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彼氏が変態過ぎて困ってる  作者: 黒木京也
日常編その3
40/65

愛の形

 愛の形は人それぞれ。どんなものかも人それぞれ。

 それは言葉であったり、なんらかの行為であったり。物だったり、もしかしたら概念なんて曖昧なものかもしれない。

 私と彼ならば、どうだろうか? 

 蹴っては受け身……何かアブノーマルだ。でも、たまに照れ隠しが入ってたりする。彼いわく、「君の愛が痛い」……らしい

 彼が変態な発言をして、私がそれを一刀両断。……何か日常だ。いや、でもだからこそ愛と呼べるのかも。……たまに理解不能なものがあるけれど。

 ベットでのプライベートな時間。……いや、止めよう。語るには恥ずかしい。そりゃあ色んな意味で愛し合ってるけども。確かに幸せを感じるけども。なんかもう身体中がきゅんきゅんしてどうにもならなくなるけども。……暴走しそうだからこの辺で。


 ともかく……。


「綾~そろそろ許してよ~。血が。血が上るよ~。脳に行くよ~。このままだと、頭蓋骨突き破って誰得なグロい僕が誕生しちゃうんだけど」


 今私は部屋にいて。彼は通販で買ったぶら下がり健康器に逆さまに吊し上げられている。これも当てはめようによっては愛の形に入るのだろう。……多分。


「何でこうなったのか分かってる?」

「猫耳とか尻尾とかグローブつけた君が可愛くて、四足獣の如くにゃんにゃんしちゃったのは謝るよ。いや、でも君が悪い。似合うんだもん」

「……それは二週間以上前でしょう? 今は関係ないわ」


 今思い出してもあれは恥ずかしい。取り敢えずあの時言っちゃったこと、やった事は全て黒歴史認定なのだけれども、そんなのはどうでもいい。


「違うの? じゃあ、初めて一緒に焼肉屋さん行った帰りに、些細な事で喧嘩して……その後仲直りにいっぱいカロリー消費した事とか?」

「……それは一週間前よ。てか、喧嘩っていうより、あれは……」


 私が盛大に拗ねただけだ。そういえば、小さい時はともかく、大きくなってから喧嘩はした事はあまりない気がする。彼が余り怒らないというのもあるけれど。……こう言うと、私が何だか子ども見たいで物凄く悔しい。

 拗ねた理由? 察して欲しい。何だよ。私が初めてだと思ってたのに。げに恋人と友達……と・も・だ・ち。の境界は複雑だ。


「あ、あれか! 僕が晩御飯のパスタに、君が楽しみにしてたミニトマトを使っちゃって……」

「それは五日前! てか、そんな事で…………つ、吊るさないわよ」

「いや、今の間なんなのさ。今の間は。怖いよ!」


 うるさい。食べ物の恨みは恐ろしいのだ。私がおやつに取っておいたミニトマトをパスタソースの材料に……許すまじ。

 結局パスタは美味しかったけど。


「う~む。じゃあ……。あ、僕がバイト先に迎えに行った時の事? 恥ずかしかった? もしかして恥ずかしかったの? 彼氏と一緒にお先に失礼しま~すって言うのが! もう、綾ったら照れ屋さ……がふぉあ!?」


 取り敢えず。健康器ごと彼を回し蹴りで吹き飛ばす。サンドバックよろしく戻ってきたらラリアット辺りを決めようかとも思ったが、所詮通販の健康器。彼をサンドバックに……いや、支えることは出来なかったらしい。

 壁まで飛んでった彼は、健康器と一緒に仲良く床に不時着し、ぐえっ。なんて、潰れた蛙みたいな声を上げた。


「それは三日前。てか、その日のゴタゴタは、その日に片付ける主義なの。つまり私が辰をお仕置きしていたのは、今日起きた事よ。OK?」

「オ、オッケィ……」


 踏んづけられているのに何故か嬉しそうにしながら、彼は親指を立てる。

 いつもならここでスカートの中を覗かれるものだが、今日の私に隙はない。ショートパンツならば下着を見られる事も……。


「ああ、持ち上げたおみ足によって、僅かに裾から覗くチラリズム……。下手なスカートよりずっとエロいよね! というかショートパンツにニーソで踏みつけとか御褒美だよね? 全力で僕を喜ばせに来てるよね? しかも本日は淡い水色……オギャン!」


 ないことはなかったらしい。もう腹が立つんだか、逆に感心するんだか分からなくなってきたので、私はさっさと結論を告げる事にした。


「……ねぇ、貴方が私に今日言った台詞。思い出してみて」

「え? え~っと。……ピクピクしちゃってるね。凄く可愛いよ……綾?」


 サラリと。私の脚を優しく撫でながら、彼はそう囁く。ボフン! と、顔から火が出る錯覚に陥る。い、いや、確かにそれは今日だけど! 具体的には夜中の0時過ぎた辺りだけれども!

 そうじゃない! というか、声色まで変えるな色っぽい……じゃなくて、いやらしい!


「私は! つい! さっき! 言ったことに関して言っているのよ!」

「あだだだだだだ! 痛い! 痛い! 綾、痛い!」


 某変態五才児の母親宜しく、彼のこめかみを両の拳でギリギリと締め削る。……かなり痛いとは思うので、一応加減してるけど、それでも充分すぎる威力だったらしい。


「け、けどさ! あれは男のロマンなんだよ! 彼女持ちには特に!」

「何個あるのよ男のロマン! その度に私は振り回されて……その」


 途中恥ずかしくなって尻すぼみになる私の声。対する彼は痛みで涙目になりながら、ガシッ。と、私の両肩を掴み……。


「さぁ、綾! 浴衣着てお祭りに行こう! 大丈夫! 着付けは僕がじっくりねっぷりやってあげる! 帯引っ張ってあ~れ~! とかも忘れないさ! チョコバナナを君にあげるから、その可愛いお口で……いや、リンゴ飴も捨てがたいっ! あと下駄の鼻緒直しながら君のおみ足を拝んだりとか! 花火の元で艶めく綾のうなじをガン見したりとか! 人気のない神社裏で綾の浴衣を乱してそのまま……」

「だから……! お祭りに行こう。で切れぇ! この変態!」


 首を絞めても、彼はお構い無し。見たいんだぁ! と叫ぶのみ。

 何てことはない。今までお祭りに行くにも浴衣を着て行った事はなかったから、是非そうしたい。そんな要求を帰るなりされた。それだけの事だった。

 勿論、私だって興味がない訳じゃない。けれど何でこいつはこう、無駄な欲望を付け足してくるのか。

 愛の形? これは違う。断じて違う。筈なのに。


「いや、君に浴衣。もとい和服が最強なのは揺るぎない事実な訳で……」

「今までの事を思い返してみて。私に眼鏡は?」

「最強」

「猫耳」

「最強」

「水着」

「文句なしに最強。ビキニ、競泳水着。どっちも最高でした」

「セーラー服」

「果てしなく最強」

「……ナース」

「もう最強。ミニスカポリスも可」

「メイド服」

「歪みなく最強」

「メイド服。メリーさんには?」

「最凶」

「……むぅ。ベビードール」

「僕が死ねるくらいに最強。ガーターもつけよう」

「チャイナドレス」

「即死亡」


 もう、何も言うまい。


「あ、今度是非ともカウガールルックを……」

「死ねぇええ!」


 本日二度目の空中浮遊。彼と私の愛の形は、やっぱりこんな感じな気もしてきた。だから。


「……浴衣。何色が好き?」

「…………ッ! 着てくれるの!?」


 直ぐ様リカバーする彼にため息を漏らしながら。私は彼と並んで床に腰掛けた。

 何処からともなく取り出されたタブレットを見る。折角だ。彼にも着てもらおう。絶対似合う筈だから。

 もしかしたら私がどうにもならなくなるかもしれないのは……。目を背けておこう。


 結局。お祭りに行こうで切るどころか、全部やってしまい、封印したい思い出になってしまうのだが……。ここでは語るのは止めておこう。

 彼が死ぬほど嬉しそうだったから、それでいいじゃないか。……花火みたいに弾けてしまえ。と、思いながらも流された私も私だけれど。

 夏で暑いから仕方がない。恥ずかしながら私もその暑さにやられてしまっただけ……の、筈だ。うん、そうだとも。

 



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