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彼氏が変態過ぎて困ってる  作者: 黒木京也
色んな外伝詰め合わせ
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大晦日でもイチャつくバカップルがいるらしい

 大学生となって三度目の大晦日。今年の日本列島は異様な大寒波にさらされていた。

 最低気温はマイナスに達し、数日前から続く各地での記録的な大積雪は交通機関を麻痺させて、お正月に帰省する人々にも多大な影響を与えている。

 かくいう私達も新幹線の大幅な遅れと、実家側での「コレ無理。迎えに行くだけで命懸けになる」という両親の悲鳴を受けていて帰省を断念。

 私と彼はしぶしぶ故郷より離れたマンションの一室で年を越すこととなった。

 ……訂正。しぶしぶは間違いだ。両親にはちょっと薄情だけど、内心では少しドキドキしてる。年越しとお正月はこちらに来てからも毎年帰省していて、家族ぐるみの付き合いもあり、三が日のうち一日は両家でお食事するのも恒例だった。

 けど、今年はそれがない。つまり、彼と初めて二人きりで年越しとお正月を過ごすのである。新鮮さで私が舞い上がるのも無理ない話で……。


「大変なことに気づいた。今年はまだ君をミニスカサンタにしていないじゃないか」

「……去年も一昨年もなったことないわよバカ」


 そうなると、この変態が暴走するのもわかりきっていたことだった。

 冬だからと出した炬燵に脚を突っ込んでぬくぬくしていた矢先のことである。

 ついでに現在の私は彼のお膝の上に座って後ろから抱っこして貰う状態でのんびりまったりしていた。

 もう幸福感や安心感が大変なことになっていたところだったので、こんなアホな発言を耳にした日には私の声や態度がしょっぱいものになっても仕方ないだろう。


「そう、なったことないんだよ! まさかの! この僕が! 君をミニスカエロサンタにしてないんだ! この同棲始めて三年目なのに!」

「なんで今さりげなくエロ入れたのよ!」

「綾がエロいから仕方ない」

「スケベはお前だぁ!」


 ムード! もう少しムード! と怒る私の右肩に彼は悪戯っぽく笑いながら顎を乗せてくる。それだけでちょっとだけキュンとなる自分の単純ぶりからは目を背けた。


「だってさ。あざとい。可愛い。柔っこい。ついでに声と目もエロい。僕どうすればいいの?」

「死ねばいいと思うわ」

「彼女が冷たいぃ」

「彼氏が変態~」

「それ治せばミニスカエロサンタWithガーターベルト?」

「さりげなく増やすなぁ!」

「いや、ガーターは装飾過多過ぎか。属性多過ぎよくない」

「こ、の……!」


 もうやだこいつ。ホントやだ。あと顎を指で撫でるな。ちょっと力抜けるからやめて。指遣いとか……ちくしょうめ。お前の方がエロいじゃないか。やらしい! なんかやらしいっ!

 ……そういえばメリーは辰の指が好きとか言ってたっけ。

 ふと亡き友人のエピソードを思い出し、しんみりしてしまう。考えてみたら一年目は私が風邪からキャッチボール。二年目、メリー騒動。そして三年目は……まさかの辰が風邪からキャッチボール。

 アレ? 私達ってもしかしなくても、大学生になってから、まともにクリスマスしてない? いや、イチャイチャはしてたけど。……だから押し付け合いになるんじゃないかとかいう苦言は受け付けない。風邪ひいた男の子ってなんであんなに艶っぽいんだろうか。神秘である。


「……ねぇ。てかなんで急にミニスカサンタなの?」

「ミニスカエロサンタ?」

「エロつけんな言ってるでしょーが」


 そこで本来の疑問にようやく戻る。クリスマスなんてとうの昔に過ぎたのに、どうして今さら掘り起こすのか。すると彼は至極真面目な顔で。


「え、着せたいから?」

「……ですよねー。ごめんなさい、辰を見誤っていたわ」


 良くも悪くもストレートなのだ。お陰で受け止める側がどうなるかなんて知ったこっちゃないという訳である。故に私は全力で拒否しよう。だって恥ずかしいのだ。当たり前だろう。


「大体衣装がない……」

「え? あるけど?」

「なんであんのよ!」

「用意しなきゃという使命感に突き動かされまして」

「そういうのいらないから!」


 ちくしょうコイツ隙がない……! しかも抱っこされてるから逃げ場もない。いや、逃げるのは嫌だけど。ここ座り心地いいし。…………いかん詰んだ。


「……着せてどうするのよ」

「愛でる」

「スケベ」

「いや待って。綾。誤解してる。今の僕のわりと切羽詰まった状況を脱する為にこの提案をしてるんだよ?」


 ……どういうこと? と首を傾げる。内心ではろくでもないことだろうと察しながら。そう、例えば。

 状況をもう一度再確認。大晦日。ライジンと紅白歌合戦を交互に見ている。つまり……。


「チャンネル変えたい?」

「惜しい」

「蕎麦が作りたい。」

「それはもうちょい後」

「…………エッチ、したい?」

「あの、予想外なパンチ入れてくるの止めて。可愛いから」


 僕はいつでもウェルカムと言う彼のほっぺたをつねりながら、私は考えに考えて、結局降参と手をあげる。すると彼はフッ……とニヒルな笑みを浮かべ、テレビに視線を向けた。


「クリスマスさ。そういえばまともにやってあげれてなかったなぁって」


 それは、奇しくも私がちょっと考えたことと一緒だった。


「今年こそはって思ったんだ。去年はほら、君に多大な迷惑かけたからさ……」

「辰……」


 もしかして、ずっと気にしていたのだろうか。なんだかそう思ったら胸が熱くなりかけて……。気づいてしまった。


「……それで私がサンタになるのおかしくない?」

「……………………くそっ、気づかれたか」


 年末最後の決め技はアイアンクロー背面式に決定した。

 イダダダダダダ! とのたうち回る彼。逃げようとしたので身体を反転。ちょっとだけサービスも兼ねて正面から抱きつくようにヘッドロック。見た目は胸に彼の顔を押し付けているように見えるだろうが、残念ながら天国はみせてやるつもりはない。


「ちょ、綾! 痛い! 痛いっ! おっぱいなのにおっぱい楽しめないっ!」

「そうでしょうね。私のじゃ小さいでしょうしね」

「いや、君の小さくはない。CとDの狭間辺りのめちゃくちゃ素敵な……」

「…………メリーのは?」

「…………」

「正直に」

「控えめに言ってメリーのは奇跡だと思う……いだだだぃ! 待って! 素直に言ったのに!」

「うるさいわよ!」


 女心のわからん奴め。そこは嘘でも私がいいと言わんかい。そんなことを考えていたら……ふと思い浮かんだ。


「メリーって、ミニスカエロサンタ似合うんじゃない?」

「なんでそっちではエロつけるのさ。いや、似合ってたけど」

「そうよね。絶対凄いわ。見てみたい……………………んんっ?」


 ちょっと待て。今聞き捨てならん話が聞こえたんだが? え? 似合ってた?

 尚、それを口走った(バカ)は……。あっ、ヤバイ。みたいな顔をしていた。

 ほーう?


「ねぇ? どーゆうこと?」


 近年まれにみる低い声が出る。彼の目は泳いでいた。

 なので私は、洞察力を加速させる。

 前々からこのバカと今は亡きバカは、結構イベントごとをズラして楽しんでいた節がある。つまり……。


「なるほど。ちょっと時期はズレたクリスマスディナーはどう? と誘われた。そこでメリーが着てたとか?」


 ギクッと彼の身体が強ばる。当たり。多分一年目だろう。二年目は……ああなったから。それを感じた時。私は少しだけ切なさに似た不思議な気持ちを味わった。

 許せメリー。これは話が別だ。てかお前……人の彼氏を部屋に招いてそんな格好でおもてなしとかふざけんな。


「……ねぇこれ、軽い浮気じゃない? なに友達と……ト・モ・ダ・チ・と! サンタプレイしてんのよ」

「待って待って! やましいことは何もない! ホントだよ! サンタプレイとかしてない!」

「……キス」

「いや、するわけないだろう!」

「抱っこ」

「して……うん。してない」


 おい、なんで自信なさげなんだお前。近いことしたのか。ラッキースケベかこのやろう。

 これは追求が必要らしい。


「あーんは?」

「…………うぐぅ」

「くっついた?」

「いやいやいや!」

「ちっとも?」

「……ふぐぅ」

「……ムラムラは?」

「…………し、……してないっ!」

「おい今の間はなんだぁ!」

「いやあの、ごめぇーん! でもヤバイくらい……凄くて。不覚にもちょっとドキドキ……」

「よぉし! ぶっ殺す!」

「待ってストップ! 僕は綾一筋だからぁ! 知ってるだろ!?」

「知ってるけど納得いかないっ!」

「ふぇえ……!」


 さぁ立てと促す私に、彼はホールドアップした状態で立ち上がる。

 気持ちが少しだけ高ぶっていた。こうして彼女(メリー)との思い出を楽しく語れるようになって……まだ一年しか経っていないのか。しんみりするより、前を見る。そういう風に彼と気持ちを共有できる今が愛しかった。

 だから正面から、今度はアームロックではなく思いっきり抱きついた。大好きって気持ちをたっぷり込めてホールドしてやった。

 ジェラシーはまぁあるけども。私達はそういったのは超えた後だ。牡丹先輩に夫婦か! とげんなりされながら突っ込まれたのは記憶に新しい。

 さて。それではキックのフルコースだ。ただし……。

 へいカモン。僕は君の全てを受け入れよう。なんて言いながら今は私の行動が予想外で固まっている彼。その心をノックアウトしてやろう。


「えっと……あれぇ?」

「……メリーにばっかりドキドキするの? 私は?」


 下から覗き込めば、彼は稲妻でも受けたかのような変な顔。これは知っている。不本意ながら私にハートを撃ち抜かれた時の顔。

 きっとこの後に襲われちゃうのは確定だけど。まぁドンと来いだ。あんな蜂蜜女に負けてたまるかというやつだ。


「サンタ、ズルいわ。私だって着れるんだから……辰をメロメロにだって、出来るんだから」

「……着せていいの?」


 僕ぶっちゃけ、着た綾をお膝に乗せて年越したいだけだったんだけど? と、彼は肩を竦めながら苦笑い。あ、そうだったんだと納得する。きっと眠るときは美味しく頂かれちゃうんだろうけど。その過程で私を精一杯堪能してくれるなら……彼女冥利に尽きるというものだ。

 それがこうも拗れたのが少しだけ申し訳ない。

 だから……うん。私をいつも惑わせる彼に……今年最後のとびっきりなプレゼントをくれてやろう。

 そっと部屋着の裾を摘まむ。引っ張って欲しい。そう目で訴えれば、以心伝心。彼の指がプレゼントのリボンにかかる。


「脱がせて。そのまま……辰が私に着せて?」


 サンタクロースにして欲しい。そうして貴方に(プレゼント)を届けさせてくださいな。



 ※


 カウントダウンなんてなかった。

 ミニスカエロサンタになった翌朝。私達は予定よりだいぶ遅れた時間に年越しそばを啜っていた。

 昨晩の熱帯夜が嘘のような静謐の朝。

 やがて、ごちそうさまでしたと手を合わせた私達は、ちょっとだけ見つめ合って……。そうしたら、ちょっぴり恥ずかしくなって。気がついたら同時に笑みをこぼしていた。

 何年先も私達はずっとこんなノリで歩んでいく気がしてきた。それできっといいのだろう。

 いいじゃないか。何十年もラブラブでいたって。


「あけましておめでとう。綾」

「あけましておめでとう。辰」


 だから今年も……これからもよろしく。

 大好きな貴方。 

期間限定で復活!

他にも何話か用意してるのでお楽しみに!

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