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彼氏が変態過ぎて困ってる  作者: 黒木京也
日常は続く
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兎追いしかの山、冬だから閉山

 新幹線から降りると、しんとした冷たい空気が身を包む。上京してもうすぐ二年にさしかかる。長いとは言えないけど、短いともいえない期間だ。けど、こうしてこの場に降り立って、ああ、帰ってきた。なんて思う辺り、喧騒に揉まれたというべきか。汚い言葉になるけど都会被れしたというべきか。判断はつかない。

 まぁ、今はそんな私の無駄な感慨はどうでもいい。今注目すべきは……。


「お兄ちゃん! 綾お姉ちゃん!」


 改札を出ると、少し離れた場所から、女の子が全力疾走してきた。白いダッフルコートを身に纏い、頭には同じく白いロシア帽を乗せた姿は……。うん、ヤバイ。超可愛い。雪の妖精とか言われたら絶対に信じる。彼の妹さん、ララちゃんだ。

 どうやら私達を待っていてくれたらしい。出迎えがてらまず彼にタックル&ハグ。その五秒後、今度は私の方に飛んできた。


「おい。おい待て妹よ。僕に五秒。綾にそれ以上とはどういうことだ。そこ変われ。公共の場だから僕は全力で我慢してるんだぞ? 綾の柔らかエロボディは……僕のだぞっ!?」

「やだよ。今この瞬間、ここはララの特等席になりましたとさ。めでたし、めでたし」

「ハハッ、ララ。嗚呼ララ。しばらく会わないうちにウザさに磨きがかかったな。ちょっとこっちにおいで。頬っぺた引っ張ってあげよう。丸描いてチョンしてやる」

「ララちゃん日記。お兄ちゃんがでぃーぶいに目覚めました。裁判だぁ、いしゃりょーだぁ……まる」

「どこで覚えたそんな言葉。……てか、ララだけかい?」

 

 周りを見渡しながら怪訝な表情になる彼。確かにこの寒空の下。駅にこんな子が一人。誘拐されかねない。

 ララちゃんは小学四年生。誰かがついていてもいいだろうにとは思う。彼は彼で「相変わらず放任主義な……僕にはありがたいけどララはダメだろ」なんてブツブツ呟いていた。

 ……放任主義というか、おじさんおばさんがユルめになったのは、ならざるを得なかったというか。わりと彼に原因がある気もしたが、口には出さなかった。


「パパママ、おじさんおばさん皆仕事だよ? 迎え行けなくてごめん~だって」

「変なのに声かけられなかったかい?」

「大丈夫。駅下のドトールにいた」

「ふむ、流石は僕の妹だ。適度に人目がある安全地帯を見つけるとは。やはり天才か」

「兄より優れた弟は存在しなくても、妹はそれなりにいるんだぜ……まる」

「……なんだっけそれ。どっかで聞いたな」

「北斗の拳。ララちゃんアレンジ」


 兄が兄なら妹も妹だった。とは、私の弁だ。

 ぴょいと私を解放したララちゃんは、とてとてと彼の傍により、彼の手を握る。うん、やっぱりお兄ちゃんが大好き……。


「取り敢えず、帰るまでお兄ちゃん達と遊んでろだって。という訳で。ララちゃんと綾お姉ちゃんをエスコートしろ……まる」

「両手に花だね。了解した」

「因みにララちゃんは偶然お財布のお金が底をついたので、お昼と夕飯、各種出費はよろしく」

「き、貴様ァッ! わざとだろ! 絶対にわざとだろ!」

「ララちゃん日記。お兄ちゃん心せまーい。財布の中身も、もっと寒くて狭いに違いありません……まる」

「お前の煽りスキルホント何なの……」


 やれやれと肩を落とす彼。それを見たララちゃんは、クククと幸せそうに笑ってる。うん、甘えてるだけだね。

 すると、ララちゃんは、不意に「そうだ!」と、声をあげつつ、私と彼にペコリと頭を下げ……。


「お兄ちゃん、綾お姉ちゃん! 改めて直接言うね! クリスマスプレゼントありがと! 似合う? 似合う?」


 にひひ。と笑いながら、ララちゃんは頭をポンポン叩いてから、可愛い手をヒラヒラさせる。


 被っていたロシア帽子は彼から。そして……。手に着けたピンクの手袋は私から。因みに手袋は私のお手製だ。

 そんなララちゃんに彼は優しく顔を綻ばせながら、そっと屈み込むと、彼女の頬をフニフニして……。


「凄く似合うよ。雪の妖精が現れたかと思ったさ」


 考えた事が一緒で、ちょっとニヘラとしてしまったのは、私だけの秘密。

 かくして、待ち合わせた末に女の子の服装を褒める。なんて定番を経て、私と彼とララちゃんによる、お買い物デートが始まった。


 クリスマスも過ぎ、一気にお正月の空気を押し出し始めた十二月二十七日。私と彼は予定を繰り上げた、早めの帰省を果たしていた。


 目的は、単に両親らと新年を迎えたり、昔の友人達と再会するなんてごくごく普通なものと……。クリスマスの日に私が出した、ある提案に由来する。

 彼が帰ってきたあの夜。丁度日付変更したクリスマスイヴに、私は彼がどうして消えて。何をしてきたのかを知ることになる。


 それは……あまりにも突飛かつ非現実的な冒険譚だった。

 その時私が思ったのは、こうして彼の隣に並び、幸せな日常を送れるのすら、幾重の奇跡が折り重なっている尊いものなのだと、改めて感じた。


 一歩間違えて。一個ボタンをかけ間違えていれば、本当にどうなっていたかわからない。

 誰もが泣くしかない酷い結末か。私が彼を受け入れきれぬ場合もあったのかもしれない。今回の話を聞いて思ったのは、そういう可能性の恐怖だった。


 ※


「僕ね、時間を越えたというか……次元越えたというか……。平行世界の過去に行ってたんだ」


 即体温計を持ってきて、彼の熱を測った私を誰が責められようか。いや、オカルト類いでも私は結構ビックリしたのに、こんなのもうどうすればいいのか。


「何の……ために? てか、どんな理由で?」

「メリーを助けるため」


 彼の発した言葉に、私は一瞬息をのみ、気がつけば彼の肩をガックンガックン揺さぶっていた。


「助けるって……え? メリー、助かったの!? じ、じゃあ死んでなくて会えるってこと!? やったじゃな……」

「残念ながら、僕らが知るメリーは……もう逝ってしまった。別次元の過去っていう、限りなく僕らと関係しているようで関係してない場所だから、行けたって話で、僕単体でこの時間軸の過去に飛ぶことは出来なかったんだ。僕が助けたのは……他の時間軸のメリー。つまり……」


 彼は静かに深呼吸してから、真実を告げる。


「幾多もの世界線の中で、十二月九日以前に唯一生存していたメリーを助けて。ついでに、僕らの世界のメリーを殺した犯人を……止めてきた」


 私は、心臓に鉛を撃ち込まれた気分になった。何だろう。凄く引っ掛かる言い方だ。そんなのまるで……。

 私の神妙な顔を見て、彼もどことなく寂しげに頷いた。


「うん、何というかな……。メリーが二十歳を迎える前に瀕死の重傷を受ける。あるいは、死にいたる何かが起きる。これはどうあっても避けられない運命だったらしいんだ。問題は、助けられる何らかの要素があるか。正直に言えば、これが一番難しいものらしい。それこそ世界が揺らぎかねない、大きな流れが必要だった」

「大きな……ながれ? 何だかもうこんがらがってきたけど、この世界や他の世界の殆どのメリー? がいたとして、それらが死んじゃったのは……その流れがなかったから?」

「そういう事になると思う。ちゃんと数をこなして検証した訳じゃないから、正解じゃないのかも。ともかく。生存したメリーのいた世界にだけ、それはあった」

「それって、一体……?」

「……あ~」


 少しだけ歯切れ悪く。彼は目を泳がせる。そして「あくまでも、別の世界の話だよ?」と、忠告して。


「僕と君が、付き合ってない世界」

「……ふぇ?」


 ちょっとだけ涙目になった私を、誰が責められようか。だが、少しだけ考えてみれば、他全部は私と彼が付き合っていたという事だ。うん、そう考えれば何とか。てか、気にやむ必要とかないし。今、ここで付き合ってるのは私だし。へ、平気だもん。気にはするけど。


「じ、じゃあ、メリーと貴方が付き合ってた?」

「いや、そこはスタンスは変わらず相棒だったみたいだよ」

「……えー」


 ああ、鈍感なのは変わらんのか。そっちのメリーの苦労が伺える。いや、私も多分アタックしてるだろうから、それが成就しなかったという事は、ヘタしたらそれ以上の可能性もある。……これは酷い。要塞だ。


「サークルの活動記録みたけど、数は違えど、僕らがこの世界で見たオカルト事情は全部記されてて。起きたこともほとんど一緒だった。違うのは、君は上京してなかったことと、その分メリーと行動を共にするのが、増えていたこと」

「……これで貴方を蹴りたくなるのは理不尽?」

「あの、出来れば勘弁して下さい」


 まぁ、蹴らないけど。話が進まないし。

 つまるところ、そんな条件のとこに彼が飛んで行き、未然に阻止した。という事なのだろう。凄い。映画みたい。


「で、結局メリーを殺したのって誰? オカルト関連?」

「まぁ、オカルトと言えばオカルトかな。メリーを殺したのはね。メリーだったんだ」


 意味を理解するのに、しばらくかかった。


「……今日の貴方はいつも以上に意味がわかんないわ。いつかのメガネ事件が可愛くなるくらい」

「あれで可愛かったのは綾だったけどね。まぁ、それは今置いといて。正確には、これまた平行世界のメリー。それも僕がやったように、別の世界に行けるようになった上に……少々めんどくさ……じゃなくて、気が触れてしまったメリーだった」

「……今貴方自分の相棒めんどくさいって言おうとしてなかった?」

「気のせいだよ。狂った理由は省くよ。ありきたりな上に、話しても僕と君の心を抉りそうだ」


 少し気になるけど、なんとなく想像できるので、私は静かに頷き、話の続きを促した。


「平行世界のメリー。平メリーでいいか。彼女の狙いは僕と自分自身だった。有り体にいえば……君と僕が付き合っていない世界さ。そこの自分自身と入れ変わる腹づもりだったんだ。ドッペルゲンガーみたいにね」


 っと言ってもわからないか。と苦笑いしながら、ともかく成り変わりが目的だったんだね。と付け加えた。


「ややこしい背景やら、世界を移動する為の条件やらも今は取り去ろう。平メリーは言ってたよ。ただ僕の隣にいたかった。それだけだったって。そのために、自分を何度も殺してやったって」

「……酷い、矛盾ね」


 仮にそんな事をしたら、彼の隣にはいれないだろうに、そんなこともわからなかったのか。同情を禁じ得ないと共に怒りを覚えた。そんな理由で、私や彼からここのメリーを奪ったのか。


「……そんな狂ったメリー、想像もしたくないけど。でも、対峙して、ここに戻って来たって事は……止めることは出来たのよね?」


 彼が平行世界で狂ってしまったとはいえ、メリーに暴力を振るうとは考えがたかった。恐る恐る聞けば、彼は笑いながら静かに頷いた。


「ちゃんと、話してね。円満和解さ。というか僕はほとんどチョイ役。頑張ったのは向こうの僕だけどね。結果、それなりの代償は被ったけど……後悔はしてないよ」


 澱みない、晴れやかな表情だった。心底それにホッとしていると、彼は静かに胸元に手を入れる。引っ張り出されたのは、鎖と壊れたペンダントトップ。いつも彼がつけていた、メリーから贈られたというアミュレットの残骸だった。


「形見も同然だったのにこの様さ。他にも色々と持ってかれたりしたけど……ま、こうして〝ちゃんと帰ってこれた〟だけ御の字かもね」

「……二度と危ないことしないでって私は言いたいのだけど?」

「……あー」


 うん、何かもういいや。クリスマスに間に合っただけいい。

 一通り彼に頬擦りしてから「ちょっと待ってて」と告げて部屋に戻る。ラッピングしようとしていたけど、この際渡すなら今。首もとの壊れたアミュレットを触る彼が、少しだけ寂しそうだったからというのもある。

 背中に物を隠しながらリビングに戻り、私は彼に「目、閉じて」とだけ告げた。彼は突然の要求に戸惑いながらも、素直に目を閉じた。……ちゅーしてやろうか。いや、今はこっちが優先。ここ数日丹精込めて作った力作を、そっと彼の首にかけた。


「こ……これ……は……!」

「……不格好なのは許してね。初めてだったし」


 手編みマフラーである。黒白グレーの三色の組み合わせ。牡丹先輩はピンクに赤でハートの刺繍してやんなさい! 何て言ってたけど、さすがにハードルが高い。……精神的に。

 なので、無難な所ではあるけど彼の好きそうな落ち着いた色合いに……。


「綾……!」

「えっ? ひゃ!?」


 その瞬間、私は身体がふわりと宙に浮くやいなや、クルクルと視界が回り回るのを感じた。

 たちまち溢れるはとんでもない幸福感。だって……これはしょうがない。お姫さま抱っこ。女子の憧れだ。ついでにメリーゴーランドまでしてくれて、何となく恥ずかしながら心が弾む。


「……ありがとう、綾。凄く嬉しいよ。ありがとう」

「ん、喜んでくれて良かったわ」

「大事にする。夏も巻く」

「いや、そこは外しなさいよ」

「断るっ!」

「……外さなきゃ長持ちしないじゃない」

「全力で冬に堪能するっ! で、来年使うっ!」


 こいつチョロい。涙目おねだり、今度から積極的に活用して……。いや、やっぱ止める。なんかこう、私らしくないし、それただのバカップルなやり取りになりそうで怖い。


「……プレゼントさ、僕からもしたいんだ。良かったら。だけど」

「……用意してなかったのぉ?」

「わ、わりと時間に余裕が無くて。ごめんなさい。ゆ、許してください」

「……イヴと本番。全力で甘えるわ」

「了解。むしろお願いしますっ!」


 再びくるくると彼が私を抱っこしたまま回る。アトラクションみたいで楽しくて、私もまた、全力で彼にしがみつく。と、そこで私は、肝心な事を思い出す。


「そういえば……そんな平行世界だとか、平メリーの目的だとか。どうやって知ったの?」


 それは、素朴な疑問だった。すると彼は私を抱いたまま、器用かつ誇らしげに自分の目元を触りながら、にっこりと微笑んで。


「多分ここのメリーが、僕に残したものだとは思うんだけどね。原理は推測な上に話してもしょうがないから、ざっくりと言うなら……この世には、ありとあらゆる不思議なものが溢れてる。メリーはね。それを無差別に観測できる。それが僕に宿って……色んな事を教えてくれた」

「……スカパーで見る専門番組みたいね」

「な、何か凄い安っぽいものに貶められた気がする」

「気のせいよ」


 消える直前にウトウトするのが多かった理由コレか。私がありありと納得した顔をしていると、「まぁ、今はもう見えないけどね」と付け加えた。それは、一連のゴタゴタが解決したから。という事だろうか。


「惜しいんじゃない? オカルト好きな貴方からしたら」

「ん? いや、まぁ、新鮮で楽しかったのは認めるよ。でも、これで良かったのさ」


 私を抱っこしたまま、彼は窓際へ移動する。カーテンを開ければ、冬の夜空が広がっていた。

 残念ながらホワイトクリスマスにはならなかったらしい。まぁ、そう都合よくロマンチックなシチュエーションが起きたりはしないか。

 そんな事を思いながら彼を見ると、自然に目が合う。色は青紫ではなく黒。いや、微妙に鳶色か。私の大好きな彼の目だ。


「あの素敵な脳細胞と視神経は、メリーにしか似合わない。だからいいんだ。それに今は、君を見るのに全力だしね」

「クサイ。それこそ貴方に似合わない」

「わぉ、酷いや」


 カラカラ笑う彼の胸板に、コテンと頭を預ける。心臓が二人分。鼓動が混ざる。そのまま気がつけば、自然に言葉が漏れていた。


「辰。メリークリスマス」

「……うん、メリークリスマス。綾」


 雪は降らなくても、キスは降ってきた。

 プレゼントなら、もう貰えてる。貴方が私を見つめて。愛してくれているのを感じる……それだけでもう充分なのだ。


 だから私は……。もっと貴方と色んな事がしたいし、してあげたい。

 色んなものを見たいし、行きたい。

 だから……。


 もう一つ。マフラーと一緒に暖めていた計画を、私は彼に話す。

 彼は少しだけビックリしたような顔をして、でも楽しげに「いいね」と、呟いた。



 ※


「恐山? お兄ちゃんと綾お姉ちゃんが? 何でそのチョイス?」

「ええ、何でも、そっちの方には温泉もあるらしいし。他にもまぁ、色々ね。冬休みだし、旅行行こうかって話になったの」

「まぁ、決めたの三日前で、まだ現地とか調べてすらいないけどね。温泉旅館で年越しも悪くないかなぁって。先に僕らが行ってるから、よかったら後々ララ達もおいでよ」


 ファミレスでランチをつつきながら、私と彼が計画を話す。

 恐山。

 青森県の最北端に位置する日本三大霊場の一つ。え? 私が? と、言われそうなものだが、いくらオカルト苦手とはいえ、お墓参り位は行く。あくまでもお化け屋敷とか映画とか幽霊とか怪奇現象とか他多数が苦手なだけ。

 行くのだってお昼だから大丈夫。それに、目的を思えば、そこでなければいけないのだ。……ちょっと怖いけど。


「行くって、冬休み中に?」

「うん、その予定だよ。今日父さんや母さんにも話す予定」

「……えっと、お兄ちゃん? え? 素なの? 気づいてないの?」

「……何を?」


 彼が大好きなララちゃんの事だ。喜んでついてくるかな。と、思ったら、反応があまりよくない。どうしたんだろう? もしかして私と同じで少し怖いのだろうか。まぁ、でも恐山行った後は普通に温泉でのんびりするから、そこまで問題は……。


「ララちゃん日記。お兄ちゃんと綾お姉ちゃんが天然でした……まる」

「天然? おいおいララ。僕の相棒ならともかく僕に……ましてや綾は違うだろうに」

「ガチだー。この人ガチだー。ララちゃんは少し恥ずかしいです……まる」

「えっと、ララちゃん? どうしたの? 一体」


 ラチが空かないので、私が問いかければ、ララちゃんは少しだけ憐れみを浮かべた目で私達を見て。


「温泉はいいと思うよ。綾お姉ちゃんに浴衣着せれるし」

「当たり前だろう。全力で着せるぞ?」

「うん、手伝う。けどさ。恐山は無理でしょ。今十二月だよ? お兄ちゃん。冬の山ナメんな……まる」


「……あ」


 謀らずも、私と彼の声がシンクロした瞬間だった。

 季節は当然冬。考えてみたら観光地の山は、軒並み入山禁止の時期だったのである。

 



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