シュラバーは暴露大会と共に
「……彼、私が大好きなんです。いつも変態な行動やら言動ばかりして」
「……へぇ、具体的には?」
いきなりストレートに来た私へ、メリーさんは少しだけ顔をひきつらせながらも聞く体勢に入る。
「いっぱい愛してくれます。最近は何だか着せ替え人形みたいにされちゃって」
「ああ、竜崎さん、和服とか似合いそうだものね。私個人としては、警察官とかいいと思うわ。脚が綺麗だから、是非ミニスカートで」
「……何かもうシンクロし過ぎていっそ気味が悪いレベルにまでなってきたんですけど」
「今気づいたけど、竜崎さんなかなか辛辣よね。これがクーデレって奴かしら。あ、私にデレてもダメか」
「えっと……同性愛の気はない……筈です」
「真顔で返さないで頂戴な。ともかく……可愛い衣装を着せられる……と」
猫耳つけられた時、全てが終わった後に何してんの私。と思ったのは内緒だ。
でも、こうして彼氏好み(マニアックなのはともかく)の格好が出来るのも彼女の特権で……。
「そうねぇ。でも、男の人が格好いい衣装着るのもアリだと思うのよね。辰が着てくれた時、表には出さなかったけど少しドキドキしちゃったから」
「……にゃんだって?」
いかん、バカな反応した。
いやいやいや。何言ってるんだ。着てくれた? ……な、何で?
「あの、詳しく」
「以前の話だけどね。ハロウィンの時期にディズニーランドへ行った事があったの。仮装してね」
「……へ、へぇ。ち、因みに何の?」
「私がアリスで、彼がロビン・フッドよ」
何それ見たい。超見たい。
彼のも、メリーさんのも。
彼が何らかの仮装をしたなんて、小学校の学芸会位でしか見たことない。
てか、アリス? メリーさんがアリス? ダメ。絶対ダメ。反則だ。レッドカードで即退場……。
「メリー、凄く綺麗で、可愛い。僕なんかより君の方が、何万倍も素敵だよ。って言ってくれたの。彼だって凄く素敵だったのにね」
「…………ふーん」
彼の方を見る。早速この世から退場させ……るのはまずいので、取り敢えずキックポイント10追加。
「てか、仮装衣装なんてどうやって……」
「さぁ? 私は自分で用意したけど、彼の方はチートレベルで万能な先輩に、友達と仮装してディズニー行くって言ったらノリノリで作ってくれたらしいわ。本人は衣装売ってそうな店を聞くつもりだったらしいけど……その先輩に感謝ね。凄まじいクオリティーだったわ」
……牡丹先輩のことかぁあ! 何してくれてんのあの人ぉ! いや、多分悪気ない。まさか友達ってのが女性だなんてこれっぽっちも思わなかったに違いない。多分秋山君辺りだと勘繰っていたのだろう。ぐぬぬ。
「……そんな衣装、彼が隠してたなんて」
「あ、隠してる訳じゃないわ。ディズニーから帰るときに、私が貰ったから」
なん……だと?
「……理由は?」
「……黙秘するわ」
「写真とかは?」
「ないわね~。私、カメラうまく使えなくて。〝変なの〟が写るのよ。だから基本は心に保存よ」
「へぇ」と、低い声を出す私と、アルカイックスマイルを見せるメリーさんがそこにいた。
ディズニーランドに行ったは知ってたけど、まさか二人で仮装して行ってたとは。しかも、彼のそんな姿を独り占め。あまつさえ……あまつさえ残り香がついてるであろう服まで回収……!
したたか過ぎる。てか、行った理由はオカルト関係なんだろうけど、考えてみたらそもそもオカルトなんて非現実的なのが起こってたまるか! もはやそれデートじゃないかコンチクショウ!
「デートじゃないわ。検証よ」
「……ものは言いようですよね」
「わりと洒落にならない目にもあったけどね」
「……例えば?」
「……聞きたい?」
「……いえ、遠慮しておきます」
メリーさん目は……宝石みたいに綺麗だけど、やっぱり少し苦手だ。この世にあらざるものを連想する、青紫色。この色は、人の瞳に発現する確率は限りなく低いのだとか。
だからだろうか。
私とは違うものを視ているようで、どうにも落ち着かない。今回のお話だって、知らなくてもいい事を話されそうで。私は無意識に、話の深淵へ踏み込むのを拒否していた。
「私だって行った事あります。ランドも、シーも」
「あ、シーも素敵よね。個人的には雰囲気とかはあっちが好みだったわ」
……シーも行ったのか。
取り敢えずポイント20に。てか彼氏よ。いくらサークル活動とはいえ、メリーさんと行動共にし過ぎじゃないですかねぇ? いや、交遊関係が中途半端な範囲なのは知ってる。広く浅くをうっすらと。狭く深くをしっかりと。が、彼だ。高校の時もそう。色んな人と親しくはしていたけれど、彼がプライベート……。学校外で仲良くしていた友人は三人程だったから。
大学ならば、サークルやゼミ位が交流の場で、必然的に私以外ならそっちの人へウェイトが行くのはわかるけど。
「……髪フェチなの、ご存じです?」
「ええ、髪梳かすの、上手よね。一回だけしてもらったことあるけど、眠くなっちゃったわ」
ポイント40。「竜崎さんで練習したのね」と、微笑むメリーさん。練習も本番も私なのに……。たかが一回されど一回。すんごい悔しいのは、それがメリーさんだから? いや、ダメだ。たとえ他の人でもダメだ。もっとも、他の人なら彼がやろうとはそうそう思わないか。つまり……。
ポイント60。
「料理も上手なのよね。……こんな言い方嫌いだけど、所謂優良物件?」
「……否定しにくいですね。あ、わかります。私も物件で喩えるの嫌いです」
こうしてみると、鈍くて変態なの除けば……いや、それを加味しても私は理想が叶いすぎてるかもしれない。初恋は実らない何てよく言うけど、そんなことなかった。
「あ、でもある意味で心霊……いや、訳有り物件ね。視えるし触れるし」なんて要領を得ないことをメリーさんが呟いているのが聞こえたが、まぁよく分からないのでスルー。具体的には心霊って聞こえた辺りで耳に蓋をした。
しゅ、趣味は自由だから。それをどうこう言うのは、よっぽど酷いものでない限りは恋人であろうと口だすべきではない。
しかし……手強い。何と言うか予想以上に彼とメリーさんの心理的な距離が近い。むぅ……。何か、何かないか。
料理。ダメ。
お出かけ体験。向こうもしてる。
微妙なクセ。……知ってそう。
貰ったプレゼント。いや、何か自慢しても効果薄そう。
あれ? ノロケるなんて言っておいて、予想以上にネタが少ない?
じ、じゃあ、じゃあ……後は……。
「腕枕、凄い安心します。気がつけば寝ちゃってて……」
「わかるわ。何て言うか、離れがたいわよね。不可抗力でしてもらっちゃった時の話だけど」
おい待てコラ。何をどうやったら不可抗力で腕枕になるっていうんだ。
思いがけぬカミグアウトに、私は思わずからくり人形のようにぎこちなく、眠る彼を見る。……私達には背を向ける形で眠っているので、その表情は読めない。が、今はなんだろう。無性にひっくり返してやりたかった。
ポイント240。
「ひ、膝枕とか、してあげると喜んで……」
「あ、そうなんだ。されるのもまた、乙なものよ」
「エエ、ソウデスネ。ワカリマス」
野球は詳しくないけど、ツーアウト満塁で打席に立つバッターの気持ちが、今ならばよく分かる。
攻める気持ちはあれど、攻撃がふるわぬかもしれない残念な気持ちがだ。
てかおかしいだろう。何をどう拗らせたら膝枕する状況になったんだ。
「つかぬことをお聞きしますが、メリーさん。膝枕してあげたことは?」
「え? うん、あるわよ?」
「彼の反応や行動は?」
「特には。いつも通り普通よ。因みにしてくれた時も」
……取り敢えず良かった。太股に頬擦りしたり、おっぱいにタッチしてきたり、甚だしい時は揉みしだいてくるバカもとい、変態化は遂げなかったらしい。
まぁ、なってたら私が彼の心臓を揉みしだかなければならなかったけど。
でも取り敢えずポイントは360に。……てか、もはやこれ普通にイチャついてやしないだろうか? それに……。
「ああ、でも役得。とは言ってくれたわね」
「へぇ……そうなんですねー」
気のせいじゃない。多分メリーさん、吹っ切れてる。何かこう、遠慮がなくなったみたいな。
「もしかしてですけど……。ちょっと怒りました?」
「フフッ、ブーメランね。竜崎さん。別に違うわよ? ノロケるって言われて、ちょっとイラッときた訳じゃないわ」
「そうですか~。〝安心しました〟なんでしょうね。漸くメリーさんの人間らしさが見れたといいますか……。対等な立場になれた気がします」
「酷いわぁ、竜崎さん。既に勝ってる癖に対等だなんて」
「虎視眈々って言葉がとっても似合いますね、メリーさん? ああ、綾で結構ですよ?」
「あらそんな。姑みたいじゃない。畏れ多くて呼べないわ」
キャッキャ、ウフフ。と、ガールズトークを交わす私達。
楽しいから、彼も起きてれば良かったのに。きっと病など吹っ飛ぶし、体温も下がった事だろう。ああ、むしろ反応が見たい。何で風邪なのだろう。治って欲しい。
「一応、わ・た・し・が! 彼女な訳ですが、その前で膝枕やら腕枕したというカミングアウトをしたことについて、何か言うことは?」
「そうね。実は思い出したから、貴女にエピソードを話しただけで……。実際、くっつきたいな~とか、そういった下心は皆無よ。寧ろ、ほぼ無自覚でやって、忘れた頃とか、事の最中に恥ずかしくなるわ」
一番タチが悪いやつだコレー!
でも、汗拭こうとした時の自然な流れを見るに、無自覚なのは本当なのだろう。
「……あら、ノロケはおしまいかしら?」
「そ、それは……」
薄く笑うメリーさん。まだだ。まだ終わらんよ。てかこの人、絶対楽しんでる。くっ、こうなればもう捨て身だ。私だって恥ずかしいけど、へヴィーな一撃をくれてやろう。
「じ、じゃあ、取って置きを……!」
うう……、でもどうしよう。彼の弱いとこなんてメリーさんに教えたら……。何だろう。物凄い危機感がある。だからこれは却下。鎖骨が弱点だなんて、私だけが知ってればいいのだ。
じゃあ、じゃあ……。ベットだとドS。……恥ずかしすぎる。そんなの話せるか。
さ、最高記録は一日……いや、無理無理ムリィ!
ぐるぐる回る思考の中で、脳内にいる私の大群は、浮かべた提案に次々と否決の文字を掲げてくる。
纏まらぬ回路。結果、出てきたものは無難といえば無難なもの。
「……か、彼。左胸のとこに、小さな黒子があるんですっ!」
こ、これならば知り得まいっ!
脱がせた奴にしか分からぬ、秘密。肌を見せなければ見ることすら不可能な特徴を、友達。と・も・だ・ち。なメリーさんが知ってる訳は……。
「ああ、そうね。色っぽいなぁなんて思ったわ」
「……ふぇ?」
……あれ? あれあれあれ?
な、なんで? だって……。だって見るためには彼の服を脱がさなきゃ……。ま、まさか……。
私の脳内に、いつかのメイドさんなメリーさんが召喚される。書斎で彼と秘密の逢い引きを遂げたメリーさんは、蠱惑的な笑みを浮かべたまま彼のYシャツを……!
絶望的な妄想をしていることに気がついたのだろうか。メリーさんはしばらく私を見つめていたが、やがて堪えきれなくなったかのように笑い出した。
目元に涙すら浮かべた大笑い。こんな顔も出来るんだ。何て私が呆気にとられていると、メリーさんは静かに肩を竦めながら、すっと彼を指さして。
「着替え。看病」
「…………あ」
や、やっちまった。と、思った頃にはもう時既に遅し。茹で蛸のように真っ赤になる私を、メリーさんは微笑ましいものでも見るかのように眺め。
「思ったんだけど、意外とムッツリさんかしら?」
「……思っても言わない方がいい事ってあると思うんです」
ダメだ勝てない。何かこう……、色々と。やっぱりこの人、私の天敵に違いない。間違いなく。
項垂れる私。その頭に、ポン。と、柔らかな手を乗せられた。誰かだなんて、今更説明するまでもないだろう。
「凄く不思議な気分よ。こうして貴女と話してると、何故だかこうしたくなるの。憎いのに、憎めない。何なのかしらね、この感情」
「……バカにしてませんか? この扱い」
「そんなことないわよ。可愛いいなぁって。変ね。同い年だし、私、結構生まれ遅いのにね」
「何月ですか?」と、問う私に「十二月よ」と答えるメリーさん。成る程。ならば生まれた月的に、私の方がお姉さんだ。……こんなとこまで彼と被るのか。
そういえば、彼も昔は私をよく妹分扱いしていた事を思い出す。「お姉ちゃんだぞ! 敬えー!」何て叫ぶ幼少の私に、こうやって頭をポンポンしてきたのも、一回や二回ではなかったっけ。……それだけでご機嫌になる辺り、私のチョロさは昔からだったんだなぁ。なんて事をふと考えた。
「ちょっとメリーお姉ちゃんって……」
「言いませんよ! バカですか?」
「お、御姉様でも……」
「……蹴りますよ?」
「私は彼ほどタフネスないから、やめて欲しいわ。メリーさん死んじゃう」
ヨヨヨ……。と、わざとらしく振る舞うメリーさん。いかん、ノロケるつもりが、また彼女のペースになりつつある。
話を再開すべく私が顔を上げれば、そっと、メリーさんの指が私の口元に当てられた。
「本音を言えばね……奪えるとは思ってないわ。何となく、分かるの。だから、こんな牽制は無用よ。貴女がこうして私を感情的にしても、なんの意味もない」
青紫の瞳を細めながら、どことなく悲しげに彼女はそう呟いた。
それを見た時、私は、今なら言えるかな。なんて、何となく感じた。
「牽制も、ありました。けど、意味がなかったとは思えません。だって……メリーさんとお話しできたから」
「……私と?」
キョトンとした顔になるメリーさん。構わず続けよう。
「私は、彼女です。でも、彼の全てを知ってる訳じゃない」
「……全て知るだなんて無理よ」
「然りです。でも、私とメリーさん二人なら……もっと知れます。お話をする自体は楽しくできるんじゃないかな。そんな予感はしていたんです。現に私達は……こうして、変な話、修羅場に近いけど、妙な空気でもある。酷く曖昧な感じに」
「……まぁ、そうね。これ、何と名前を付けるべきかしら?」
面白おかしく、シュラバーとか、何て言うメリーさん。それを遮りつつ、「こうなるのは必然だったのかもしれないです」と告げると、メリーさんは静かに。ただ目で語るのみだった。
何故? と。
その答えは……。
「同じ人を、愛してるから」
彼を思うなら、メリーさんを恨み、憎みきるなんて出来ない。普通ならばおかしいと思われても仕方ない思考だろうか。
逆にメリーさんだって、彼を知っているからこそ、強引な手段なんて取らない。それでも、傍にいる事を選んだ。
そんな私達だから、こうして取り乱すことなく、話し合える。
私がそう語り、締めくくる。後に残されたのは、沈黙だった。
やがて、メリーさんは長い長い。まるで肩の荷を降ろすようなため息をついた。
「……どこまでも、辰を信じてるのね」
「当然です」
「そっか。じゃあ……」
私とお揃いね。と、メリーさんはふんわり花が咲くような笑顔を見せて。
「……私も、話せて良かったわ。改めて敵わないのを認識した。変な話だけど、何処かで必要だったのよね。これは」
「でも、身を引く気はないと?」
「……想うのは、自由でしょう? いつか、この想いが風化するかもしれない。貴女が、彼を信じられなくなるかもしれない。彼が私に気持ちを向けるかもしれない。大穴で私と竜崎さんが結ばれるかもしれない」
「最後っ!」
ああ、全く。真面目な話でネタを挟んでくるとこまで……! もぉっ!
ぷりぷり怒る私をカラカラと嘲笑うように受け流し。メリーさんは両手を胸の前で組む。
「生きていれば何が起こるかなんて、わからないわ。だからね。私は変わらず、辰とオカルトを追うわ。貴女に許されるなら、私はこれからも彼の相棒でいたいの」
ダメ? と、小首を傾げるメリーさん。
反則級に可愛いのはさておき。私の答えはもう決まっていた。
ので、変に焦らす必要もないだろう。
「……こんな摩訶不思議な関係を容認できるの、私くらいですよ? オカルトを追う二人の方が、よっぽどオカルト染みてます」
「…………凄いわぁ、竜崎さん。彼も話してたけど、変な方向で鋭いのね」
「……? なんでそんな微妙な顔になるんです? 一応OKの返事だったんですけど」
「え、あ……うん。……うん。ありがとう、竜崎さん」
戸惑いは一瞬で。静かに噛み締めるようなお礼の言葉と一緒にメリーさんは頷いた。
ふと時計を見れば、既に日付は変わっていた。大分話し込んでいたらしい。「そろそろ寝ませんか?」という私の提案に、メリーさんも同意し、私達は揃って立ち上がる。そこで……。
「あ、それからね……――――」
いきなり不意打ちのように、メリーさんの顔が近づいてきて。ハチミツみたいな甘い香りと一緒に、私の耳元で、彼女は歌うように囁いた。
戸惑いながら私が「え?」と目を丸くすれば、メリーさんは悪戯っぽい表情で綺麗なウインクをして。
「……私の、本当の名前よ。知っているのは親族を除けば、辰だけ。だから私の意志で、名前を知っていて欲しくて教えたのは、貴女で二人目よ」
「……いいんですか?」
「いいの。ほんの礼と、敬意と、私の希望よ」
渾名で名乗っていたのは、何らかの想いなり理由があったからではないのか。そんな大事なものを、彼以外で……私が知っていていいのか。そんな意味を込めてもう一度、確認するようにメリーさんを見れば、彼女はコクリと頷いた。
「彼と同じで。彼には負けるけど、貴女も特別なの。だから……〝綾〟よかったら覚えてて。私の事を」
それは、祈るような響きだった。
心を満たすような、不思議な暖かさを、私はどう喩えたらいいかわからなくて。だから私も彼女に答えるように。長く、どことなく壮大で、途中に日本姓まで入る彼女の名前を呼んだ。心に刻んだという意味も込めて。
「……うん、わかった。ちゃんと、覚えたよ。……忘れないわ、〝メリー〟」
恋敵か。ライバルか。彼とは違い、結局関係に明確な名前はつかなかったけど。
何となく、私達はこれでいいのだろう。
「あ、メリー。相棒は認めたけど、先に言っておくことがあるわ」
「あら、なぁに?」
そこで忘れていた事を思い出し、私は再度メリーに向きなおった。
「膝枕やら腕枕は……ギリギリ許すわ。不可抗力なら。けど、それ以上はダメよ!」
「それ以上?」
「き、キスとか。裸で……その、お、お互い裸になるとか!」
「……素直にキスやセックスはダメって言えばいいのに」
うるさい恥ずかしいんじゃあ! ともかく、そこら辺はしっかりとしてもらわねば困る。まぁ、流石に彼とメリーさんとはいえ、そこまでは……。
「あ~、うん……綾。隠し事嫌だから、正直に話すわね」
「…………ふぇ?」
……何故、気まずそうに目を逸らす?
……何故、そこで顔を赤らめる?
……何故、いじらしく指をもじもじさせている?
ま、まさか……!
「あの……しちゃってるの」
……あ。え?
「な、ナニを?」
「えっと……」
口ごもりながら、深呼吸して、メリーはひきつった笑みで。
「キスと……お互い裸」
本日最大の爆雷を落としてきた。
ち、ちょっと待って、それは……! それは……!
「あ、誤解しないで。キスは彼が寝てる間にこっそりだし。裸は……お互い見ちゃったのは事故みたいなもので……変なことは、まぁ多少あったけど、一線を越えた訳じゃ……」
私には、もう何も聞こえなくて。
「ア……ア、ア……アウトォォオオ!」
「ホギャァアアァアン!?」
結局。キックポイントが一億点溜まり。
眠っていた彼に踵落としが突き刺さった。
……ごめん、やっぱり私は鬼になってしまったよ。
「私、メリーさん。今は反省してるの。キスはもうしないわ。……多分」
そうして、たとえ多少打ち解けても、メリーはやっぱりメリーだった。




