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彼氏が変態過ぎて困ってる  作者: 黒木京也
日常は続く
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最終兵器浴衣彼女

 彼と話して。オーバーヘッドキックからハイキックをして適度に身体を暖めた後は、温泉にはいりました……まる。


 まぁ、その時は男湯と女湯の関係で彼とは別々だったし、のんびり。ゆったりしていた以外は、特に語るまでもない。問題は……。温泉から出てきた時。


 彼は一足先にあがっていたらしく、ロビーで待っていた。が……問題は、その格好だった。


 彼は浴衣を着ていた。

 リピートアフターミー。彼は浴衣を着ていた。


 思わずポケー。と、見惚れてしまった私がいる。

 いや、だって。だってさ。


 ……格好いいんだもの!


 座ったまま、物憂げに夜空を見上げてる横顔。

 やめてよ。そんな切ない顔やめてよ。その状態で鎖骨を見せつけないで! すんごい色っぽいから!

 何が私の浴衣が楽しみ……だ。絶対彼の方が似合う!

 はしたなく涎出そうになったんだぞ!? お澄ましの欠片もない。てかどうしよう。もうどうしよう。あの状態で近寄られたら、私、間違いなくキュン死にする。

 胸がキュンとなって死んじゃうから。ほら、こんな風に目と目があっちゃったら……。


 彼が私に気付き、私の方を見たその瞬間。彼は何故か目頭を押さえ、天井を仰ぎ見た。


「……嗚呼」


 なんてこった……。そんな声が聞こえてきて。


「浴衣は……ダメだろ。温泉、旅館。THE・和風。そこに浴衣装備の綾。しかも……しかも髪はアップ。ビバうなじ。ビューティフォーうなじ。てかもう、何か全力で僕を殺しに来てるよね。湯上がりでしっとりとした髪に、上気した肌とか……なんなのそれ。兵器だよ。間違いない。最終兵器だ。すげぇ僕の彼女、戦車も戦艦も目じゃないよ。遭遇、即撃沈だよ。主に僕のハートが。いや似合うとは思ってたよ? 犯罪級に似合うとは思ってたよ? でもおかしいよ。逮捕だよこれ。連行して尋問だよ。なんで君そんなに可愛いの!? 僕を殺すの? 萌え殺しにするの? 殺人罪……いや、可愛いは正義……ああ、正義と罪はやはり対になるのか。イコール僕の彼女が最強か。色のチョイスどうすんのこれ。グッドジョブ! 旅館グッドジョブ! ヤバイよ。ヤバすぎるよ! てか……足! 下駄用意! 流石。ちょこっと見える綾のあんよ……。よし、落ち着け、僕! 僕、落ち着け! 落ち着けぇえ! いいよね。ミニスカ和服とかいう素晴らしいのもあるけど、やっぱり見せないスタイルが素晴らしいよね。見えないからエロイんだ。日本人の業侮りがたし。〝彼方にこそ栄え在り。届かぬからこそ挑むのだ〟彼方の女と書いて彼女! 見えないからたぎるのだ! ああメリー、君なら『虚淵玄。Fate/Zero、イスカンダルの台詞ね』と言ってくれるだろうか? 僕もうダメだ。今日が僕の命日らしい。早いけどそっちに逝くよ。死因は彼女が可愛すぎて困ってい……るぶぶぶぶ!」


 暴走を止めるため、唇を摘まみ、捻る。凄い声をあげて悶えてるけど気にはすまい。

 公衆の面前で恥ずかしいことを大演説する彼氏(ヘンタイ)を止めるのは、彼女の役目にして嗜みだ。


「……落ち着け」

「イエス、マム」


 あと、私のときめき返せ。せっかくかっこよかったのに台無しだ。

 嘆いても仕方ないので、部屋戻ろ。と、促す私に彼は「あ、待って。売店に行きたいんだ」と提案してきた。それもいいかと同意し、連れだって渡り廊下を歩く。

 ……凄い彼に見られてるのを、自覚しながら。


「……見すぎよ」

「これを見ないでいられようか。僕には無理だ」

「意味わかんないわよ」

「わかりたまえ、綾。君はわかってない。自分の破壊力をわかってない。さっきだって僕をつねる動作一つにしても、袖を押さえてお上品に。美しすぎて震えたんですよ僕はぁ!」

「なんでつねられて震えるのよ変態」


 全くもって理解不能。だけど、内心では少しだけ嬉しい。一応温泉で浴衣着るなら、立ち振舞いもそれなりにしたくて、密かにお母さんから指導を受けてたりする。

 持つときは袖を押さえよ。

 姿勢はよく猫背は厳禁。……まぁ、これは元々姿勢はいい方だから平気。肘も気持ち曲げて、手は上前――右太もも脇に。腕をブラブラさせながら歩くなんてNGだ。

 下駄での歩き方。足指で鼻緒を掴み、足裏から離れないように。大きな音を出さず、歩幅は小さく。爪先に重心をかけて進むのがポイント。階段を上り下りするときは、裾を少しだけつかんで、ゆっくりと。足が見えすぎちゃダメ。


 細かいわ! と、言われるかもしれないが、この細かいことをやるのとやらないのでは、立ち振舞いの優雅さとかが全然違う。

 曲がりなりにも彼やメリー。牡丹先輩とかに和服とか似合いそうと、褒めてもらえているのだ。だからせっかくなので、全力を出してみた。結果は上々。彼の視線を独り占め。……元から私に向けられていた気もしたけど、そこはそう、いつも以上に。


「うなじを出しすぎてないのもいいね。控え目に。日本の美徳だよ。昔はうなじにも化粧を施したらしいからね。女性の魅力をわかってらっしゃる」

「……へぇ」


 その風習は初耳で、素直に感心する。「つまり日本は昔から変態だったのさ」という締めが納得いかないのはさておき。そんなこんなで売店にたどり着いた。


「そういえば、何で売店?」

「ん? ああ、それはね……おっ、あったあった。正直あるかどうか不安だったんだ。よかったよかった」


 そんな私の疑問に答える前に、彼はおもむろに商品の棚からそれをつまみ上げる。手に持たれていたのは……。


「えっと……」

「……うん、何というか。綾がよかったら。だけど、君にしてあげたいんだ」

「サービス的な?」

「うん。ならないかな?」

「ううん、なる。なるけど……」


 ちょっと恥ずかしい。かな。

 頬が羞恥で赤くなっているのが分かる。

 彼が私に提案してきたこと。それは……。


 ※


「あ……ん……っ」


 身体が跳ね上がるような感覚に、私は思わず、ぎゅっと目を閉じていた。

 場所は変わって、部屋のお布団の上。戻るなり私は彼に優しく寝かされて。そこから先は彼に身を委ねた。 

 丁寧に、ほぐすように私のを指でマッサージ。お風呂上がりもあって、しっとりかつ暖かな指に、思わず眠くなってしまったところで、「そろそろするよ」とだけ告げて、彼はゆっくりと、私の中へとそれを侵入させる。

 最初は浅めに。徐々に奥へ。中の壁が彼のに引っ掛かれる度に、私は思わず変な声を出さぬよう口を塞いだ。


「綾、ここ? ここはどう?」

「あ……う。んっ、ちょっと痛い」

「じゃあ、ここは?」

「え……? ――っう!?」

「お、あたり」


 角度を変えられた瞬間、突き抜けるような快感が走る。ビクン! と身体を震わせる私に気をよくしたのか、彼はそのまま、執拗に私の弱いところを攻め立てる。


「ちょ、まっ……そこ……!」

「気持ちいい?」

「……っ、知らないっ!」

「自分でやるのと、どっちがいい?」

「ぐ……」


 意地悪な質問に、思わず歯噛みする。認めがたいけど、自分でする何倍もいいのは疑いようもない。

 彼が動かす度に、私の身体は歓喜するかのように反応する。悔しい。でも……。


「奥をされるのと、浅いとこされるの、どっちが好き?」

「……も」

「ん~?」

「どっちも。……どっちもすき」

「それはよかった……そい」

「んんっ! ……ひ……ゃあ……」

「……いやぁ、美人がこうも乱れると素晴らしいものがありますなぁ」

「うる、……さい」

「え? 止める?」

「……止めない、でぇ」



 事実涎出ちゃうくらいに気持ちいいのだ。

 いや、実際には出さないけど。

 何より状況がヤバイ。

 和室で二人きり。彼の膝枕。で……すぐ上を見れば、浴衣の彼。

 その彼に好き放題される今。死んじゃう。恥ずかしいやら嬉しいやらで。


 耳掻きされるのが、こんなに気持ちいいなんて知らなかったのだ。



「てか、辰が……あふっ……する側なのね」

「ん~、そりゃ、綾にしてもらうのも是非お願いしたいけどね。今は……君にしてあげたくて」


 絶妙な案配で手を動かしながら、彼は微笑む。クラッときそうになったのは内緒。


「今日はいつも以上に尽くす系の僕で行こうと思うんだ」

「なんでまた」

「日頃の感謝とか? さっきも言ったけど、僕は本当に、君に救われたからね。ちゃんと……元の僕に戻りたいんだ」

「……ん」


 ちょっとだけ照れて。目と顔を逸らす。こういう時にストレートなとこは変わらないらしい。

 取り敢えず耳掻きは気持ちいいから私はご機嫌。


「ほい、おしまい」

「え……?」


 もう? といった顔になっていたのだろうか。すると彼は少しだけ困ったような顔で「綾の耳、綺麗なんだもん」と言いながら、耳掻き棒をくるりと回して。ふさふさした方を小さく振って……。


「梵天やるよ~」

「ふぇ? ……わひゃ!?」


 あれ梵天って言うんだ。へぇ。という思考は、瞬く間に飛んでいった。

 あう……これヤバイ。何かこう、こそばゆいような。気持ちいいような。


「綾は耳が弱いからね~色んな意味で」

「せ、セクハラよそれぇ……!」


 ご奉仕とか言って、お前楽しんでやしないか? 私がご満悦なのは今更だけれども。ショリショリ。パサパサッといった音に翻弄されながら、気がついたら私は、ご主人様のお膝で微睡む猫のように、優しく頭を撫でられていた。


「お疲れ様」

「……ぐぅ」

「ま、まだやってよ。って顔から梵天されて悶えながらも嬉しそうな君が可愛かったよ」

「うるさいばかぁ……」


 ちょっと腰砕けになって動けない。……これ気づかれたらヤバイなぁ。絶対オモチャに……。


「……まさか綾……もしかして今、動けない?」

「……う」


 嫌な沈黙が訪れた。彼が何度か気を落ち着かせるように頭を振ってから、もう一度私を見る。「……ああ、ダメわ。無理だわこれ」

 彼の目には、浴衣を着たまま寝そべって、少しだけ肌を上気させながら震える私が……。

 あ、ヤバイ。


「……許そう、全てを……」

「ね、ねぇ何で? 何で両手合わせるの!? おかしい……」

「いや、つい」

「ついじゃないわよ。いや、待って。今は……その」

「ぜひペロペロしたり、撫で撫でしたり、プニプニアンアンしたいんですが」

「擬音がおかしいっ!」

「いや、最近綾が押せ押せだし。そういえば僕攻めてないなぁって」

「……っ」


 それは、そうだけども……!

 いや、なんだかんだ彼が変態行為するの最近減ってたし。実家に長くいたからそういうのがまたしても御無沙汰だったから、改めてちゃんと戻ったんだなぁなんて思わなくはない。

 寧ろ攻められたら嬉し……じゃない!

 いや、あの……。


 テンパっていた。認めよう。ついでに、いつの間にか膝枕が外れて、お布団の枕に寝かされていたのに気づいた。……むぅ。もう少ししてて欲しかったのに。


「……余談だけどね。浴衣とか和服の類いってさ。その性質上手を入れたりとか、悪戯がしやすいわけです。ハイ」

「……何が言いたいの?」

「乱したいなぁ……なんて」


 あ、ヤバイ。心臓凄い。

 この感じ久々……ほぼ身体が受け入れている。

 メリーの件があって、私が求めているのを察してくれた……は、考えすぎだろうか。ともかく……。


「やっと……ようやく貴方から」

「あー。うん、ごめん。何だかんだ、堪えていたんだと思う。君とメリーに……背中を押してもらえたから」


 ……哀しみと、緊張と。色々なのがない混ぜになった彼が愛しくて。

 そっと、私は彼の胸板に触れる。

 ごつごつして、硬くて。でも線は細い。それに加えて……。


「……浴衣、凄いかっこいいわ。メロメロになっちゃうくらい」

「僕の方が君にメロメロなんだけどね」

「……お互い様で。……あの……ね、その……」


 両手を広げる。恥ずかしいけど、今相応しい言葉は……。


「……召し上がれ」


 浴衣を乱すと、凄くエロイんだなぁ。と、気づいた夜でした。

 ついでに。「君の悩殺台詞反則ぅ!」なんて彼は叫んでたけど……そんなの知らん。私から言わせれば、貴方の方が反則だと思う。


 触れて、抱き締められるだけで、私は蕩けちゃいそうになってるのだ。卑怯ものめ。



 ※


 深夜。前々から定位置と化している彼の胸板に頭を乗せながら、私は甘く痺れるような幸福感に身を委ねていた。

 火照った互いの身体が暑い。一糸纏わぬ状態で触れあってるから、尚更。

 はふ。と、謀らずも同時に気が抜けたように息を吐く。何だかそれが無性に可笑しくて、私と彼はくっついたまま微笑み合った。


「……凄かった」

「……浴衣の綾が悪い。いや本当に。なんなの君。尽くすって僕の心意気簡単に粉砕するとかもうさ……」

「……最終兵器なんでしょ? 私は、貴方の」


 何だかまた長くなりそうだったので、キスで蓋をして。そのまま彼が言っていた言葉を使ってみる。彼はポカン。としたまま、けど次の瞬間には楽しげに頷いて、私をぎゅーっと抱き締めた。

 こんなに幸せでいいのかな? と、一瞬考える。けど、日常を振り返ってみれば、幸せは日々の中にあるよなぁとも思うわけで。つまるところ。私が求めるのは、気ままな明日へとこれからも歩み続ける事なのだ。


「ねぇ」

「ん~?」

「明日も、明後日も。そのまた先も……私の傍にいてね」


 勿論彼と、一緒に。それが幸福と日常の絶対条件だけど。

 返事はキスで返ってきた。キザというかシャイというか。

 ……取り敢えず、温泉旅行はまだ続く。今度は私が彼に耳掻きしてあげよう。


 ……今はお互いに動けないから、明日の方向で。



 日常は、こうして続いていく。

 季節は巡り、雪解けを迎え。また、春が来ようとしていた。


 

 

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