十二時開始。相手はどこかの大学の野球同好会らしいです」

「どうする朝子?」

「私は行ってもいいわよ。別に予定もないし」

 朝子さんが笑顔で答えた。

 僕は心の中でガッツポーズをする。

「ほぉ……」

 上野さんがからかうような視線を朝子さんに向けた。

「なによ?」

 朝子さんの頬が心なしか紅い。

「別にぃ。私はパス」

 上野さんは手を振った。

「どうして? いっしょに観に行こうよ」

 朝子さんが促した。

「いいわよ。野球なんて全く興味ないし。それに朝子が行けば、わたしなんてどうでもいいみたいだし」

「そ、そんなことないですよ」

 僕は首を振って激しく否定した。が、実際はそんなことあった。むしろ来ないほうがありがたい。うまくいけば帰りに朝子さんと二人きりなんてことも……。

 気がつけば上野さんがジト目で僕を見ていた。

「まあ、時間があれば見に行くわ」

「楽しみに待ってます」

 本心がすっかり見抜かれているのだろうか。僕の答えに、上野さんはやれやれと肩をすくめた。




 その日、僕が喫茶店ロマン亭を訪れたのは、空が藍色から茜色に変わり始める午後遅くであった。

 街灯に薄ぼんやりと明かりが灯り、買い物カゴを抱えた主婦でごった返していた。

 ロマン亭は横町商店街の東の外れにある。

「こんにちは」

 カランカランと鐘が鳴るドアを開けて店内に足を踏み入れた。コーヒーの濃厚な香りが鼻腔をくすぐる。

 ドアを開けた正面にカウンター。窓に面した左側には二人掛けのテーブル席が五つ並んでいる。たぶんご近所の老夫婦だろう、一番手前のテーブルに客が二人だけいた。

「よう!」

 マスターはカウンターの向こうから挨拶を返した。髪を短く刈り、銀縁の丸いメガネを掛けた大柄な人だ。歳は三十を少し越えたところ。僕が草野球チームに入ったのはこの人に誘われたからだ。

 名前は水原哲也だが、みんなからはマスターと呼ばれている。エイトハンドレッズではファーストを守っている。

 僕はマスターの正面に座り、隣の空席に持っていたデイパックを置いた。

「いつものでいいか?」

 マスターは僕にそう質問しながら、すでにハンドミルで豆を挽きにかかっている。

「うん、いいよ」 

 僕は肯いた。

 マスターが淹れるいるのはマンデリンだ。

 僕は苦味の利いたコーヒーが好みなので、ここ最近はずっとマンデリンを飲んでいる。

「ところで、聞いたか拓海。シゲさんのこと」

 マスターがコーヒーを淹れながらちらりと目線をよこした。

「シゲさんがどうかしたの?」

 なにも聞いてないので、僕は訊き返した。

 シゲさんとは酒屋の重治さんのことで、エイトハンドレッズのピッチャーである。

「腰、やっちゃったらしいよ」

「やっちゃったって?」

「ぎっくり腰。なんでもビールのケースを3つだか4つだかを積んで持ち上げた時にギクって」

 マスターはさも痛そうに顔をしかめて見せた。

「ほんとに? それで大丈夫なの?」

「そう酷くはないらしい。でも大事を取って、しばらくは安静にしてるって。試合前だから無駄に張り切ってたんだろうなぁ」

 マスターは苦笑を浮かべた。

 シゲさんは四十過ぎだが、そういう子供っぽいところがあるのだ。

「えっ、じゃあ試合は?」

 うちのチームはぎりぎりの人数でやっているので、ピッチャーはひとりしかいない。

「心配するな。カバン屋の源さんが変わりに投げるってさ」

「源さん? 大丈夫なのかな? あの人確か五十近かったような……」

 源三さんは頭の禿げ上がった小太りのおじさんである。血圧が高く、際どいプレーの時は、顔を真赤にして真っ先に抗議するタイプだ。

「まあ、どうにかなるだろ。本人はやる気満々みたいだし」

「その、やる気満々が不安なんだよなぁ」

 バカみたい初回から全力で投げて、3回くらいでへばる姿が目に浮かぶ。

 そのとき、乱暴にドアが開いて、顔見知りのおじさんが飛び込んできた。

 帽子屋の畑山さんだ。彼もうちのチームのメンバーで、ライトを守っている。

 僕は畑山さんの慌てた様子に、なんだか嫌な予感がした。

「哲ちゃん、大変なことになったよ」

 畑山さんは僕の傍らまで来て、マスターに話し掛けた。ずっと走ってきたのか、息が乱れている。

「どうしたんですか?」

 僕が訊いた。

「おう、拓海君もいたのか。丁度よかった。実は源さんなんだけど――」

 ほうら来た。

「肩をやって病院に行った」

 やっぱり!

「なんでまた……?」

 マスターが眉間にシワをよせ、質問する。

「うちにふらっとやってきたんだよ。どうせ店は暇だし、投球練習をしたいから付き合ってくれって。それで5球ほど投げたら突然……」

 肩を痛めたわけか……。

 僕とマスターはお互い渋い表情で、顔を見合わせた。

 試合で痛めるならともかく、練習で痛めるとは……。

 どうしてうちのチームはこんな人ばかりなんだろう。

「私はこれから奥さんに知らせに行かなくちゃならないからこれで」

 そう言って、畑山さんは慌しく店を出て行った。

「えーっと、試合はどうなるのかな?」

 僕は他人事のように言った。

 あまりにもバカバカしくて、深刻になれない。

「おまえがやれよ。肩強いだろ」

 マスターがしれっと言った。

「え? やだよ。俺がめちゃくちゃコントロール悪いのをマスターだって知ってるでしょ?」

 僕はコントロールの悪さには自信がある。

 何度か遊びでピッチングをやったことがあるのだが、まったくストライクゾーンに球がいかないのだ。

「しかしな、今更キャンセルもできないぞ」

 確かにそれは無理だ。相手にだって都合がある。

「マスターは?」

 僕はマスターに言ってみた。エイトハンドレッズの中では僕の次に若いのがマスターだ。

「無理だな」

 フラスコの湯が沸騰し、怒ったような音を立てた。

 マスターは高校時代に野球をやっていたのだが、肩を壊してやめたと聞いたことがある。

 やはり本当だったのか。考えてみれば、そうじゃなきゃ、このガタイでファーストなんかやってないだろう。

「諦めてお前がやれ。他に誰もいないんだから」

「そんなぁ」

 僕は泣きそうになる。

 フォアボール連発で白けた雰囲気が漂う様が目に浮かんだ。

 コントロールさえ良ければなぁ……。

 ふと、朝子さんの綺麗なピッチングフォームが頭をよぎった。

「そうだ!」

 僕は思わず手を打ち鳴らしてしまった。

「どうした、急に?」

 マスターは驚いて、サイフォンのコーヒーを混ぜていた手をとめた。

 僕はにんまり笑った。

「最高の助っ人を思い出したんだ!」




「あれ、朝子さんは?」

 勢い込んでいつものように中庭の噴水に行った僕は、朝子さんが見当たらないことに肩透かしをくらった気分で上野さんに訊いた。

「心配しなくても、しばらくしたら来るわよ」

 上野さんは呆れたように答えた。

 彼女は腰の高さの花壇の縁に座っている。

 僕は隣に腰を降ろした。

「そうですか」

 ほっと胸を撫で下ろす。

「今日はなんか特別なことでもあるの?」

 上野さんはなかなか鋭い。

「実はこのまえ話した試合なんですけど、うちのピッチャーが怪我しちゃって」

「ほう。それで中止になったと」

 上野さんは勝手に結論付ける。

「いや、そうじゃなくて、その助っ人を朝子さんに頼もうかと」

「助っ人って?」

「だから怪我したピッチャーの変わりに投げてもらおうかと……」

「朝子がピッチャー!?」

 上野さんが驚く。立ち上がりそうなほどの勢いだ。

「マズイですかね?」

 自分の思いつきに有頂天になっていたが、上野さんの反応を見て急に不安になってきた。

「ん――いいんじゃない。おもしろそう!」

 しばらく考えてから上野さんが答えた。

「よかった」

「ただ、朝子がすんなり引き受けるかなぁ?」

 上野さんは考え事をするように、宙を見つめた。

「そうですよね。上野さんもちょっとは協力してくださいよ」

 僕は上野さんに頼んでみた。

「あら、なに言ってんの。私はキミの味方よ」

 上野さんは心外そうに言った。

「え、そうでしたっけ?」

 意外そうに聞き返す僕。思い当たるようなことは一度もなかった。

「というか、私は朝子の味方」

「はぁ……」

 僕は意味が分からず眉をひそめた。

「私はキミたちがうまくいけばいいなと思ってるし、朝子もキミのことが好きだと思うよ」

「え、ほ、ほんとですか?」

 あまりにうれしい言葉に、思わずどもってしまった。

「たぶん、ね……」

 たぶん、か。少しがっかり。

 でも、やっぱりうれしい。いつも朝子さんと一緒にいる上野さんが言うのだから、それなりに信憑性がある……はずだ。

「ただね……」

 急に上野さんのトーンが下がった。

「ただ?」

「ただ、キミのライバルは天使なのよね」

「はぁ? なんですか、それは?」

 意味が分からず、思わず笑ってしまった。

 だが、上野さんはにこりともしない。

 いつもの明るい上野さんからは想像できない表情に、僕の笑顔がしゅんと引く。

「朝子は昔、付き合ってたカレを事故で亡くしてるのよ」

「えっ?」

 思いがけないことに、絶句してしまった。

 一瞬、頭が真っ白になる。

「ほんとですか?」

 本当だと分かっていても訊かずにはいられない。

 上野さんは黙って肯いた。

 あの朝子さんにそんな過去があったとは……。

「そうは言っても、高校一年の頃だから、もう何年も前の話だけどね」

 朝子さんは笑みを浮かべた。僕の心を落ち着かせるためだろう。

「口では否定してても、やっぱり朝子はまだ彼のことを、どこか心の隅で引っかかってると思うのよね」

 ライバルが天使だと言うのは、そういうことか。

「朝子には彼のことを早く忘れて幸せになってほしいの」

「そうですか」

 上野さんはすごくいい人だ。さすがは朝子さんの親友だ。

「そういうことだがら、がんばれ青年!」

 上野さんは僕の背中をバンッと叩いた。

 僕は肯きながら軽く咳き込んだ。

「それで、朝子さんのカレってどんな人だったんですか?」

 僕は訊いた。

「おっ、キミは訊くタイプか。前向きでいいじゃない」

「へ?」

「気にはなるけど、訊けない。そういうもんでしょ」

「どうですかね」

 僕はずっと気にするくらいならさっさと訊く。

「まあ、平凡な男だったわねぇ。無口で面白いことひとつ言えないし。顔だって普通だったかな。ただ、野球だけはすごくてね。弱小チームだったけど、あいつひとりで甲子園まであと一歩のところまで行ったくらい」

「ピッチャーだったんですか?」

 ひとりでチームを引っ張ったとなれば、ピッチャーしかない。

「そう。私は良く知らないけど、それなりに評判だったらしいわよ」

「へえ」

「休みにはデートにも行かずに二人でキャッチボールなんかやって」

「じゃあ、朝子さんがキャッチボールが好きなのもそのせいなのか……」

「彼が変化球の投げ方なんか、熱心に教えたりしてね」

 なんだか複雑な気分。

「カップルにこんなこと言うのもヘンだけど、二人はすごく仲が良かったから、なんだかちょっとうらやましかったなぁ」

 ちょっと落ち込んできた……。

「なに沈んだ顔してんのよ!」

 急に上野さんが怒鳴った。

「だって……」

「私が全面的に協力してあげるから元気出せ」

「なに? なんの話? なにを協力するの?」

 突然、背後から美しい声が降ってきた。もちろん、朝子さんの声だ。

 朝子さんが植え込みを回り、僕たちの前へやってくる。

 今日は髪を白いリボンで束ねていた。

「なんでもないわよ。こっちの話」

 上野さんが笑ってごまかした。

「なによぉ、私だけ除け者?」

 朝子さんがおどけて、ぷうっと頬を膨らませる。

「そんなことよりも、朝子、青年が話があるんだって」

「話?」

 朝子さんが僕の方を見た。

「そう」

 上野さんは僕にウインクした。




「おい拓海、なんかあっちでお前のことを呼んでるみたいだぞ」

 バッターボックスから戻ってきたマスターが、背もたれのない平たいだけのベンチに座っている僕に言った。

 僕はマスターが示した方を振り返った。

 ベンチから五メートルほど離れた緑のフェンスの向こうに、上野さんの姿が見えた。

 彼女はのんきに胸元で手を振っていた。

 今ごろ来たのか。ちゃんと十二時開始って言ったのに。

 もう試合は終盤に差し掛かっていた。

 僕はベンチから立ち上がると、ガチャガチャとレガースを鳴らしながら、上野さんの所まで急いだ。

 土手には試合を観戦するギャラリーの姿がちらほら見受けられる。

 河川敷のため風は強いが天気は良く、野球観戦日和だ。

「遅いじゃないですか」

 僕はフェンス越しに話し掛けた。

「あら、まだ7回じゃない」

 上野さんは三塁側ベンチの後方にあるスコアボードを見て、しれっと言い返す。

「7回は最終回なんです」

「あれ、9回じゃないの?」

「プロじゃないんだから。7回で終わりですよ」

 僕は説明した。

「ふーん、そうなの」

 上野さんは肩をすくめて見せた。

「まあいいですけど」

 別に約束した訳でもないし、彼女が来なくてなにか不都合があるわけでもない。

 ただ朝子さんの活躍を上野さんにも見て欲しかったのだ。

 朝子さんのピッチングは素晴らしかった。相手は大学の野球同好会で、言いにくいがうちとは違い基本ができているチームだ。バットもスムースに振れる。おまけに助っ人で4番に座るのは、甲子園出場経験者らしい。

 そのチームを相手に朝子さんは、6回まで4安打1失点に抑えた。4安打のうち二つはその甲子園出場経験者であり、失点はエラーがらみである。

 なんと言っても、フォアボール1が彼女のコントロールの良さを示していた。

 現在、7回表2‐1でうちが1点リードしている。

「ねえ、あそこにいるの朝子よね。もしかしてヒット打ったの?」

 上野さんは一塁にいる朝子さんを指差して訊いた。

 うちの縦縞のユニフォームを着た朝子さんは、リードもせずに一塁塁上で突っ立っている。

「いや、あれはフォアボール。朝子さんは一回もバットを振ってないですよ」

 バッティングに全く興味がないのだろう、朝子さんはすべての打席で一度もバットを振っていない。もちろん、それについて文句を言う気はさらさらない。無理を言ってピッチャーを引き受けてくれたのだから。

 それはエイトハッドレッズのメンバーも同じだ。皆、朝子さんには感謝している。それどころか朝子さんが美人なものだからスター扱いだ。

 サードを守る魚屋の徳さんなんか、俺があと十若けりゃアタックするんだがな、てなことを言っている。

「なんだ、そうなの」

 上野さんは少しつまらなそうな顔をした。

「バッティングはいいから、ピッチングの方を観てくださいよ。朝子さん、頑張ってるから」

「分かってるって」

 上野さんが言いながら、僕の背後に目を向けて、不意にひらひらと手を振った。

 振り返ると、塁上で朝子さんが笑顔で手を振っていた。

 緊張感ないなぁ……。

「朝子、楽しそうじゃない」

「ええ」

 確かに朝子さんは楽しそうにプレーしていた。さそって良かったと思っている。

 そのときキーンと甲高い音が響いた。

 床屋の梅さんがピッチャーフライを打ち上げたようだ。

 チェンジだ。

「じゃあ、最後まで応援しててくださいね」

 僕は上野さんに言って、ベンチへ向かう。

 結局、うちが一点リードで7回裏をむかえることになった。

 この回をゼロで抑えたらうちの勝ちだ。

 相手の攻撃は8番バッターからだったので、今日の流れから楽勝だと思った。

 だが、そううまく行かないのが野球だ。

 8番は打ち取った辺りがレフト前に落ちてシングルヒット。

 9番がボテボテのファーストゴロでワンナウト、2塁。

 1番はこの日、朝子さん二つ目のフォアボールで出塁。

 ワンナウト1、2塁。

 2番はスライダーで三振。

 ツーアウト1、2塁。

 ここで3番バッターを抑えれば勝ちだったが、ショート内野安打でツーアウト満塁になってしまった。

 一打サヨナラの場面だ。

 右バッターボックスには今日、2打数2安打の4番バッター。

 彼が甲子園出場経験のある助っ人だ。その実力は相手チームの中で飛びぬけてすごい。

 一打席目は外角低めのスライダーを巧く流し打たれ、二打席目はカーブの後のストレートをセンターオーバーの二塁打。空振りをしないところをみると、コンタクト能力も優れているようだ。

 相手チームのベンチに目をやると、皆立ち上がって声援を送っていた。

「つまらん試合だと思ってたけど、来てよかったな」

 助っ人が足で入念にバッターボックスをならしながらつぶやいた。

 どうやら僕に言ったらしい。

 僕は顔を上げた。

 水色のユニフォームの袖から突き出た腕がものすごく太い。日に良く焼けた横顔は端正だ。

「彼女と付き合ってんの?」

 唐突に助っ人が訊いた。

「なに?」

 僕は訊き返した。

「ピッチャーの彼女」

 彼はピッチャーマウンドの朝子さんをアゴで示した。

 朝子さんは俯き、手の中の白球を見つめている。

「なんで?」

「そっちのチーム、若いのは君たちだけだから」

 なるほどね。

 助っ人は彼女のことが気になるようだ。まあ、それは無理もない。朝子さんはそれだけ魅力的な女性なのだから。

「ご想像におまかせします」

 僕は答えた。なにも本当のことを言うことなんかない。

「ふーん」

 助っ人はおもしろそうに笑った。

 なんか嫌な奴だ。

 試合とは別に、どうしてもこいつを抑えたくなった。

 僕は過去二打席の対戦を思い出し、攻め方を考える。

 と、朝子さんがマウンドから僕を手招きした。

「タイム」

 僕はアンパイヤにタイムを要請して、朝子さんの下へ急いだ。

「どうしたんですか?」

 朝子さんは顔を上げない。右手のボールを、スナップだけで跳ね上げてはキャッチを繰り返す。

「疲れたんですか?」

 僕は訊いた。

 無理もない。今までキャッチボールしかして来なかったのだから。

「まあ、それもあるんだけどね……」

 朝子さんは言いよどむ。

「もしかして、どこか痛いところでも?」

「そうじゃなくて、あのバッター――」

 彼女の視線が助っ人を捕らえる。

「あのバッターが?」

 助っ人は笑いながらバットを振っていた。

「今までの球じゃ抑える自信がないのよね」

 あれだけ完璧に捉えられたらそう思うのも仕方ない。

「別に打たれたっていいんですよ。誰も朝子さんを責めたりしませんから」

「そうじゃなくて」

 朝子さんは僕を見た。琥珀色の瞳が澄んで、キラキラと輝いていた。

「実は試したい球があるのよね」

「試したい球?」

 僕は呆気にとられた。

 この土壇場にこの人はなんてことを言い出すんだ。

「これ」

 朝子さんはとっておきの秘密を明かす子供のような顔で、球の握りを見せた。

 細く白い真ん中の指三本を折り曲げ、指先がボールに突き立っている。

 ナックルボールだ!

「朝子さん、ナックルなんて投げられるんですか!?」

 僕は声をひそめて訊いた。

「多分ね」

 朝子さんが答える。

「多分って……」

「大丈夫。7割方投げられると思う」

「はあ」

 大丈夫かな?

 しかしそうは言っても、ここはナックルにかけるしかない。彼女の言う通り、今までの攻め方では間違いなく打たれるだろう。

 ナックルボールはピッチャーからキャッチャーに届く間に、球が一回転するかしないかという球種だ。そのため、空気の抵抗を受けて、不規則な変化をする。揺れて落ちるのだ。

 都合のいいことに、今日はホームからセンター方向に強い風が吹いている。向かい風はナックルボールを投げるには有利だ。

「ただね」

 朝子さんの声が沈む。

「ただ?」

「沢城君、捕れる?」

 朝子さんがもっともな質問をする。

 そう、ナックルボールは捕球が難しいのだ。

 ナックルを受けるキャッチャーは、普通の物より大きなナックル用の特別なミットを使う。そうでないと捕れない。

 ナックルボールが魔球といわれる所以だ。

 捕れるかと言われても、正直分からない。ナックルなんて実際に見たことがないのだから。

 だが、捕れないとは言えない。そんな情けないことは。

「まかせてください。絶対、捕りますから!」

 僕は拳でミットをバンっと叩いた。

「うん」

 朝子さんがにっこり笑う。

 僕はマスクを下ろし、駆け足で戻った。

「ベッピンさん、がんばれ!」

 サードの徳さんから朝子さんに、激励の声が飛んだ。他の守備位置からもがんばれと声が飛ぶ。

 僕はお待たせしましたとアンパイアに言って、キャッチャーボックスに座った。

「攻め方の相談?」

 左手でバットをくるくると回しながら、助っ人が訊いた。

「まあ、そんなとこ」

 僕は適当に答えた。

 まさかナックルだとは思うまい。内心ほくそえんだ。

 アンパイアがプレイをかける。

 助っ人がすっとバットを引き、重心を落とした。

 朝子さんがセットポジションから投球を開始する。

 今までと変わらない美しいフォーム。

 が、朝子さんは途中から、まるでキャッチボールでもするかのように軽く投げた。

 ボールはすうーっと入ってきて、助っ人の目線から緩やかに曲がり、僕のかまえたミットに落ちた。

「ストライーック!」

 アンパイアが右手を上げてコールする。

「……ねえ、今のカーブ?」

 助っ人が不思議そうな顔で僕に訊いた。

 僕はその質問に答えず、再びアンパイアにタイムを要請した。

 それから慌ててマウンドに飛んでいく。

 ナックルだって? 

 全く変化はしなかった。ただの山なりの球だ。

 多分、助っ人は今までとは違う朝子さんの投球フォームに虚を突かれ、バットが振れなかったのだ。

 でなければ、こんな絶好球を見逃すはずがない。高めから真ん中へ入るホームランボールだったのだから。

「朝子さん、全然変化しませんでしたよ」

 僕は朝子さんに言った。

「あらそう。おかしいな」

 朝子さんは平然とした顔で首を傾げた。

「あらそうって……」

「心配しないで。次はちゃんと投げるから」

「はぁ……」

 僕は朝子さんの笑顔に負けて、キャッチャーボックスへ戻った。

 アンパイアからプレーがかかる。

 朝子さんが2球目を投じた。さっきと同じフォームだ。

 緩い球が1球目と同じ軌道でやってくる。

 インコースに山なりのまっすぐ。

 ダメだ。

 助っ人が鋭く踏み込んでフルスイングした。

 カキーン!

 ボールは放物線を描いて外野へ。

 僕は思わず立ち上がって、球の行方を追った。

 ボールはわずかにポールの左に切れ、レフト・ファウルゾーンに落ちた。

 ほんの少しタイミングが早かったようだ。

 3塁側ベンチはみな跳びあがって万歳した後、苦笑いを浮かべた。

「くそっ!」

 助っ人は悔しそうに天を仰いだ。

 だが、大きな息をふうっと吐き、すぐに気を取り直す。

 横顔は自信満々だ。

 朝子さんは右手でボールを跳ね上げている。

 僕はもう一度、マウンドへ行きたかったが、さすがにそれは諦めた。いくらなんでも、3球連続では無理だ。

 もうここは腹をくくるしかない。

「こい!」

 僕はミットを構えた。サインはない。

 カウントはツーストライク、ノーボール。

 朝子さんが投球動作に入った。やはりナックルボールだ。

 朝子さんの指から放たれた白球は、高い位置からミットめがけてやってくる。

 ボールはほとんど回転していない。

 助っ人が打ちに行く。

 踏み込んだ左足が土を蹴った。

 ボールはバッターの手前で揺れた。

 揺れて

    揺れて

       揺れて……そして落ちた。

 それはまさしくナックルボールだった。

 バットは空を切った。

 勝った――

 僕がボールを捕っていれば……。

 見事なナックルボールだった。

 あまりに見事すぎて、僕はそれを捕れなかった。

 ボールはミットの上端に当たった。そして1塁側の方へ転々と転がっていく。

 僕はマスクを跳ね上げ、慌てて追った。

 その瞬間の出来事は、まるでスローモーションのように見えた。

 ボールは地面に置かれていたバットのグリップに当たり、ぽんと跳ねた。

 転がる方向が変わる。

 3塁側ベンチは全員が腕を回していた。

 3塁ランナーが余裕でホームベースを駆け抜ける。

 2塁ランナーも3塁を回った。

 全力疾走でホームへ突進する。

 僕が1塁側ベンチ前でようやくボールを掴んで振り返ったとき、サヨナラのランナーがホームベース上で飛び跳ねていた。

 負けた。

 サヨナラパスボールだ。

 僕は朝子さんの方を見られなかった。




「こんなとこでなにやってんのよ、青年」

 振り返ると上野さんが腰に手を当て、頬を膨らませて立っていた。

 午後の校舎の屋上。

 僕は柵に両肘をついて、ぼんやり風景を眺めていた。

 冷たい風が吹いていた。

「朝子が待ってるわよ」

 僕は朝子さんに会いづらかったので、こんなところでまごまごしていたのだ。

「でも……」

「試合に負けたことなら、朝子は全く気にしてないわよ。むしろ――」

 上野さんは少し間を置いた。「ナックルボールだっけ? それが決まって、強打者から空振りが取れたことがうれしかったんだって!」

「でも僕がちゃんと捕っていれば……」

 絶対に捕ると言ったのに。

「早く行かないと朝子が怒るわよ。キミにボールを受けてもらいたくて、待ってるんだから」

「ほんとですか?」

 僕は顔を上げて上野さんを見た。

「ほんとかどうかは自分で行って確かめることね」

 上野さんはウインクした。

 僕はすぐに駆け出した。

 人の波を縫うようにして急ぐ。

 中庭の噴水は今日も勢いよく水を噴き上げていた。風の強い日で、噴水の左側のレンガ床が濡れていた。

 朝子さんはいつもの場所で、ボールをもてあそびながら突っ立っていた。左手にはグローブ。右のシャツの袖は肘まで捲くられている。

「朝子さん」

 僕は朝子さんの前まで行った。「あの……」

 どう切り出していいのか分からず思い悩む。

 まともに顔を見れない。

「お・そ・い」

 朝子さんは少し拗ねたような態度を見せた。

「すいません」

 僕は謝った。

 朝子さんはプッっと吹き出した。おかしそうに笑う。

「あの……」

 思い切って顔を上げた。

 怒ってはいないようだ。

「ねえ、私のナックルどうだった? 変化してたでしょ?」

 朝子さんは僕の顔を覗き込むようにして訊く。

「はい。すごく揺れてました。僕が捕れないくらいに」

「やっぱり!」

 朝子さんの瞳が、いたずらっ子のように輝く。こういう子供っぽい一面もあったのか。

「結構、練習したのよねぇ」

 ものすごくうれしそうだ。

 彼女は腕を回し始めた。

「沢城君、私のボールを受けてよ。グローブは麗子が置いてってくれたから」

 見ると、いつも球を受ける場所に、上野さんの見慣れたグローブが置いてあった。

 上野さんは麗子って言うのか……。今、初めて知った。

「もう麗子は受けてくれないって言ってるから」

「えっ、ほんとですか。どうして?」

「沢城君の方がちゃんと捕ってくれるからでしょ」

 朝子さんは少し頬を紅らめ、照れたように言う。

 もしかして、いい感じ?

「朝子さん、よかったらうちのチームに入りません? 朝子さんがピッチャーだったらいいのにって、みんな言ってますよ」

 僕は言ってみた。

 試合後、ロマン亭ではこの話で持ちきりだった。

 あんな負け方をしたので、僕に気を使ってくれたのもあるだろうが、みんな朝子さんをなんとかしてうちのチームに引き入れろと言ってきかなかった。

「う~ん、私はやっぱりいいわ。ここで沢城君あいてに、変化球を投げてる方だ楽しいから」

 朝子さんは右手でボールを跳ね上げた。

「そうですか。残念」

 僕は上野さんのグローブを嵌め、構えた。

 本当は大して残念ではなかった。

 僕もここで朝子さんの変化球を受けてる方が楽しい。

「ナックル、行くよ」

 朝子さんが言った。

「はい」

「ちゃんと捕ってよ」

 朝子さんがセットポジションから投げる。

 ボールは昨日投じた3球目のように揺れた。

 揺れて揺れて揺れて、僕が構えたグローブにすぽっと入った。

 朝子さんがにっこり笑った。

「ストライク!」

 僕はコールした。


大昔に書いたものです。

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