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彼氏が変態過ぎて困ってる  作者: 黒木京也
日常編その3
35/65

同棲中な大学生カップルの休日

 同棲していて、休日は何をするのか。と聞かれると、言葉に窮するものやら、さらりと話せるものまで色々ある。


 お買い物デート。

 普通に何処かへ遊びに行く。

 DVDを大量に借りてきて、鑑賞会。

 お料理を振る舞う(私達の場合は彼の方が)

 大学生らしくレポートに追われる。


 等が、パッと思い付く理由。

 だが、彼との同棲ももうすぐ一年と少し。それなりに長いと、こういった事全てに該当しない事。所謂、何もしない日というのが出てくる。

 つまりは、リビングで自分達の好きなことをするのだ。私ならテレビを見たり、サークルで出展する作品を考えたりする。彼ならば、定位置なソファーで読書をする。私にちょっかいを出してくる。等だろうか。


 彼氏彼女で何て色気のないことをと思われるかもしれないが、お互いに苦痛でない沈黙を過ごしたり、目的もなくのんびりする事が出来るのは、わりと貴重だと思う。

 この事を牡丹先輩に話したら、「自慢か! もはや夫婦の域に片足を突っ込んだ自慢かぁっ!」なんて怒られた。理不尽だけど、夫婦って単語にドキッとしてしまったのは内緒だ。


 さて、そんなこんなで迎えた休日。

 メリーさんの一件で情けない醜態を晒しながらも、彼との二人きりな連休。バイトが互いにない。用事もない。という訳で、寝る前に彼に引っ付きながら「……明日も明後日も、思いっきり甘えるから」そう宣言した。


 それがトリガーだった。


「何なの君もう! 僕を殺すの? 萌え死にさせるの?」

「え? ちょ、何言って……きゃん!?」


 彼曰く、珍しく私が積極的で理性がヤバかったものの、無理させるのも忍びないし、ついでにその日は気分ではなかったのだとか。

 だけど火がついちゃってどうしようもないごめんなさい何て事を言っていた。


 ……それが火種だった。


 私の中で、何かがメラメラと燃え上がった。それは、彼と彼の部屋についた蜂蜜のような香りだとか、私が見た光景がまた思い起こされて……。そんなの見た後の気分でなかった宣言は、もしかして彼女と会った後はいつもそうなの? 何て邪推にまで発展し……。

 色々と負けるもんか。という感情が爆発した。


 結果……。


「……あれ?」


 気がつけば、ベットの上で次の日のお昼を迎えていた。


 ……大学生で同棲していると、休日の過ごし方は色々。

 それには……その……結構イチャイチャしてたら一日が終わる日も結構ある。……恥ずかしいから詳しくは話さないけど。


 お買い物デート中に燃え上がって。

 何処かへ遊びに行った帰りに。

 DVD見ているうちに、内容そっちのけで。

 お料理してた彼が、私を料理し始めたり。

 レポート書いてて、休憩したり。


 ……ん? 今更だけど私達、いつもイチャイチャしてないか?

 素っ裸のまま、彼の胸板に顔を埋めていたら、そんな考えが浮かんできた。

 それを彼に話したら、何と肩を竦めながら何処と無く苦笑い混じりに。


「僕にも原因があるけど、綾にも原因があるからね?」

「……うるさい。辰がいつも私を狂わせてるんじゃない。……毎回おかしくなるくらい何回も……」

「……またそうやって無自覚にエロイ事言う」


 ため息をつかれた。……何でだ。そんな事言ってないのに。彼の頭はお花畑だったらしい。

 息を吐き、身体を弛緩させる。

 上気した互いの肌が熱い。季節は夏と言っても過言ではないくらい暑いので、私も彼も汗だくだ。


「お酒が入ると女の子は感度があがるらしいけど……」

「……何が言いたいの?」

「いや、ぶっちゃけ夕べと起きてからの綾がエロすぎて……多分このままいけば最高記録……ホゲェ!?」

「死ね」


 顎に拳を当てれば、彼は面白い位悶絶した。

 恥ずかしいこと言うな。

 そりゃあ、止まらなかったけれども。

 過去に類を見ないくらい歯止めが効かなかったけれども。

 チラリと、ベット脇のゴミ箱やら、床を見る。

 ……痕跡が目について頬が熱くなって、そこでエアコンも何もつけていなかったことに気がついた。


「……お風呂はいろ?」

「そうしよう」


 ついでとばかりに、ベットのシーツを引き剥がす。

 取り敢えず……蜂蜜の匂い駆逐完了だ。

 我ながら狭い心だとは思うけど……。今日は私が彼を独り占めしてやるのだ。友人だろうと。ゆ・う・じ・んだろうと、入る余地はないのである。


 ※


 シャワーで身体を流し、洗いっこを所望する彼の喉を突き。

 でもシャンプーからトリートメントまでやって貰った手前仕方がないので多少の悪戯は容認し、現在は湯船に入っている。

 後ろから抱き締められる形でお湯に身を沈めていると、無意識のうちに口からリラックスしたかのように吐息が漏れた。

 暖かくて、幸せで、思わず彼に完全に寄りかかる形で身を委ねてしまう。ほどよく硬い彼の身体。私のうなじに顔を寄せるものだから、ちょっとくすぐったくて身をよじってしまう。お返しに彼の顎を甘噛みしてやると、上から蕩けるようなキスが降ってくる。身体の奥から潤っていくような安心感に、思わず私の肩と腰がピクンと反応して……。


「ときどき思うんだ。僕の生活、これ何てエロゲーって」

「人が幸せと安心感に浸ってるときに何を考えてるのよ」


 軽く頬をつねってやると、彼は「だってさぁ……」と、顔を綻ばせる。


「たまに怖くなるよ。こんなに幸せでいいのかなって」

「……ほんとにぃ?」 

「いや、何でそこで疑いの言葉がでるのさ」

「……だって」


 彼が頬をひきつらせるのを横目に、私は彼の手を取り、適当に弄り始める。

 まただ。また、彼を困らせるようなことを言ってしまう。けど、胸の内を明かさないと私はどうにかなってしまいそうで。

 この辺は彼と私は真逆だと思う。


「私は……貴方と同じ世界を共有できないもの」


 それは彼にとって、不幸なのではないだろうか? その考えが拭えない。すると、彼は無言で私の肩に顎を乗せた。


「……見たいの? 一緒に」


 耳元で囁かれるその言葉に、ゾクリとした戦慄が走る。彼の表情は見えない。見ようとしたら、手のひらで目を塞がれて。真っ暗な視界の中で、私は再び彼の声を聞く。


「とある山中でのお話だ。ある狩人が山に入った。目的は鹿。だったのだけど、彼は誤って人間を撃ってしまった」


 唐突に噺が始まった。私が戸惑うなか、彼の声がお風呂場に反響し、嫌でも私の耳に入ってくる。


「罪を咎められるのを恐れた彼は、死体を山の獣達に食わせ、逃げるように下山した。バレる筈がない。彼はそう思っていた……自分の家の周りを獣が彷徨き始めるまでは……っと、この辺で止めておこうか」


 震え始めた私を察してか、彼はいつもの優しい声でそう言うと、私の目から手を離し、そのまま頭を撫でてくる。


「ねぇ、綾。僕はね。君が想像している以上に君が好きなんだよ? そのまんまの君が好きなんだ」


 私がその言葉でどれだけ舞い上がってるか。彼は分からないだろう。諭されているような口調と、子ども扱いするような頭を撫でる手が気恥ずかしくて、私は無言で小さく頷いた。すると彼はホッとしたように息を吐いた。


「不安に……させてるよね。やっぱり」

「うん、凄く。でも……止めてなんていわないわ」


 それは、彼を縛り付けるもの。彼が彼であることを止めろと言うのと同義だ。逆に私が止めてと言ったらどうなるか……は、怖くて聞けなかった。受け入れなかったら、きっと私と彼の関係は終わってしまうのだろう。仮にそれを彼が受け入れたとして。成る程。私の不安はなくなるだろう。でも、彼はきっと私の知らないところで苦しむに違いない。

 それは……嫌だ。

 そんな事を考えていたら、いつの間にか彼に引き寄せられていた。正面からしっかりと抱き締められ、私の身体が歓喜で震えるのが分かった。パプロフの犬もビックリだ。


「……僕はね。君が好きだよ」

「うん」

「……でも、オカルトを追うのも止められない」

「うん」

「どちらかが欠けても駄目なんだ。どうしようもない」

「知ってるわ。ほんと、しょうがない人」


 そして私もしょうがない女だ。

 彼がもう少し器用だったらと思うとゾッとする。そうしたら、私とメリーさん両方を弄ぶに違いない。

 そんな事を冗談混じりに喋ったら、彼はポカンとした顔をして、そのまま大笑いし始めた。


「いや、ない。ないね。だって君、勘は鋭いし、バカでもないじゃないか」

「……どういう意味?」


 私が首を傾げると、彼は私の顎の下を優しく掻く。

 ……気持ちいいんだけど、扱いが犬みたいだ。


「僕が仮にそんな事をしたとしたら、君は直ぐに察するだろう。そして、そのままズルズル関係を続けはしない」

「まぁ……言われてみればそうかも」


 百八の蹴り技と、二十三回くらいありとあらゆる関節技(サブミッション)をかけて。持てる投げ技全てを出し尽くした後に、お皿に盛り付けて都会の雑踏に円盤投げしてやろう。


「……浮気する気はないし、そこまで器用じゃないけど、肝に命じておくよ」

「よろしい」


 顎下の手を払いのけ、私はお返しに彼の頭をワシャワシャする。

 こそばゆいのか逃げようとする彼が少し可愛かった。


「それに、メリーと僕は間違ってもそうならないよ。仮に僕が君とメリーで二股をかけようとしたら、彼女は僕を見限り、離れていくだろうね」


 間違いなく。と、断言する所に、随分と信頼が込められてるなぁと思いつつ。私はメリーさんと彼がいても、嫉妬こそすれ彼から離れようと思えない訳が、分かったような気がした。


 彼は私を裏切っていない。それがわかるから、私は彼の傍にいるのだろう。自分で言ってて暴論に聞こえるけど。

 それと同時に、敵の強大さを自覚する。

 二股は許さない。けども彼が好き。これはつまり、彼の気持ちが私から離れ、完全にメリーさんに傾けば、彼女は容赦なく彼を持っていくとも取れてしまうのだから。


「のぼせちゃいそう」

「ん? そろそろ上がろうか?」

「……運んで」

「お風呂場は危ないから、出てからね」


 だから、さりげなく甘えてやる。分かりづらい愛情表現かもしれないけど、知ったことか。

 上気した肌を上がり湯で流し、脱衣所へ。バスタオルで髪と身体の水気を優しく拭ってもらう。そのまま、私の要望通り、お姫様抱っこでリビングへ。そこを素通りして私の部屋へ……。あれ?


「な、何でベットに運ぶのよ!」

「ん? いや、僕の部屋のはシーツ取っちゃったし。あ、安心して! 君をペロるのは髪をしっかり乾かした後に……」

「さばおりをかけてみようと思うの」

「髪乾かしたらご飯にしよう! うん!」


 せっせとドライヤーをセットする彼。ベットに腰掛けた私の髪に優しい温風が吹き掛けられる。

 櫛が入るのは、もう少し乾かしてから。彼は髪を梳かすのが上手い。……自惚れでなければ、私で練習したから。

 心地よい時間に眠らないようにしていたら、私は起きてからずっと互いに裸だった事に気がついた。


「服……着なきゃ」

「一日中裸もありかもよ? 暑いし」

「嫌よ恥ずかしい」


 それじゃ本当にバカップルみたいではないか。そう私が言うと、彼は今更だなぁ何て言いながら笑う。

 ムカついたので足の小指先にデコピンを当てておこう。

 そのまま沈黙が流れる。お昼御飯何がいい? と、問う彼に私も一緒に作る。と答えると、彼は嬉しそうに頷いて。


「じゃあ是非裸エプロンを……」

「返り血つきの?」

「じ、じゃあ裸Yシャツエプロンとか最強だと思うんだ。ニーソ装備で」


 ……まぁ、それならいいか。

 少し乗せられた感じはあるけれど、私が甘える以上、彼の要望にもある程度応えるのが筋だろう。


「その格好で甘えていいの?」

「やめてください僕が死んでしまいます。い、いや! やっぱりお願いしますっ!」

「……ばか」


 でも大好きだとは、言わぬが華だろう。

 私と彼の休日はまだ初日。これから彼がギブアップしたくなるくらいには甘えてやるんだ。

 さてはて、耐えきれなくなるのはどっちやら。


「多分僕です。で、綾は可愛くも流される訳ですね。くやしい……でも感じちゃ……うげばぁ!?」


 今日の制裁は空手の弧拳。本来は相手の攻撃や武器を跳ね上げる拳だけど、後方の不届き者に当てる使い方もあり。鼻を抑える(バカ)がのたうち回るのは、やっぱりいつもの光景だった。 

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